全国でも人気の高い日本酒「龍力」を醸すのは、姫路にある「本田商店」。酒蔵には「龍力」を気軽に試飲したり買えたりする「テロワール館」があります。ここでの楽しみ方や、龍力の美味しさ、また蔵元についてご紹介します。
「龍力」ってどんなお酒?
「龍力」と書いて「たつりき」と読む日本酒は、姫路の「本田商店」が醸造しており、姫路 の地酒として大人気!冷やして美味しいお酒からお燗で美味しいお酒まで幅広くありますが、一貫して言える特徴は お米の旨味をしっかり感じられる味わい です。香りもお米に由来する自然なもので、食中酒 としても楽しめます。
その美味しさの秘訣は、原材料の酒米、特に 地元・兵庫県産の酒米 にとことんこだわっていること。地元のお米を使うことで地元の農家さんに還元する意味もありますが、なんといっても、地元の土地、すなわち テロワール が素晴らしいからです。
兵庫県にしかない!山田錦の「特A地区」
兵庫県自慢の酒米は、“酒米の王様” と言われる 山田錦。他にもたくさんの酒米がある中で、品質によって A、B、C で生産地区が格付け されているのは山田錦だけです。その中でさらに最高品質の山田錦が生産されると指定されている地区が、兵庫県にしかない「特A地区」となっています。そして、「龍力」に使われる山田錦は、この特A地区産のみ!
そのお米たちを最高の状態で日本酒の仕込みに使えるよう、「本田商店」では精米機を4台導入し、精米も自社で行っているという徹底ぶり。
そして、"良い酒造りは、良い米作り"という信念のもと、特A地区の中でもさらに土壌の良いエリアについて農家さんと共に研究し、最高の山田錦づくりを率先して行っています。そこで出てきたのが「テロワール」という考え方なのです。
追求し続ける「山田錦テロワール」
龍力 を造っている 本田商店 の社長は、同じ醸造酒なのにワインにあって日本酒に無いものに、これから取り組んでいきたいと熱く話しています。それが「テロワール」。 テロワールを一言で言えば、原材料の生産地の特性。気候も含まれますが、特に 土壌 です。
例えばワインを買いに行く場合、「ブルゴーニュにしようかな、ナパにしようかな?」と、まずは 生産地 で選びませんか? ワインでいう 生産地 とは、原材料のブドウが育つ場所でもあります。だから、ワイナリーは決められたエリアで栽培されたブドウを使います。
土壌は、地球が形成されてから変わらずそこにある。その土壌で育てられるブドウでワインが造られるので、土壌はワインにとっては 絶対 であり 変わらないもの 。だから、ワイナリーはまずはテロワールを謳います。
一方で、日本酒を買いに行く場合、多くの人は銘柄で選びます。例えば、有名な「獺祭(だっさい)」。銘柄は有名ですが、どこで造られているか、ご存知ですか? また、獺祭は “山田錦を使っています!” と声高らかに謳っていますが、その山田錦がどこで育てられたのか、ご存知ですか?
これに答えられる人は、日本では「日本酒マニアな人」と見られるのではないでしょうか。ワインだったら “ブルゴーニュ、ナパ” といった生産地は誰しもが知っているのに、日本酒は生産地まで知っていると「マニアック扱い」になってしまう…それが、ワインにあって日本酒にないものです。
つまり、日本酒はもっと酒米や生産地、すなわち「テロワール」で選ばれるようになってほしい!と、本田商店が今、力を入れているのが “山田錦のテロワール” です。
(※ちなみに、獺祭は山口県岩国市にある酒蔵「旭酒造」で造られていますが、獺祭に使われている山田錦も特A地区産です。)
特A地区をさらに3つのエリアに区分
本田商店は「同じ特A地区の山田錦を使っても、味の違いが出るのはなぜだろう?」と、常々思っていたそうです。そこで、大胆にも、農家さんにお願いして田んぼのど真ん中を縦に掘って、土壌を採取したのです。
すると、普段人が目にしない土壌の深いところが、どういった地質なのが目に見えて分かったわけです。水捌けの良い土壌、粘土質で水分が保たれる土壌、強い養分が含まれる土壌、などなど違いが明確になりました。
今現在では、特A地区の土壌を大きく分けると3タイプあることが分かっています。上のMAPで色違いで表現されている3箇所、社(やしろ)、東条(とうじょう)、吉川(よかわ)です。どうしてそれぞれの土壌に違いがあるのかも、川が流れている、昔は沼地だったなどなど、地形の違いから分かっているんだそう。
