商談や会議などのかしこまった場では「説得力」が必要になります。上司や社長に反論を述べるのは気が引けるかもしれませんが、そんな時は「ヒューリスティック」という心理を利用したビジネストーク術を使うと良いでしょう。知性を感じさせるためのテクニックをご紹介します。

会社員として働いていると、本当はあまり乗り気でないことであっても、上司や社長の意見に反論するのが難しく感じることがあります。 私たちには、権力には逆らえない「ヒューリスティック」という心理があります。そこで、この心理を利用した、正しい説得法について考えていきましょう。

商談や会議では説得力が不可欠! 知性を感じさせるビジネストーク術
(画像=『Cinq』より引用)

ヒューリスティックとは

ヒューリスティックというのは、人が問題解決等のための意思決定を行う際に、無意識に使っている意思決定法のことを指します。そのひとつが「権威者・専門家の意見」です。社長の指示や医師のアドバイスに逆らえない心理のことをさします。

500万人のユダヤ人を強制収容所に送り込んだ小心者

その事例として、ナチのホロコーストを紹介します。
人の命を奪うことは許されるものではありません。ところが、権威者の指示があると積極的に従うようになってしまいます。
ナチのユダヤ人収容所では800万人から1200万人が殺害されました。ユダヤ人を収容所に輸送する最高責任者であったアドルフ・アイヒマンは、数百万人(自分では500万人と述べています)のユダヤ人を収容所に送り込みました。第二次世界大戦後、アドルフ・アイヒマンは、密かにアルゼンチンに逃亡して、偽名を使用して、様々な職を転々として、身分を隠しひっそり暮らしていたのでしたが、ナチスハンターに捉えられます。

私たちは、数百万人もの人間を殺害することに加担するということは異常な行動であると考えますが、アイヒマンは異常人格者だったのでしょうか。

裁判で明らかになったアイヒマンは人格異常者などではなく、真面目に職務に励む一介の平凡な公務員でした。

このことから、ナチスの戦犯たちは人格異常者など特殊な人物であったのか、それとも善良な市民であっても、上部から集団虐殺の命令があると、誰でもその命令に従い、残虐行為を犯すものなのかという疑問が巻き起こりました。

そこで、S・ミルグラムという心理学者が実験でこの現象について明らかにしました。被験者を教師役にして、スタッフをサクラとして生徒役にしました。研究者であるミルグラム(権力者役)は教師役の被験者に対して、クイズを生徒役に出題して、間違えるたびに生徒役に電気を流すように指示しました。しかも、間違えるたびに流れる電気を強くするように指示しました。そして、最高レベルでは、死に至ることもあると説明をしました。

実験が始まり、通電されるたびに生徒役のスタッフは苦痛の声を上げ、実験を中止するよう懇願しました。普通なら、このような中で、恨みも怒りもない他人に自分の手で苦痛を与えることはありえないことです。最後まで実験を続けた人はどのくらいいたでしょうか? 研究グルーブのメンバー全員がほとんどいないと考えていました。実際は、半数以上の6割の人が死に至る可能性のある最後まで実験を続けていたのでした。しかも、実験を楽しんでいた被験者もいたというのです。人間の残虐性が明らかになりました。また一方で、「権力者の指示には逆らえない」という証明になりました。

「権威者・専門家」の利用法

筆者も、機械メーカーのユーザー会の事務局長として、昔から、権威者・専門家を仕事に使ってきました。例えば、ユーザー会の講師には、有名企業の経営者にお願いしました。自社が顧客満足を経営理念としていたため、有名講師に顧客満足の重要性を語ってもらうのです。また、現在でも認定心理士として心理理論について説明しています。こうすることで、説得力が向上します。そこで、この心理傾向の使い方を整理してみましょう。

【権威者・専門家に登場してもらう】

例えば、サプリメントのCMに有名病院の専門医にコメントしてもらうような方法です。サプリメントの成分の必要性について語ってもらうことで、説得力が向上します。筆者自身も認定心理士ですから心理学の専門家ということになります。