国際IT企業によるベンチャー投資が加速しているが、これら大手の舵をとる大物CEOや設立者は個人的にどのようなベンチャーに、どのような手段を用いて投資しているのだろう。

純資産908億ドルというビル・ゲイツ氏(フォーブス誌2017年12月23日データ)は、自身の投資会社を通してさらに資産を巨大化させ、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOも同様の手段を用いている。

そうかと思えばアップルのティム・クックCEOは唯一、インターネットやスマートフォンとは無縁の高級シャワー企業に投資するなど、同じITセクターのトップでもそれぞれの投資に対するスタンスは大いに異なる。

ビル・ゲイツ――「最強のファンドマネージャー」へ委託するかたわら個人投資も

世界一の大富豪の座を長年にわたり維持してきたビル・ゲイツ(Bill Gates)氏 。マイクロソフト(Microsoft)の会長の座を退き、慈善団体ビル&メリンダ・ゲイツ財団の運営に専念している現在も財産は増え続けている。その秘密は、自身が1994年に設立した投資企業カスケード・インベストメント (Cascade Investment)にあるといわれている。

カスケード・インベストメントを通し、ゲイツ氏の財産やビル&メリンダ・ゲイツ財団の基金を膨らませているのは、チーフ・インベストメント・オフィサー(CIO)のマイケル・ラーソン氏だ。 ウォールストリートジャーナルが2014年に報じたところでは、 ゲイツ氏の財産を50億ドルから820億ドルに増やした「知らさざれる最強のファンドマネージャーの一人」である。ゲイツ氏のプライベート投資アドバイザーでもあり、米国の分散クローズド・エンド型投資信託「ウェスタン・アセット/クレイモア・インフレ連動オポチュニティ・インカム・ファンド」などのマネージャーとしても知られる。

ラーソン氏に関しては情報が少なく、謎めいた部分が多いが、ゲイツ氏の信頼を一身に受けている人物だという。ブルームバーグに掲載された情報 によると、過去にはカナダの銀製品大手パン・アメリカン・シルバーでCIO、英国のハリス・インベストメント・マネージャーで債券投資部門のシニアパートナーなどを務めていたようだ。

しかしゲイツ氏自身も活発に個人的な投資を続けている 。2 017年だけでも、日本の味の素とも提携しているバ イオテック企業ギンコー・バイオワークス、人工肉を開発しているメンフィス・ミーツ、植物肉バーガーのインポッシブル・フーズといった食品関連スタートアップから、ホログラムビーム形成技術のピヴォ―タル・コムウェアや機械学習セキュリティーシステムのエヴォルヴ・テクノロジーを筆頭とする技術系、果てはオンライン署名サイトを運営するチェンジ・オーグなどへの投資で社会問題にも取り組んでいる。インポッシブル・フーズには2015年、チェンジ・オーグには2014年にも投資している。

ジェフ・ベゾス(Amazon)――自らのVCと個人投資で財を増やす

「アマゾン帝国」を築いて新たな世界一の大富豪に名乗りを上げたジェフ・ベゾスCEOは、ゲイツ氏同様、850億ドルにものぼる自身の財産を自ら立ち上げたVCベゾス・エクスペディション ズ通して運用している。

2005~2017年8月までの期間に合計59件もの投資を行っており、その分野はクラウドやロボティクスといった先端テクノロジーからがん治療といった医療技術、融資まで、非常に幅広い。

ツイッター(2008年)、クラウド人事システムを提供するワークデイ(11年)、ジュノ・セラピューティックス(13年)、クラウドファンディングサイトを運営するクラウドライズ (14年)、ロボティクス技術のリシンク・ロボティクス(15年)、学生用融資のファンディング・ユニバーシティ(16年) など、氷山のほんの一角だ。老化に関する研究をしているカリフォルニアのユニティ・バイオテクノロジーは、16年、17年と立て続けに投資。

個人名義での投資は1998~2017年9月にかけて23件。古くはグーグル(1998年)、エアビーアンドビー(2011年)、ウーバー(11年)、ビジネス・インサイダー(14年、15年)など。今年に入ってからは、昨年ユニリーバと大型契約にこぎつけたトラック配車スタートアップのコンボイ、セレブレティのニュースをファンに配信するトレースミーなど、こちらも活発だ。

2016年のエバーフィーへの 投資金額が最も大きく、1.9億ドルを 投じている。エバーフィーは2008年ワシントンで設立されて以来、金融リテラシーなど「学校では施さない教育」を若者に提供している。国内の学校や大学7000校と提携する世界最大規模のオンライン教育ネットワークだ。

エアビーアンドビーには1.1億ドル 、ウーバーには3700万ドル、グーグルには100万ドルを投資した。

ラリー・ペイジ(Google)――個人投資は数少ないが将来の大物狙い?

Google設立者兼CEOのラリー・ペイジ氏。Googleベンチャー やアルファベットを通してウーバーやストライプ、スラック、エアウェイブ、スカイキャッチなど、消費者商品・サービスからライフサイエンス、医療、データ・AI(人工知能)、エンタープライズ、ロボティクスまで、広範囲な投資を行っている。

個人的な投資は2006~2016年の10年間で5件と、それほど活発ではない。有名どころでは2006年5月のテスラの資金調達ラウンドシリーズC に、テスラのイーロン・マスクCEOやグーグル、JPモルガン・セキュリティーズと参加。テスラはこのラウンドで総額4000万ドルを獲得した。

ワシントンの小惑星鉱業開発スタートアップ、プラネタリー・リソーシズには2012年と2016年、二度にわたり投資している。プラネタリー・リソーシズは2010年の設立以来、ペイジ氏のほか、テンセントや元GoogleのCEOエリック・シュミット氏、スペースエンジェルズの設立者ディラン・テイラー氏、北京のVC真格基金 などから、総額5026万ドルを調達している。

最近では2016年6月、「空飛ぶ自動車」を開発するカリフォルニアのスタートアップ、キティー・ホーク のファンディング・ラウンドでリードインベスターを務めた。