2021年は、横浜流星に始まり、杉野遥亮、赤楚衛二等のブレイク俳優、さらに岩田剛典や登坂広臣などのLDHアーティストについて、「イケメンと映画」を愛する独自の視点でコラムを書いてきた。

井之脇海、栄光の子役時代のプレッシャーを跳ね除けた“プロの意地”。大学同期の筆者が解説
(画像=『女子SPA!』より引用)

そんな筆者・加賀谷健が、2021年最後にフィーチャーするのが、『ミュジコフィリア』で今年、映画初主演を飾った井之脇海だ。9歳で子役デビューした井之脇はすでにキャリア16年。演技の実力はおそらく同世代の若手俳優でトップクラスを走る逸材だろう。

 そんな井之脇の『トウキョウソナタ』(2008)での忘れがたい名演。さらに筆者が同じ大学キャンパスで過ごした井之脇本人の印象。そして12年の時を経て演じられた『ミュジコフィリア』での天才ピアノ青年役について紐解く。

視聴者の心を動かす親近感ある好演

「あ、海君だ!」、テレビ画面に映る井之脇を見て、思わず叫んだ。

 2021年1月期放送のTBS金曜ドラマ『俺の家の話』で、主人公・観山寿一(長瀬智也)が所属するプロレス団体の若手プロレスラー・プリティ原役のアグレッシブな熱演。さらにTBS系で7月期放送の火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』。

 筆者激推しの「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」パフォーマー・岩田剛典演じる旅館の御曹司・成吾様の艶やかさには心ときめつつも、二階堂ふみ扮するヒロインの、元旦那である正弘役を演じた井之脇の名脇役ぶりに密かに目頭を熱くした。

 NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)でのコーラス部指導者の姿も好感が持てたが、プリティ原はそれ以上に爽やかな印象だった。正弘役は、ダメ男キャラで損な役回りでありながら、SNS上では意外にも同情のコメントが多く見られた。井之脇の親しみのある好演が正弘役に不思議と温かみを持たせ、それが視聴者の心を動かしたのだろう。

日芸生としてのカリスマ性

筆者が「海君」と親しみを込めて呼ぶのは、同じ時期に日本大学芸術学部に通っていたいわゆる「日芸生」だったからだ。数々の著名人を輩出する日芸でも最も伝統があるのが、日本映画界が世界に誇る巨匠・黒澤明監督も輩出した映画学科で、井之脇はその演技コース出身。筆者は監督コースに在籍し、監督と俳優の関係性で演技や演出の授業をともにした。

 在学中の2015年には演技コースでありながら、短編映画『言葉のいらない愛』を監督し、カンヌ国際映画祭のマルシェ・ドゥ・フィルムに正式出品され、監督コースの面々の度肝を抜いたものだった。井之脇の多彩ぶりは、学内随一で、非常にカリスマ性を発揮していた印象がある。

 筆者にとっても井之脇は日芸入学前から憧れの存在だった。何と言っても、2008年の黒沢清監督作『トウキョウソナタ』での名演を強く記憶していた。主演の香川照之扮する父親との相克を生き、ピアノで天才的な才能を開花させる少年役が非常にはまり役となった。9歳で「劇団ひまわり」に入団し、子役デビューした井之脇は、本作をきっかけに本作的に俳優の道を進んでいくことになる。

 一方で、「『トウキョウソナタ』の井之脇」というイメージが根付いたことで、その後の俳優人生に対する大きなプレッシャーとなっていたこともまた事実だろう。どんな役に挑戦しても、必ず『トウキョウソナタ』の天才少年役と比較されてしまいかねない。『言葉のいらない愛』で監督に挑戦したのは、おそらく何か新たな活路を見出そうとしていたものと想像する。