2019年の出生数は86万人という推計が発表されました。1年前と比べて、5万人も減少すると見られています。
第二次ベビーブームのピークである1973年の出生数は、209万人。50年弱のうちに半数以下になっているのです。
少子化の原因はどこにあるのでしょうか。
今回は、なかでも【不妊治療】をテーマに、しゅふJOB総合研究所が行ったアンケートデータを参照しながら主婦のコメントをご紹介していきます。
不妊治療の費用・助成制度とは
•最も課題と思われるものは「治療費」
この記事の後半で、具体的なアンケート結果を参照しますが、不妊治療で最も課題と思われているものは「治療費」です。治療費の平均はいくらくらいでしょうか。 NPO法人が行った「不妊治療と経済的負担に関するアンケート 2018」によると、人工授精1回の平均治療費は1万~5万円未満。体外受精・顕微授精については、平均治療費が50万円を超えると回答した人が増加しています。•不妊治療への支援はある?
厚生労働省が経済的負担の軽減のために不妊治療にかかる費用の一部を助成しています。
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◆助成対象者
1)特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、または極めて少ないと医師に診断された、法律上の婚姻をしている夫婦
2)治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦
◆助成対象となる治療
・体外受精
・顕微授精
◆給付される助成内容
1)特定不妊治療に使った費用に対して、1回の治療につき15万円までを助成する(採卵を伴わない凍結胚移植等については7.5万円)。回数は初回治療を受けた妻の年齢が40歳までなら6回、40歳以上であれば通算3回まで。
2)上記1のうち、初回の治療に限り30万円まで助成(採卵を伴わない凍結胚移植等を除く)
3)特定不妊治療のうち、精子を精巣上体から採取するための手術を行った場合は、1および2のほか、1回の治療につき15万円まで助成(採卵を伴わない凍結胚移植等を除く)
4)上記3のうち初回治療に限り30万円まで助成
◆助成金を受けられる所得制限
夫婦合算で730万円まで
参照:厚生労働省 不妊に悩む夫婦への支援について
治療の流れ(概略図)では、点線部分の治療が対象です。
引用元:仕事と不妊治療の両立支援のために(厚生労働省)
全ての助成の給付を受けたとしても、対象になる体外受精・顕微授精の費用平均50万円ということを考えると全額補償とはいかないものです。治療のための費用は大きな課題といえます。
「不妊治療」みんなはどう思ってる?アンケート結果
では、しゅふJOB総研(※末尾)が実施した「不妊治療に関するアンケート調査(2020年1月)」の結果をみてみましょう。(引用:しゅふJOB総研アンケートデータ/有効回答数700名 ※女性のみ)
•不妊治療をした経験は「ある」30.3%
経験がある…30.3%
経験はないが検討したことはある…10.3%
経験はないし検討したこともない…59.4%
約3割の人が「不妊治療を経験した」と回答しています。つまり回答者のおおよそ3人に1人は不妊治療をしているという結果です。
属性別に見てみましょう。
◆不妊治療の経験:子どもの人数別比較
◆不妊治療の経験:年代別比較
先述した厚生労働省の助成対象も40代まで。40代の「不妊治療をしていた」または「検討していた」の回答は46%と約半数です。
さて、30代~50代はいわゆる”働き盛り世代”とも呼ばれる年代です。不妊治療中の仕事はどのようにしていたのでしょうか。
•不妊治療時は「長期の仕事をしていた」69.8%
長期フルタイムで仕事をしていた…42.0%
長期パートタイムで仕事をしていた…27.8%
短期・単発で仕事をしていた…6.6%
仕事はしていなかった…18.4%
その他…5.2%
長期(3か月未満の短期契約や単発のお仕事を除く就業期間)で仕事をしていたと回答した人が約7割です。
短期・単発で仕事をしていたと回答した人を含めると、実に8割の人が仕事をしながら不妊治療を受けていることがわかります。
•不妊治療と仕事を両立させる場合の課題「治療にかかる費用の負担」80.7%
”不妊治療と仕事を両立させる場合、何が課題だと思いますか?”という問いに対して、最も多く回答されたのは「治療にかかる費用の負担」80.7%でした。次いで「治療によってかかる心身への負担」68.9%、「治療に対する職場の理解不足」59.6%、「治療と両立できる条件の仕事が少ない」50.3% でした。
実際に経験した人と、経験がない人の回答を比較してみましょう。
◆不妊治療と仕事を両立させる場合の課題:不妊治療経験別比較
不妊治療経験がある人は、下記の順番で課題感をもっています。
