上手ではないが、妙に言葉が伝わってくる唄

 とはいえ、“歌手、佐藤浩市”は、決して上手ではありません。細かなリズムを刻んだり、音程をキープしたりのテクニックは、歌える若手俳優たちの方が器用にこなしてしまうでしょう。  

それでも、佐藤浩市の唄は、妙に言葉が伝わってくる。リズムにオンタイムで乗れないそのズレが、歌詞を音楽からほぐしていくような効果を生むのですね。その絶妙な遅れが、打ちひしがれたブルースやフォークロックの世界にマッチしている。彼がこのジャンルの音楽を好むということに、説得力をもたらしているわけです。

絶妙なバランスの上に音楽活動が成り立つ

 佐藤浩市のようなベテラン俳優が歌うブルースというと、海外ではイギリスの名優、ヒュー・ローリー(代表作にテレビシリーズ『ドクター・ハウス』、映画『スチュアート・リトル』シリーズなど)の例が浮かびます。  

自らピアノやギターを弾いては、マニアックなクラシックブルースを歌うローリーも、2011年にアルバム『Let Them Talk』をリリースし、全英アルバムチャート2位のヒットとなりました。BBCの人気音楽番組『Later…with Jools Holland』にも、ミュージシャンとして出演するほどの地位を確立しています。

その点、佐藤浩市をミュージシャンやボーカリストと呼ぶことは難しいかもしれません。けれども、それは決して悪い意味ではなく、あくまでも音楽好きの俳優が情熱を込めたというスタンスを崩すことなく、絶妙なバランスの上に音楽活動が成り立つ根拠となっている。  

熟したアマチュアリズムのおかげで、朴訥(ぼくとつ)さと貫禄が奇妙な形で両立している。佐藤浩市の唄は、そういう味わいに満ちているのだと感じました。

いつか佐藤浩市がボーカリストを演じる映画を観てみたい。ドキュメンタリーともフィクションともつかない緊張感を楽しめるような気がします。 <文/石黒隆之>

石黒隆之
音楽批評。カラオケの十八番は『誰より好きなのに』(古内東子)


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