徐々に演技派俳優の道へ…
そもそも山﨑の演技の基本は、自然体にある。リアリズムとの相性は抜群で、『オオカミ少女と黒王子』では、巨匠・廣木隆一監督の演出によって非常にリアルで生々しい映像が印象づけられ、山﨑の自然体の演技が躍動していた。リアリズム志向のラブコメによって純粋に俳優としての実力を養ったのだ。 2016年にフジテレビ「月9」枠で放送されたドラマ『好きな人がいること』では、実写化王子のレッテルから解放され、夏の湘南に降り注ぐ太陽と海の輝きの中でフレキシブルで自然体の演技を画面に刻み付けている。 しかし、このドラマ作品への出演で、そろそろ実写化王子の看板は潮時かと思ったのかもしれない。『一週間フレンズ。』(2017)や『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017)を通過しながら、徐々にではあるが、又吉直樹原作の『劇場』(2020)やNetfilixオリジナルドラマ『今際の国のアリス』(2020)など、演技派俳優の道へシフトしていくことになる。
「キラキラ映画」の救世主としてバージョンアップ
Photographed by LESLIE KEE ※ジョルジオ アルマーニ ジャパンのプレスリリースより
とは言え、大の山﨑賢人ファンである筆者にとっては、実写化王子俳優であった頃の山﨑に懐かしさをふと感じることがある。 日本人では初となる「A|X アルマーニ エクスチェンジ」の広告モデルに3年連続、5シーズン起用され、写真家レスリー・キーが捉えた一枚一枚には成長した姿がリアルに、そして実に生々しくフォトジェニーに映された。やはり実写化王子の演技で養ったリアルな自然体演技の名残りと考えて差しつかえないだろう。 『オオカミ少女と黒王子』を劇場の大スクリーンで観たときの興奮は今でも忘れられない。二階堂演じるオオカミ少女のことを傷つけてしまった山﨑扮する黒王子が、後悔を胸に修学旅行先の神戸の繁華街を走り抜ける姿には、映像表現のリアルな息吹を間違いなく感じたし、キラキラ映画の金字塔を打ち立てたと確信した。 さらにそれは、山﨑のリアリズム志向の演技が、実写化ラッシュの波で今にも窒息しそうだったラブコメを救うことにもなったのだ。キラキラ映画の救世主として、その孤高の輝きはバージョンアップされ続けていて、実写化王子のイメージはいつまでも有効だと思う。