キャリア
2020/03/08

【弁護士に聞いた】パワハラ被害にあった時に取るべき行動とは

仕事をしていると、ときに理不尽な目に遭うこともあるもの。そのひとつが、上司などによる職場でのいじめ・嫌がらせなどのパワーハラスメント、通称「パワハラ」です。もしかしたら、「仕事のできないわたしが悪いのかもしれない……」と感じることもあるかもしれませんが、度を超えたノルマを課されたり言葉の暴力を浴びせられたりするのは、見過ごすべきではありません。

では、実際に自分が被害に遭ったときにはどんな行動を取ればいい?証拠として有益なのはどんなもの?お金がなくても裁判は可能?東京・千代田区の奥川法律事務所に所属し労働問題に詳しい伊藤尚(ひさし)弁護士に伺いました。

LINEやメールでの通信やカルテなどの記録は重要な証拠となり得る

――まず、そもそもパワハラを経験したことがある人は多いのでしょうか?

伊藤尚弁護士(以下、伊藤):会社という組織の中で仕事する以上、上司や同僚、取引先の担当者などとのコミュニケーションを完全に避けることはできません。しかし、その中で誰もが一度は「この上司の態度はパワハラかもしれない……」と感じたことがあるのではないでしょうか。

たとえば、深夜までかかっても終わらない仕事を押し付けられ、「断れば評価を下げられるかも」という場合もあるでしょうし、実際に断ったところ、「仕事するスピードが遅いから悪いんだよ」などと罵られるなどもあるでしょう。

また、プレゼンで失敗した部下に対して「使えないやつ!」などの暴言を浴びせる例もありますし、肉体的暴力を振るわれたという事例もあります。

でも、実際にこのような行為があったとしても、相手の行為や発言に対して裁判で損害賠償請求が認められるかは難しいところです。

裁判で損害賠償請求が認められるためには、「その人がどう感じたか」ではなく、違法な行為がおこなわれたこと、具体的には「職場においておこなわれる優越的関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されたこと」を証拠によって立証する必要があります。

――どのような証拠を用意すれば、法的措置をとることができますか?

伊藤:まず、法的措置を取るとすれば訴訟や労働審判を起こすことになりますが、訴訟や労働審判に勝てるかどうかは証拠によってパワハラの事実を立証できるかどうかにかかっています。

証拠がなければ、裁判所でどれだけ強くパワハラの事実を主張しても、加害者から「そんな事実はありません」と反論される可能性があるからです。

その上で、証拠として残しておきたいのは、メールやLINEなどでのやりとりです。相手から削除される可能性があるものは、そうなったときに困らないようにスクリーンショットなどで保存することも大切です。

業務と直接関係ないこと、たとえば接待ゴルフに無理やり付き合わされたなどの記録もしっかりと残しておきましょう。

また、パワハラを受けたことで体調を崩して病院にかかった場合は、医師が作成したカルテなどの医療記録も有力な証拠になります。また、わたしのところに相談にいらした方の中には、上司との会話の録音データを保存されている方もいます。

秘密録音が適切な行動かどうかはともかく、これらの客観的証拠は裁判において重要な証拠となり得ます。

証拠がない場合、日時や場所を詳細に記録したメモが有効

――メール、LINEの記録、録音データなどの証拠がない場合はどうすればいいですか?

伊藤:その場合は、パワハラを受けた時点で、いつ、どこで、誰から、どのような暴言や暴力を受けたのか、そしてそこには他に誰がいたのかをメモしておくといいでしょう。

証拠が何もなければ、裁判において被害を受けたことを立証するのは難しいですし、訴訟を起こす段階になって初めて当時の記憶を思い起こそうとしても、日時も場所も曖昧であれば裁判官からの信用を得にくいです。

相談者の中には、「同僚の●●さんが見ていました」という人もいますが、これに関しては、わたしは有力な証拠と考えません。

なぜなら、確かにその同僚が法廷に出廷して事実を証言してくれれば価値の高い証拠になるかもしれませんが、仲のよい同僚であったとしても自分が働く会社相手の裁判に出廷することで、会社に不利な事実を証言する人は少ないからです。

――裁判を起こしたい場合、どのくらいの費用がかかりますか?また、裁判費用の捻出が難しいときはどうしたらいいですか?

伊藤:パワハラを受けて法的手続きを取る場合、一般的には、弁護士に依頼する時点で発生する「着手金」、裁判所に納める「手数料」などの実費が必要となる他、裁判手続き終了後には弁護士に支払う「報酬金」が必要となります。

弁護士費用は弁護士によって異なりますが、「着手金は相手に請求する額の●%」「報酬金は裁判所で認められた額の●%」といった形で決める弁護士が多いです。請求する金額によりますが、裁判を始める段階では20~30万円が必要となることがほとんどです。

しかし、一括で払えないからと諦めなくても大丈夫です。分割払いに対応している弁護士もいますし、着手金を抑えてもらえるケースもあるからです。

また、法テラスや弁護士会の法律相談を利用すれば弁護士費用の援助を受けられる場合もありますし、弁護士をつけずに自分で裁判に挑むことも可能です。

しかし、法廷にはさまざまなルールが存在しますし、必要な証拠を選択して有効な主張を立証するためには、弁護士をつけたほうが有効な場合もあります。

慰謝料の他に、「逸失利益」「病院での治療費」も請求できる

――慰謝料はどのくらい請求できるものですか?

伊藤:慰謝料とは、精神的損害を金銭的に評価したものをいいます。金額にすると10万円に満たないこともあるので、仮に勝訴してもコスト倒れになりそうな事案はたくさんあります。

パワハラで損害賠償請求をする場合には、慰謝料の他に、パワハラが原因で病気になり出勤できなかった場合の逸失利益(=パワハラがなければ得られたはずの給料相当額)、病院にかかった場合の治療費なども請求することが多く、これらが認められると金額としては高額になることもあります。

また、たとえば「残業を減らしてください」と要求したところ、次の日からまったく仕事を与えてもらえなくなって給料がダウンした、などの分を取り返せる場合もあります。

一般的には、訴訟を始めると裁判終了までに1~2年はかかるもの。ご本人の負担は相当なものですし、少なくとも裁判が終わるまではご本人の気持ちがパワハラから解放されることもないでしょう。
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