フランスと日本を行き来しながら、女優として、そしてアーティストして活動をしている美波さん。今年の夏、リサとガスパールと帝国ホテルがコラボレーションをした際にはアンバサダーとしてイベントにも登壇してくださいました。その際、リサとガスパールの原画を見てとても感動したのだそう。
そんな美波さんとリサとガスパールの作者アンさんとゲオルグさんの対面が実現。アーティストの先輩でもあるアンさん、ゲオルグさんに、美波さんがさまざまな質問をぶつけました。そんなパリで対面のひとときをレポートします。
日々試行錯誤!油絵に苦戦!?
美波:はじめまして。今日はお会いできて光栄です。私も最近絵を描いているので、今日はいろいろとお話をお聞きできるとうれしいです。
アン・ゲオルグ:こちらこそうれしいです。今日はよろしくお願いいたします!
美波:さっそくですが、帝国ホテルでのコラボレーションの際、生で原画を見せていただきとても感動しました。いつも油絵で描いているんですか?
アン:ほとんど全部油絵だよね。とても忙しかったときに数冊だけアクリル絵の具で描いたこともありましたが、ゲオルグが納得いかずにがっかりしていて…。
ゲオルグ:アクリル絵の具でも油絵に似たような質感を出したくて、薬剤を混ぜたりして研究したんですが、どうしても白っぽくなって、なんだか気持ち悪くて…。なんというか、プラスティック素材で描いているような感じがして、好きになれなかったんだ。
美波:私もたまに必要に迫られてアクリル絵の具で描くこともありますが、どうも苦手です。油絵は、待つ時間があることで、「油と対話する時間がある」のも楽しくて。
アン:ゲオルグがアクリル絵の具で描いていたときは、本当に絶望的と言った顔をしていて、不幸のどん底という感じでしたよ(笑)。
新しいものを試して、うまく行かなくて…という様子をよく見るので、私としては、どうして同じ絵の具を使わないのかと思いますけどね。
ゲオルグ:いつも、油絵をもっと早く乾かす方法はないかと思っているんだ。いろいろ試してみた結果、成功して少しは早く乾くようなものもあるんだけど、この間は失敗して乾かなくなってしまったよ。
アンさん、ゲオルグさんが一緒に作品作りに取り組むようになったきっかけ
美波:いろいろと試行錯誤されているんですね(笑)。そもそものお話になってしまうんですが、お2人で一緒にお仕事をするようになったきっかけはなんだったのでしょう?
ゲオルグ:僕はもともと画家だったんだよね。当時、ローマに長く住んでいて、画家という仕事の孤独なところがイヤになって、ちょっと他のことをしてみたくなったんだ。それで、ストーリーに絵をつけるという表現方法に興味を持ったんだよね。
そのときは、ローマに住んでいるアメリカ人の作家と一緒にプロジェクトをやってみないかという話になって。その本をボローニャの国際ブックフェアに出展したら、フランスのガリマール社の編集者に気に入ってもらったんだよ。それがきっかけで、フランスで出版できるようになったんだ。
当時からすでに僕のスタイルは油絵だったので、たいていの人たちは「本のイラストにしては、絵画的すぎる」と言っていました。だけど、その編集者だけは僕の作風を気に入ってくれてね。彼がいなかったら、今の僕も、リサとガスパールもいなかったかもしれないね。
当時は、アメリカ人の女性作家と組んでいたんだけど、英語で書かれたストーリーをフランス語に翻訳する必要があったり、いろいろと調整が必要で…。いまいち彼女はうまくできなかったんだ。そんなとき、編集部にいたアンがとても上手に調整してくれて、アンと組んだ方がうまく行くと思ったんだよね。
アン:「君はストーリーを書いた方がいいよ」って何度もゲオルグに言われて、背中を押されたわ。
ゲオルグ:アンは、アーティスティックのところがあるから、初めから作品の最終形を想像しながら、文章を考えられるんだよね。ページをめくると次の展開があるというのを、よく理解しているから、僕も絵が描きやすい。もう、他の作家とは仕事ができないよ。
他の作家とやっていたときには、1枚の絵に書き込む要素のサイズがまったくチグハグで、絵に入れにくいこともあった。例えば、ネズミと馬が登場して、月が出てくるみたいなシーン。絵を描いたときに、ネズミは小さくなりすぎちゃうでしょ?(笑)。
美波:そうなんですね!アンさんは絵を想像しながらストーリーを考えるのですか?