純米テロワールシリーズ として既に商品化もされています。この3本の味の違いを知りたい!という方や、龍力を味見してから買いたい!という方は、ぜひ蔵に遊びに行ってみてください。
美味しい龍力が試飲、購入できる「テロワール館」
2021年11月に、蔵の敷地内にある事務所の1階に「テロワール館」がオープンしました。ここは、予約は必要なく誰でも自由に訪れることができます。
立ち飲みカウンターがあり、ここで有料試飲(200円〜)ができます。目の前には、先ほどご紹介した、田んぼから採取した土壌の標本「モノリス」もずら〜り。
試飲が楽しめるだけではなく、蔵人さんの話も聞けます。テロワールの考え方、龍力の歴史などなど、興味があることはなんでも聞いてOK!熱い話が返ってくるはずです。
もちろん、飲んでみて美味しい!と思った龍力は、在庫があればその場で購入もOK!蔵にしかない掘り出し物があるかも?! もしくは、もう販売不可にはなっているけれど、試飲だけなら飲めるものもあるかもしれません。
【テロワール館】
営業時間:月曜日~土曜日/9:00〜17:00
定休日:日曜日、祝日
「創業から約100年」の「本田商店」について
これまで、お酒のことやテロワールのことについてご紹介してきましたが、龍力を造っている「本田商店」についての面白いエピソードもご紹介します。 まず、酒蔵なのに「本田商店」って、ちょっと違和感がありませんか? 酒蔵といえば「○○酒造」で、「商店」というと問屋や小売店というイメージです。これは、本田商店が日本酒造りを始めたのが、“たった” 100年前 というワケにも繋がります。
現代では、一般的な会社やお店は100年も続けば長い方ですが、日本酒を造って一般人に売る、という酒蔵ができ始めたのは江戸時代。創業400年、300年、200年なんてザラにいる中での100年です。
なぜ「商店」なのか?
最初に答えを言うと、本田商店は元々、明治の終わり頃に創業した 小売の酒屋さん だったのです。場所は創業した頃から移転しておらず、網干(あぼし)駅 のすぐ近く。酒蔵は駅からも見えます。この網干駅、今は広々とした車両基地があるのですが、明治の頃はここには 貨物駅 がありました。
さまざまな物品が貨物列車に乗せられたり降ろされたりするので、多くの商売人もここまで商品を取りに来るわけです。本田商店はすぐ近くで便利な立地ですが、遠くから取りに来る商売人にとってはとても大変。
そこで、方々の酒屋から声がかかったのが 本田商店 。「本田君、駅に一番近いのだから、うちのお酒も受け取ってきてくれないか。」とお願いされます。当時の代表、本田新二さんはとても人柄が良い方だったそうで、「よっしゃ、よっしゃ」の二つ返事で引き受けることに。
そうして、小売の酒屋から、酒屋へお酒を卸す問屋 を営むようになりました。今でも蔵の中にたくさんの大手ビールメーカーのP箱が積み重なってるのは、その頃の名残だそうです。
「問屋」から日本酒を造る「酒蔵」へ
人の良かった本田新二さんの働きっぷりは、周囲の人たちにも一目置かれるようになり、お酒の問屋を営む傍ら、村の米蔵の管理も任されるようになったんだそう。その手腕を村長に認められたのか、「お米を貸してあげるから日本酒を造らないか。」と声をかけられ、やる気満々に!
しかし、日本酒を造るには 酒造免許 が必要。国がお米にかかる税金をしっかり徴収するための法律ですが、この免許を新規で取得するのがとても困難!現代でも難しいため、ワインやビールの醸造所は次々と新しく生まれるのに、日本酒の酒蔵は古い蔵ばかりなのです。
そんな時、これまた懇意にしてもらっていた老舗の 醤油蔵 の蔵元が「うちの酒造免許を譲ってあげる」と言ってくれました。実は、江戸時代や明治時代など古くから酒造免許を持っている蔵元から、その免許を譲ってもらえば新規参入は可能なのです。
こうして、本田商店が日本酒造りを始めたのが 1921年。昔からある蔵と違って、新しく日本酒蔵として生まれ変わった本田商店は、造りを始めた頃から果敢に挑戦を続けてきました。例えば冷やして美味しい 大吟醸 。今では当たり前のようにありますが、当時はお燗酒ばかりだったので、日本酒業界に衝撃が走ったんだそう。
その銘柄が、今でもある「米のささやき」です。酒蔵の建物の一番上にも大きく目立つように書かれていることからも、それだけ自信のある看板酒ということが伺えますね。その大吟醸のみならず、今後は、新たにテロワールにこだわった日本酒造りを目指していくそうです。