1.治療にかかる費用の負担…76.4%
2.治療によってかかる心身への負担…63.7%
3.治療に対する職場の理解不足…61.3%
4.治療と両立できる条件の仕事が少ない…58.5%
不妊治療経験がない人の回答と比較してみると、特に治療と両立できる条件の仕事が少ないと感じている率の差が、12%ほどあることがわかります。
不妊治療の先には、出産・育児が待っている人もいるでしょう。治療を含めて、将来を見越せば多くのお金が必要になりますし、仕事をして稼げるときに稼いでおきたいというのが本音ではないでしょうか。
ただ、実際には「治療と両立しやすい仕事が少ない」と感じていることもアンケート結果から見えてきます。
特に、人工授精までは通院日が前もってわかることも多いのですが、体外受精や顕微授精をするとなると通院の頻度が上がる上に、通院日が前もって決まっていないこともあり、急な欠勤をすることも出てきます。注射や検診で通院をするため通院回数が多くなり、遅刻や早退を利用することも必要になります。
仕事を休むにしても、有給休暇の日数も有限です。仕事によってはなかなか取得しにくい繁忙時期などもあるでしょう。治療が長引けば、心身共に疲労してしまう人も少なくないのです。
下図は厚生労働省資料「仕事と不妊治療の両立支援のために」に掲載されている不妊治療のスケジュールです。
また、治療は身体的・精神的な負担も伴い、ホルモン刺激など治療によっては体調不良になるケースもあります。
こういった背景からも、フルタイムで仕事をしながらの治療は、職場や上司の理解が不可欠といえます。
それでも、不妊や不妊治療に関することは、プライバシーに関わることです。職場や上司に伝えづらい、相談しづらいと感じている方も多いのではないでしょうか。
今回アンケートに回答頂いた方から、コメントが寄せられているのでそちらもご紹介します。
フリーコメント|「治療休暇があったら辞めずに済んだかもしれない」など
上記のアンケートで、自由回答欄にコメントが寄せられています。
◇フリーコメントより(年代:不妊治療経験あり・なし)
・不妊治療はなんとなく恥ずかしさと、職場の方へはよほど信頼してないと本当のことを言えなかったりと(病気じゃないし)なかなか両立が難しいことだと思います(30代:あり)
・派遣の立場で不妊治療で、休みはもらいづらいので、フルタイムでない、両立できる仕事を探すしかない(40代:あり)
・加療中であることをオープンにでき、通院の時間を取れる職場の寛大な理解があると通院しやすいのではないか(50代:なし)
・やはり、仕事のストレスもあって何度も流れた。治療休暇があったら、辞めずにすんだかも(40代:あり)
・土日に治療予約が殺到し、待ち時間が多かったり、平日にしか担当の医者がいないと自分の意向に反し、休みをとらなければならず、会社に迷惑がかかると考えてしまうことがありました(40代:あり)
・半休や時間休の制度を整えるのが良い(50代:なし)
・高額になる事が多いと聞いたりするので、仕事をしながらで治療はしたいが、上司にその説明をするのか辛いのでは(40代:なし)
・もっと少子化問題を社会問題として取り上げてくれたら、世間の人々も不妊治療を理解してくれ、休暇も取りやすい環境になるのではないか(40代:あり)
・私は 週3日程度の仕事でしたので、両立ができました。正社員で働いている方は 大変だろうと思います(50代:あり)
・フルタイムである程度有給がないと金銭的にも厳しいと思った(30代:あり)
・排卵日には、必ず休まなければならなかったので大変でした。休みが多すぎるという理由でクビになったこともあります(50代:あり)
・両立しなくとも、治療して妊娠出産後に、希望する頃に復職できるような社会の仕組みができることを望みます(30代:あり)
・周りの理解がなければかなりしんどいと思う(40代:なし)
・排卵のタイミングで治療が行われるため、急な欠勤が必要。職場に理解を求めようとすると、自分の月経周期を周知する感じになるのが嫌だった(40代:あり)
・不妊治療は冷たく聞こえるかも知れないけど個人の問題だと思う。職場での理解と言うのはこの国では無理な内容だと思う(50代:なし)
・明日来てくださいとか言われるので、急に仕事を休まなきゃいけないのもストレス(30代:あり)
・そこまでするなら仕事をしないで欲しい、他の人に迷惑(50代:なし)
・仕事との両立が難しいことだとは知らなかった(50代:なし)
・不妊治療は莫大な費用がかかるし、身体への負担も大きい。企業側が治療費を負担してくれるところが増えるとも思えない。男性の理解を得られるようにすることから始める必要がある(20代:なし)
・実際に経験しないと分からない事も沢山あるし、周りのサポートが無いと本当に難しいと思います(40代:なし)
プロはどう見る?川上氏のコメント
ここで、しゅふJOB総研(※末尾) 所長の、川上 敬太郎氏のコメントをご紹介します。