アン:そうですね。私は以前、デザイナーをしていたので、レイアウトをするのが仕事だったんです。だから、自由に小説を書くようにストーリーは書いていなくて、ビジュアルで想像しながら物語を作ります。物語のアイディアが浮かんだら、すぐにビジュアルで想像してみるんですよね。
ゲオルグ:アンのストーリーは、映画的だから僕は好きなんだ。シーンが似てしまうこともなくて、ページ展開がよくて。なかなか難しいことだと思うよ。
アン:確かに、リサとガスパールを書くときは、長いテキストがページを埋めてしまうとレイアウトが良くないなとか、学校の校庭のシーンばかりだと単調になるから歩いて場所が変わっていくように話にしようなど飽きないように、バリエーションをつけるように心がけています。ページをめくりたくなるような本になるように、ビジュアルを想像しながら書いているんです。
ゲオルグ:僕はアンが新しいストーリーを僕に見せてくれるときが、1番の楽しみなんだ。
美波:ゲオルグさんはそのとき絵のないストーリーを読んでいるわけですよね?
ゲオルグ:たいていアンがイメージを説明してくれるから想像できるんだ。
美波:なんだか羨ましい関係性です!その後、どうやってリサとガスパールのキャラクターは生まれたんですか?
ゲオルグ:ちょうど、イタリアからパリに引っ越してきた頃だったかな。アンは、ガリマール社で向かいのデスクで仕事していた女性だったんだ。それで、コミュニケーションを取るなかで、2人で本を書きたいと思うようになったんだよね。
アン:出会った時、ゲオルグは街の絵をよく描いていて、それがとても素敵で好きだったから、お話は街の中の設定にしないといけないと思ったのも覚えているわ。
ゲオルグ:だから、2人で描き始めたときに、都会を舞台にしたいとなり、リサをポンピドゥーセンターのチューブの中に住んでいるということにしたんだよね。
アン:都会を舞台にして、そこでいろんなことが巻き起こるようにしたかったの。その時、私たちはパリに住んでいたから、この街のディテールを描いていきたかった。それから、たくさん旅をさせたくて、ヴェネチアやニューヨークにも行かせたし、客船に乗ったり、飛行機に乗ったりしたの。
当初から架空の動物にしたいとも考えていたわ。人間の子どもを主人公にするよりももっといろんなことをさせられるかと思ってね。でも、はじめの頃、登場人物はリサ1人だったの。ガスパールはいなかったの。そうしたら、担当編集者からの助言で、女の子1人はよくないから、男の子を登場させようという話になって、ガスパールが生まれたのよね。
ゲオルグ:いいアドバイスをもらったよね。
アン:白が女の子、黒が男の子の同じような性格の2人にして、どちらが主役でもいいと思っていたんだけど、描いていくうちに、自然と2人の性格の違いが生まれ始めてね。
アンさんのインスピレーションはどこから?
美波:「リサとガスパール」の絵本を書きはじめたのはいつ頃なんですか?
アン:私たちの娘が生まれたときだからもう22年目になるわね。
ゲオルグ:1冊目の頃は、まだしっぽが長いんだよ!今の方が、ディテールがたくさん描かれているんだよね。当時はシンプルだったな。
アン:でも、それなりの魅力があるよね。
美波:(本を見ながら)素敵ですね。テキストはアンさんが書いているんですよね、本当に良いコラボレーションですね。
お2人で、お仕事の話はよくするのですか?家族の時間と仕事の時間お切り替えはうまくできるものなのですか?
アン:そんなに仕事と明確に分けてはいないけど…。そもそも、いやいややっている仕事ではないから、話しても苦痛なことでもないし、それほど線引きはないかな。締切りのとき以外は(苦笑)。なにより、子どもが3人いるから、それぞれが話すとうるさくて、仕事の話どころじゃないのよ(笑)。
ゲオルグ:以前はよく、バスティーユ広場のカフェで食事をしながら仕事の話をしていて、好きな時間だったな。2人とも家で仕事をしているから気分転換も兼ねてね。
美波:インスピレーションはどんなところから得ているんですか?何かきっかけや環境などあるのですか?
