「チャイナリスクに気をつけろ!」ファンドマネジャーが電話口でそう言った。彼に限らず、ウォール街の市場関係者の米中貿易戦争への警戒は根強いものがある。EU(欧州連合)との貿易戦争は回避したものの、「米中」については一向に改善の兆しが見られず、むしろ着実に悪化している印象を受けるからだ。「トランプ政権は11月の中間選挙を見据えて『中国叩き』を一段と強めるのではないか?」(同)との観測もチャイナリスクを警戒させる要因だ。

「チャイナショック」は再来するのか?

中国の代表的な株価指数である上海総合株価指数。同指数は8月1日現在で今年1月の高値から21%も下落している。注目されるのは前年の同じ時期と比べても15%程度下落していることだ。米株式市場も年初からの伸びは限定的だが、それでも前年水準は大きく上回っている。世界的に見ても前年水準を下回っている主要株価指数は少なく、裏を返せばそれだけ中国株式市場は深刻な状況にあると言える。

中国株に直接的な打撃を与えているのは米中貿易戦争の動きだ。トランプ政権は7月上旬に2000億ドル相当の中国製品に対して10%の関税を適用する方針を明らかにしたが、7月31日には「税率が25%に引き上げられる可能性がある」とも報じられており、状況は改善されるどころか悪化の一途を辿っているようにも見受けられる。

さらに株価と並んで警戒されるのが、人民元の下落だ。人民元は4月中旬の1ドル=6.2元から8月1日現在は6.8元と約10%下落している。特に6月中旬以降に6.5%以上も下げており、ウォール街では「今後さらに下げ足を速めるのではないか?」との声も聞かれる。人民元の下落は2015年8月の「チャイナショック(人民元の切り下げをきっかけとした世界同時株安)」を連想させることから市場関係者は気が気でない。

人民元の下落は中国からの資本流出の証左と考えられ、人民元安が株価の下落を引き起こし、株安がさらなる人民元の下落を招くスパイラルともなりかねない。

米国は世界の経常赤字の4割占める

FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げを継続していることも、人民元安に拍車をかける要因だ。7月31日から8月1日に開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)でも漸進的なペースでの利上げの実施が確認されており、9月と12月のFOMCでの利上げが規定路線となっている。

ところで、IMF(国際通貨基金)によると世界の経常赤字は米国と英国に集中しており、中でも米国の赤字は世界全体の4割を占めている。一方で経常黒字はドイツ、日本、中国に偏っている。こうした不均衡を背景に経常赤字国、すなわち米国が輸入制限など保護貿易主義的な政策を取ることは「世界の成長に深刻な悪影響を及ぼす」とIMFは警告している。

米保護貿易主義やFRBの利上げが中国の金融市場を揺さぶっており、その影響は他の新興国へと波及している。だが、ウォール街の市場関係者が最も恐れているのは「回りまわって米国自身が危うくなる恐れがある」ことなのだ。