こんにちは、フランス家庭料理研究家のペレ信子です。
「クレープ」に「ガレット・デ・ロワ」など、日本の暮らしに定着したフランス菓子はたくさんあります。スイーツ大国、フランスを侮るなかれ。もっともっとたくさんのお菓子がフランス各地にあるよう。
季節の行事に関連したものや、日常的におやつとして食べられているものなど、さまざまな郷土菓子たち。現地に行かなければ出合えないような、おいしくかわいい郷土菓子の中から、これから注目を浴びそうなものをピックアップしてご紹介します。
それぞれのお菓子について教えてくださったのは郷土菓子研究社の林周作さん。昨年の11月、三軒茶屋にオープンされた新店舗『Journey』でお話を伺いしました。
林さんは料理の世界から郷土菓子に惹かれて、郷土菓子を食べるヨーロッパの旅へ。その後、フランス・アルザス地方の名店『Patisserie Jacques』で修行されました。『JOURNEY』では、世界中の郷土菓子をテイクアウトで味わうことができ、その名の通り旅をしているような気分を味わえます。
フランスに暮らしていたこともあり、今は日本でフランス人のパートナーと一緒に暮らしている私ですが、知らないお菓子がたくさんありました。さっそく『JOURNEY』で見つけたフランスの郷土菓子を紹介します。
注目したいフランスの郷土菓子たち
■カヌレ Canelé, Cannelé
再び人気が高まっている「カヌレ」。カヌレはワインで有名なボルドーの郷土菓子です。日本で最初にカヌレが知られるようになったのは1990年代の初めごろでした。「Cannelé」はフランス語で「溝がついた」という意味で、12本の溝がついた銅の型で作ります。カリッと香ばしい外皮と対照的に、中はしっとりもっちり。
最近はごまや抹茶味といった中身にアレンジがあるものや、上のくぼみや外側にアイシングやデコレーションしたものなどを見かけるようになりました。
自分で作る方も増えているようで、『JOURNEY』ではきれいに焼くコツなどお客様から質問されることも。フランスではお店によって、うすい焼き色のものや、まだら模様のカヌレもあり、それぞれがお客様から愛されているそうなので、焼き加減は好みに合えば良いと言うことなのでしょう。
日本でカヌレが流行り始めた当時、フランス東部に住む夫の母に「お義母さん、カヌレって知ってる?」と聞いたところ「何それ?知らない」とまさかの答えが!自分の地方の料理や特産品に誇りを持つフランス人らしい答えで笑ってしまいましたが、今ではカヌレをフランス東部でも見つけることができます。
■ヌガー・ド・トゥール Nougat de Tours
古城が立ち並ぶロワール川のほとり、「フランス語を学ぶなら発音にクセがないこの街で」、とすすめられることも多いトゥール。この街で作られる「ヌガー・ド・トゥール」はその名前にもかかわらず、私たちの知っている「ヌガー」の形をしていません。タルト生地の上にアプリコットジャムとドライフルーツ。その上をアーモンドプードル入りのメレンゲでカバーしたお菓子です。サクッとした歯触りとフルーツの甘酸っぱさが心地良いバランスです。
■フォレ・ノワール Fôret Noire
このお菓子が作られる地方のシュヴァルツヴァルト(黒い森)が名前の由来で、ドイツでは「シュヴァルツヴァルター・キルシュトルテ」と呼ばれるそうです。ココアパウダーの入ったスポンジ生地の間にクリームがはさまれていて、キルシュ酒漬けのチェリーがポイントになっています。
お店によって個性がありますが、『JOURNEY』の「フォレ・ノワール」はココア入りスポンジと生クリーム、ムース・オ・ショコラのようなチョコレートの層が重なっている大人の味です。
■ガトー・ナンテ(Gâteau Nantais)/ ガトー・ナンテ・ショコラ(Gâteau Nantais Chocolat)
フランス北西部のナントという街のお菓子。しっとりと焼き上げたアーモンドケーキがラム酒たっぷりのアイシングで覆われています。林さんがロワール川沿いのアンジェという街に滞在していた時に、自転車で訪れたナントで出合ったお菓子だそうです。