アン:インスピレーションか…。デスクについているときかな。
ゲオルグ:アンは本当に不思議なんだよ。周りで掃除しているときの方が集中できたりするんだ。自分の世界に入っているときなら、真夏の砂浜にいるのに真冬の話書いたりできるんだ。本当に不思議で、いつも感服しているよ。
美波:その想像力はすごいですね。本当にストーリーがおもしろくて、チャーミングですよね。
アン:自分の世界に入っていて、自分がストーリーに入り込んでいるときに、スーッと出てくるの。何かいい案出さないとって焦った感じで探しても、全然出てこないんだけどね。
美波:今後もリサとガスパールを描き続けていく予定なのですか?
ゲオルグ:並行して別のシリーズの本も出版もしているし、リサとガスパールを描き続けても飽きないかな。リサとガスパールは大好きだから、描かない時期があると、逆に空虚感を感じちゃうんだ。
アン:以前に比べてリズムもゆっくりしているし、最近はいつも楽しんで作品作りができているわ。
たくさんのデッサンから生まれるリサとガスパールのシーン
美波:絵は毎日描くんですか?
ゲオルグ:そうだね、毎日かな。油絵の絵画を描くこともあれば、デッサンをすることもあるかな。大量のデッサンの中から、油絵の下書きに採用するものを選んでいくんだ。
アン:ゲオルグは、本を描き始めるとき、とにかく始めにたくさんデッサンをするの。全く必要ない場所まで(笑)。だから、とても時間がかかるの。
ゲオルグは、どうしても見てみないと気が済まないから、動物園のストーリーを作るときには、模型まで作ってしまって…。模型作りに1ヶ月半かかっていたのよ(笑)。
美波:ゲオルグさんはどうやってインスピレーションを得るんですか?
ゲオルグ:一番は描きながらかな。最近はGoogle Mapのストリートビューを見て、気になる場所を見ながら描き始めることもあるね。
美波さんも絵を描いているだって?どんな絵を描いているんですか?
美波:ポートレートが多いですね。アクリルで描くことが多いです。ゲオルグさんの作品とは全然違いますけど。
アン:素敵じゃないですか!いい作品ですね!
美波:今までずっと女優と並行し絵を描いていましたが,コロナ禍で時間ができてしまい、改めて深く絵と向き合う時間ができました。
絵を描いているときは、とても落ち着いて、精神のバランスがとれることがわかり、よく描いていました。ただ今まで描いていた“自分のための絵”を“人に見せる絵”を描こうと思うようになり,今とっても試行錯誤中です。
アン:いいことですね。展覧会などはしているの?
美波:リサとガスパールの帝国ホテルでのイベントのときに、アンバサダーをさせていただきましたが、その会場で展覧会もさせていただいたんです。初めて絵を販売し、扉が開けたとてもいい経験となりました。
アン:それは、良かったですね。ブラボー!
***
2人とのおしゃべりを楽しんだあと、美波さんはこんな言葉をくれました。
「実際にお会いして、お2人ともとても優しくて素敵な方々でした。すごく素敵なお家を見せていただいたり、アトリエで作品を見させてもらったり、とても貴重な時間を過ごさせていただきました。
ゲオルグさんは高い集中力でものづくりをされているアーティストなんだなということが伝わってきました。アンさんは、彼女の世界観があって、そこから全部が始まっているんだということをまじまじと感じることができて、ますますファンになりました。本当に素敵な時間でした。
自分の絵を見せることすらも恥ずかしかったですけど、いつかコラボレーションができたら…夢のまた夢だなと思いますが、そんな機会があったらうれしいです」。
美波(みなみ)
東京都出身。2000年、深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』で映画デビュー。2014年に文化庁新進芸術家の海外研修メンバーに選出され、フランス・パリのジャック・ルコック国際演劇学校に1年間在籍。2021年9月公開の映画『MINAMATA―ミナマタ―』(アンドリュー・レヴィタス監督) にてジョニ ー・デップの相手役としてハリウッドデビューを果たす。
現在はフランスと日本、アメリカを拠点に、ワールドワイドに女優活動を続けている。
Instagram:@minamimanim
Photo by presse parisienne
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