あえて華を消せるという役者の凄み
──主演はぜひ成田さんに、と萩原監督の強い希望があったそうですね。
萩原:もともと一度ご一緒したいと思っていたのもありますが、この作品は、17歳から27歳という10年間に夢をあきらめて主人公から降りていく人たちの物語なので、俳優がもともと持っているような華を消せる人がいいなと思って。成田さんってバラエティ番組や雑誌だとすごく華があるのに、映像を通すと気配を消してそこに佇んでいるみたいなところがあるじゃないですか。実際、主人公・荻野の10年を、リアリティを持って変化させながら演じてくださって、僕もとても勉強になりました。
Huluオリジナル新作ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』 ©HJホールディングス
成田:表情とか、姿勢とかで年齢を表現できるようには気をつけました。
萩原:疑問を感じたら、すぐに意見として伝えてくれたのもありがたかったです。僕はみんなで議論を重ねて作品を作っていくのが好きなので。
成田:結構、自分の意見を伝えさせていただきました。例えば教室で不良が先生を追い詰めるシーンで、荻野が「何見てんだよ」と絡まれて答えるところ。脚本には「僕も好きだなと思って、年上」とあったんです。だけど、「僕」を「俺」にしたほうが、不良につられて自分も「俺」と言ってしまう背伸びした感じや、ちょっと尖ってるんだけど滑稽な感じが出るかなと思って監督にお伝えしました。
大人になるとみんなあきらめみたいなものが徐々に表情に出てきますが、そうなると目つきも変わるだろうし、どんどん自分が小さくなっていく感覚もありますよね。自分が一番無色透明で、セリフを言っているのに誰にも届いていない、言葉がそのへんに散らばって溶けていってしまうようなイメージで荻野を演じていました。
大事なものを捨ててこそ入ってくるものがある
──まさに“華を消す”ですよね。撮影中、苦労した点はありますか?
萩原:この作品は、普通、物語はこう進むよなって方向にはいきません。例えば、オムニバスだったらもっと人物同士を絡めたくなると思うんですけど、それはリアルじゃないから緩い絡み方にしていたり。でも、そこに役者の皆さんがちゃんと向き合ってくださって、その都度コミュニケーションを取りながら進めていけたのがよかったです。メインの俳優さんだけでなく1シーンしか出ない人もみんないい。この作品のコンセプトは、登場人物それぞれの人生の隅々にまで、ちゃんと光を当てることでもあるので、それが実現できたのはキャスト全員のおかげです。
──17歳だった若者が27歳になるまでの10年を描いた本作ですが、撮影中は成田さんもちょうど27歳だったとのこと。ご自身にとってこの10年はどんな10年でしたか?
成田:僕はもともと美容師になろうと思っていたんですけど、そこから2度進路を変えています。出会いによってどんどん方向が変わっていくので、本当に人生は思うようには進みません。最近、ちょっと昔を振り返る機会があったんですが、本当に人任せで、何も気づかず生きてきたんだなと。だけど、20代後半に入ってようやく、人のことを尊敬できるようになってきたし、人任せ人生も一旦終えようかなと思っています。そう思えるようになったのもいろんな人との出会いがきっかけです。もうひとつ学んだのは、一生懸命やっていたら後悔がなくなるということ。
──作中にも「成功するためにやるんじゃない、納得するためにやるんだよ、人生は」というセリフがありました。成田さんが「納得する」ために大事にしていることは?
成田:「やめる強さ」みたいなことでしょうか。自分の中で大事にしているものを捨てるのは大変なことですけど、捨てることでとてつもなく大切なものが入ってくる。最近、今後もし家族ができたら、ひとりの時間を自由に使えることも減っていくんだろうなと気づいて、以前よりも時間を大切に使うようになったんです。それによって空いた時間で、「ちょっと明日はあそこに行ってみよう」みたいな。やめる強さを持っていれば、人生はより豊かなものになっていくのかなと思います。