特別な時にというよりも、普段おやつが食べたい時に手が伸びる雰囲気のお菓子。やさしいアーモンドケーキにラム酒入りアイシングのインパクトが良いアクセントになっています。
バレンタインの季節にはチョコレートケーキ版のガトー・ナンテ・ショコラもあります。
■マカロン・ダミアン Macaron d’Amiens
フランス北部のアミアンという街のマカロン。マカロンというと、パステルカラーで陶器のような滑らかな生地にクリームをはさんだお菓子を想像しますが、ボルドーやナンシー、バスク地方などにもそれぞれ“マカロン”と呼ばれる素朴なお菓子があります。基本的には卵白、アーモンド、砂糖を使った焼き菓子です。
「マカロン・ダミアン」は今回はじめていただいたのですが、見た目は素朴で、外側はカリッ、中身はねっちりと弾力があり、和菓子「五家宝」の食感を思い出しました。
余談ですが、アミアンはフランスのエマニュエル・マクロン大統領の出身地でもあり、歴史がある美しい街です。夫人のブリジット・マクロンさんのご実家は、この街で有名なマカロン・ダミアンのお店『Jean Trogneux』を営まれているそうです。いつか訪れて食べてみたいですね。
■パンデピス Pain d’épices
フランス語の意味は「スパイスのパン」。フランスでは主に北部で作られていますが、『JOURNEY』でいただけるのはライ麦粉を用いて作るパウンド型のシャンパーニュ地方タイプ。その他、小麦粉を使ってパウンド型で作るブルゴーニュ地方タイプや、クッキー型で作るドイツやアルザス地方タイプなどがあります。どれもジンジャー、シナモン、クローブなどスパイスが効いていてクリスマスのお菓子として有名です。
最近ではフランス料理店のクリスマスメニューのアミューズに、フォアグラを小さく切ってのせたパンデピスを出されることもあります。
夫の実家はブルゴーニュ地方に近いので、我が家のパンデピスはブルゴーニュタイプ。12月になると日持ちするパンデピスを焼いておき、お客様が来るとお茶菓子に出します。入っているスパイスが日本のお正月に欠かせないお屠蘇に入っているスパイスと似ていて、冬に体を元気にするスパイスは東西共通しているのだなあと思いました。
■ケークエコセ Cake Ecossais
「スコットランドのケーキ」と言う名のお菓子で、フランス・アルザス地方やドイツで親しまれています。「アルザスなのになんでスコットランド?」と不思議になります。ウィスキーが入っているわけでもなく、名前の由来はよくわからないようです。
このお菓子は初めていただきましたが、外側はココアパウダーを使ったブラウンの生地にアーモンドダイス。内側はガレット・デ・ロワの中身ようにしっとりしています。夫いわく、「ドイツの友達の家で食べたお菓子を思い出す」ようです。
***
リッチな味わいのフォレ・ノワール以外は、食後のデザートよりもティータイムやおやつの時間が似合いそうです。見た目もシンプルで素朴なお菓子たちですが、食べるとその味にハマり、何個でも食べたくなってしまいます。
日仏家庭である我が家で、感想を聞いてみたところ、1位はガトー・ナンテ、2位はマカロン・ダミアン、3位はヌガー・ド・トゥールでした。それぞれ甲乙つけがたい、独特の魅力がありました。
素朴な郷土菓子は、コロナ禍を経てなにげない日常のあたたかさを大切にするようになった私たちの心に響いている気がします。フランスの小さな街で地元の人が楽しんでいるおやつを、日本にいながら食べられるなんて贅沢なことですね。
■お店情報
JOURNEY
住所:東京都世田谷区太子堂2-9-25
営業時間:11:00~20:00
定休日:火曜日
Instagram: @kyodogashi_journey
郷土菓子研究所
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