元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
撮影/中村和孝
そんな宇垣さんが映画『カモン カモン』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:ニューヨークで1人で暮らすジョニー(ホアキン・フェニックス)は、9歳の甥(おい)・ジェシーの面倒を数日間みることに。
突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーがいまだ独身でいる理由など、疑問をストレートに投げかけて困らせる一方で、ジョニーのラジオジャーナリストという仕事や録音機材に興味を示し、二人は次第に距離を縮めていきます。
『ジョーカー』でアカデミー主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスが、一転して子どもに振り回される役を演じているのも注目です。美しいモノクロームの映像で描かれたヒューマンドラマを宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です)
子どもたちに。肉親ではない大人ができることとは
『カモン カモン』より
齢三十、親となる友人たちも増え、目に入れても痛くない、そんなふうに思える存在が幾人かできた。あの子たちの爆発的なエネルギーに圧倒されながら、いつも考えている。肉親ではない大人にできることとは、果たすべき役割とはいったい何だろう、と。
ラジオジャーナリストのジョニーは妹から頼まれ、甥(おい)のジェシーの面倒を数日間見ることになった。大人と子どもの狭間(はざま)にある9歳のジェシーは好奇心いっぱいに質問攻めにし、ころころと表情を変え、純粋であるがゆえに不安定で複雑なその心模様の変化に不器用なジョニーは振り回されっぱなし。けれどそんな変わり者の甥っ子と向き合うことをきっかけに、自分自身を見つめ直すことになり、ぎこちなかった妹との関係も変化していく。
俳優陣の自然な存在感に一気に引き込まれる。限りなく優しい眼差しで切り取られたモノクロの世界は、シンプルだからこそ体温や親密さを感じさせ、生活に溢(あふ)れているはずの音たちが新鮮に浮かび上がって心地よい。4つの都市を移動しながら互いを少しずつ理解し合い成長し合う2人の姿に、相手の言葉に耳を傾け理解しようとすることこそが誠実さであり、対話を積み重ねる努力こそが愛情なのだと気づいた。
劇中でジョニーが子どもたちにインタビューするシーンは台本ではなく、実際にその街に住まう9歳から14歳の子どもに取材したものだという。彼らのしっかりと的(まと)を射た答えと豊かな感性が胸に響く。