■川上 敬太郎氏のコメント■
日本の人口は2008年をピークに減少の一途をたどっています。少子化が続いているため今後も人口は減少していく見込みです。一方で子どもが欲しいと思っても、なかなか授からず苦しい思いをしている人がいます。仕事と家庭の両立を希望する働く主婦層に、不妊治療の経験の有無を尋ねたところ、約3割の人が経験があると答えました。不妊治療経験者の比率はお子さんの数が1人の人が最も多く、年代別では40代の人が最も多くなっています。
不妊治療の経験があると回答した人に「あなたは不妊治療当時、仕事をしていましたか」と尋ねたところ、「長期フルタイムで仕事をしていた」と回答した人が最も多く42.0%。次いで「長期パートタイムで仕事をしていた」と回答した人が27.8%で、合わせて7割近い人が長期で働いていたと回答しました。仕事と不妊治療の両立ができるかどうかは必然的な課題の一つだと言えます。
「不妊治療と仕事を両立させる場合、何が課題だと思いますか」という質問には、8割以上の人が「治療にかかる費用の負担」と回答しました。次いで「治療によってかかる心身への負担」68.9%、「治療に対する職場の理解不足」59.6%、「治療と両立できる条件の仕事が少ない」50.3%と上位4項目が50%以上となっています。不妊治療経験の有無とクロス集計すると、不妊治療経験がある人が「治療と両立できる条件の仕事が少ない」と回答した比率は58.5%となり、不妊治療経験がない人と比較して11.8ポイントも高い数値となりました。実際に不妊治療を経験することで、治療と両立できる仕事の少なさをより強く認識するようです。
不妊治療をめぐる、「費用の負担」「心身の負担」「職場の理解」「両立できる仕事」の4つは、どれも少子化対策における重要なキーワードだと言えます。不妊治療に臨む人が置かれている状況や心身の負担を理解するとともに、両立しやすい仕事を創出すること、そして保険適用の拡大など費用補助のあり方について検討を進める必要があると考えます。
まとめ
晩婚化などを背景に、不妊治療を受ける人が増えてきました。
しかし、不妊治療の費用負担もあり仕事は続けたい反面、欠勤・遅刻早退などで仕事に影響が出たり、上司・同僚に理解を得なければならないなど、治療に専念しきれない様子が伺えます。
2017年の厚生労働省のアンケート調査では、仕事と不妊治療の両立に悩んだ16%の人が、不妊治療を理由に離職していることがわかっています。
不妊治療のための休暇を福利厚生として整備する企業や、理解を促す指導を行っている企業もありますが、まだまだ数は少なく、不妊治療と仕事の両立のハードルは依然として高いといえるでしょう。
反対に、アンケート回答から見えてくる「治療と仕事が両立しやすい環境」はどのような環境でしょうか。下記のような制度がある環境は比較的両立しやすいと言えそうです。
・一緒に働く職場の人が不妊治療に理解がある
・失効年休の積み立てや、特別休暇、半日単位・時間単位の休暇制度など福利厚生が整備されている
・勤務時間の融通が利くフレックスタイム制である
・在宅勤務やテレワークを活用している
手前味噌ではありますが、主婦向け求人サイト「しゅふJOB」では、フレックスタイム制/完全在宅勤務OK/一部在宅勤務可能などの求人も掲載しています。お仕事を探される場合はこちらから。(※タイミングにより掲載が終了していることもあるのでご了承ください)
不妊治療の支援は、少子化対策の一つでもありますし、女性の活躍を推進するために検討されるべきものでもあるでしょう。
不妊治療と仕事の両立をするハードルを下げるため、もっとたくさんの企業が、支援を検討をすべき時期が来ているのではないでしょうか。
■調査概要
調査手法:インターネットリサーチ(無記名式)
有効回答者数:700名 ※女性のみ
調査実施日:2020年1月23日(木)~2020年1月31日(金)まで
調査対象者:ビースタイル登録者/求人媒体『しゅふJOB』登録者
■参考:
厚生労働省・報道発表資料 不妊治療と仕事の両立に関して厚生労働省として初めての調査を実施しました
厚生労働省 仕事と不妊治療の両立支援のために
<しゅふJOB総研について>
「結婚・出産などのライフイベントに関わらず、 もっと多くの女性が活躍できる社会をつくりたい」そんな志のもとにつくられた研究所です。「女性のライフスタイルと仕事への関わり方」に対する社会の理解を高め、女性の働きやすい職場をより多くつくっていくために定期的なアンケート等の調査を実施、結果を社会に発信しています。
※しゅふJOB総研公式ツイッター
※しゅふJOB総研は、東京大学SSJDAに過去の調査データを寄託しています
1.フレックスタイム制度の職場
2.完全在宅OKの職場
の順で掲載しています。
提供・しゅふJOBナビ
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