昨年来、アメリカでアジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が急増。差別的な発言や暴力事件などが各地で多発し、在米日本領事館からは在住する日本人に注意喚起のメールが毎日のように届いているといいます。

 そんな中、3月16日にジョージア州アトランタのマッサージ店3カ所が連続で銃撃される事件が発生。アジア系女性6人を含む8人が殺害されたことで、アジア系コミュニティーにさらなる衝撃が走りました。

 現地に住む日本人はこの状況をどのように受け止めているのか、今のアメリカの空気とコミュニティの現状を語ってもらいました。

トランプの「チャイナウイルス」発言が子供たちにまで影響

「犯人は『イライラしてやっただけ』と話しているようですが、3店も狙い撃ちしていますし、私にはそんなふうにはどうしても思えません。やはり根底には、アジア系女性に対する憎悪があったのではないでしょうか」

 そう話すのは、ニューヨーク郊外に住む奥村ゆかりさん(仮名・50才)。アメリカ在住歴25年。欧米系企業で様々な人種の同僚と一緒に働く奥村さん自身も、昨年初めて言葉による差別を受けたといいます。

 彼女が住んでいるのは、マンハッタンの通勤圏内にある小さな都市。治安も良く、教育面にも力を入れている、アジア系の人々が比較的多く住む地域です。そのため、これまであからさまな差別的言動を受けたことは1度もありませんでした。

 ところが昨年5月、近所で犬の散歩をしていると、自転車に乗った小学校3年生くらいの男の子が近づいてきて、奥村さんに向かって「チャイニーズ!」と叫んで通り過ぎて行ったそう。

 折しも、新型コロナウイルスの感染が全米に急拡大し、アメリカでもマスク着用が日常化。トランプ前大統領が、国内の感染者激増の原因を中国に押し付けようと「チャイニーズウイルス」「チャイナウイルス」発言を繰り返していた頃でした。

傷ついたというより悲しい気持ちに

 マスクを着用した少年の瞳と声からは、彼のアジア系住民に対する「恐怖」や「憎しみ」の感情が伝わってきたといいます。

「傷ついたというより、悲しい気持ちの方が大きかったです。メディアで言われていることや、親が家庭内で話していることに、子供たちがこんなにも影響を受けているのだと知って。

 ロックダウンで学校が閉鎖されている中で多様性教育を受ける場がないまま、この子たちが差別意識を持って成長していくのかな、と思うと悲しいし、不安でなりませんでした」

 人権団体(STOP AAPI HATE)のまとめによると、新型コロナウィルスの影響で全米各都市がロックダウンを余儀なくされた昨年3月以来、アジア系住民に対する差別行為に関する報告は少なくとも3795件に及びます。

 日本のニュースで取り上げられるような暴行事件だけでなく、言葉による差別行為が多発。ニューヨーク市アジア系アメリカ人法曹会(Asian American Bar Association of New York)のレポートによれば、ニューヨーク市で報告される差別の約80%(全米で70%)が奥村さんも体験した“言葉による暴力”、次に約17%(全米で20%)がアジア系住民を遠ざけたり避けたりする行為が多く報告されました。

3月18日に「ニューヨーク市の治安情勢に関する注意喚起」のメール。ヘイトクライムについての記述も。(画像:在ニューヨーク日本総領事館ホームページより) 3月18日に「ニューヨーク市の治安情勢に関する注意喚起」のメール。ヘイトクライムについての記述も。(画像:在ニューヨーク日本総領事館ホームページより)