相手女性と自分の夫をひっぱたいてしまった
リビングに夫婦二組が向かい合った。「このままじゃどうしようもないでしょう。会社に知られたら4人とも仕事がしづらくなる。先輩は左遷されますよ。サキコだって辞めざるを得ないかもしれない。現実を考えたらとるべき道はひとつじゃないですか」とケンタさんが口火を切った。
サキコさんは「ごめんなさい」と泣いているだけ。エリさんの夫は押し黙っている。どうなのよとエリさんは夫に目を向けた。
「今は離れられない、と夫は絞(しぼ)り出すように言いました。ケンタも私も『はあ?』という感じ。どうしようもないのよとサキコも続いた。私、頭にカッと血が上って、思わずサキコをひっぱたいてしまいました。それをかばおうとした夫にも一発。暴力がいけないのはわかっているけど、体が勝手に動いた感じでしたね……」
サキコさんは家を飛び出した。エリさんの夫が追いかけていく。残されたケンタさんとエリさんは、顔を見合わせてため息をつくしかなかった。
「それ以来、何度か4人で会いましたが、話は進まない。ふたりは密かに会い続けているようだし、私は夫を無視して生活しています。夫の洗濯物も洗わないし食事も作らない。だけど夫はあれ以来、外泊することはなく、遅くなっても帰ってきてはいます」
一瞬、夫に理解を示しそうになった
週末は娘を連れて遊びに行くこともある。エリさんも娘の前では夫と普通に会話をせざるを得ない。
「遊園地で思い切り娘を遊ばせた帰り、電車の中で娘は夫に抱かれてぐっすり寝ていました。夫は『ごめん。エリを嫌いになったわけじゃないんだ。こういう時間はとても愛おしい』と。
それならサキコと別れてよと私は低い声で言いました。そうしたら夫は苦しげな表情になって……。本当に自分でもコントロールできないような恋にはまってしまったんだろうなと一瞬、理解を示しそうになりました。許せないのに」
すべてを会社に暴露しようと考えている
その後、コロナ禍になり、4人の勤務シフトもリモートになったり出社したりといろいろだったが、以前ほどではないにしろ、やはりふたりの関係は続いているようだ。
「ケンタが4人会談を再開しましょうと言うんですが、延々(えんえん)と話し合いを続けても意味がない。もう放っておけばいいんじゃないのと私は言っています。今のところ家庭に支障はないし、ただでさえコロナ禍でストレスがたまっているのに目の前でふたりが目と目で会話しているのを見ていられない。
ただ、ケンタとは連絡をとりあってはいます。やはり帰宅時間が遅いときは一致するので会っているんだろうなとは思います」
おそらく夫の恋が終わったときは、家庭に居場所がなくなっている。恋が終わって夫が本気で謝罪してきたら、すべてを会社に暴露しようとエリさんは考えている。そのためにも社内に自分の居場所は作っておかなければと、彼女は精魂こめて仕事をしている。コロナ禍でも業績を上げている彼女は、この春、昇進した。
「最終的に夫を許すかどうかはわかりません。でも夫がいなくても大丈夫な自分、大丈夫な家庭を作っておきたいんです」
ひとりの人間として、夫への信頼は崩壊しているからとエリさんはやるせなさと憤(いきどお)りが混じったような複雑な顔になった。
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<文/亀山早苗> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 亀山早苗 フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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