高麗(コリョ)時代の太祖・王建(ワンゴン)の時代から1000年以上の歴史を誇る朝鮮半島の伝統酒「ムンベ酒」。酒が貴重だった高麗時代には家臣が王に献上。その中で全州(チョンジュ)李氏・平章事公派(ピョンチャンサゴンパ)の家門酒が「ムンベ酒」だったという。
その家門では「ムンベ酒」の醸造方法を秘密にして王にだけ献上していたが、高麗時代中葉にその子孫によって広く波及。朝鮮半島北部・平安道(ピョンアンド)の道都であった平壌(ピョンヤン)の土俗酒として知られるようになり、現在では平章事公派第21代目にあたるムンベ醸造院イ・キチュン代表を中心に、ムンベ酒を醸している。
家族で造り続けた高麗時代の家門秘酒
現在ムンベ酒は、京畿道(キョンギド)金浦(キンポ)市に位置するムンベ醸造院本社工場でのみ造られている。ムンベ醸造院の始まりは、4代目イ・キチュン代表の父方の曾祖母までさかのぼる。
息子である2代目イ・ビョンイル氏に家門秘酒として技術を伝承、ビョンイル氏は1946年に平壌近くの平川(ピョンチョン)郡に醸造所を設立、以降3代目のイ・キョンチャン氏の時代まで、同地でムンベ酒を醸し続けた。
その後、朝鮮戦争をはさみ、1954年に3代目イ・キョンチャン氏がソウル市西大門区(ソデムング)延禧洞(ヨニドン)に工場を設立、亀甲船(コブッソン)という名でムンベ酒作りを再開した。しかし1965年、糧穀管理法の施行により人々の主食となる穀物で酒を造ることを禁止され、やむなく製造を断念したという。
製造を禁止されている20数年間も、自宅ではムンベ酒造りの技術を伝承していたイ・キョンチャン氏。1986年にはムンベ酒が韓国の重要無形文化財86号に認定され、同氏は技術保有者として認定を受けた。
翌1987年には延禧洞で醸造所を再開、同時に現代表である4代目イ・キチュン氏が本格的にムンベ酒の製造を学び始めたという。1990年に韓国国税庁から大量生産が可能な製造免許を受け、生産量を増やすとともに販路も拡大していった。
その後1995年にはイ・キチュン氏が大韓民国食品名人第7号の認定を受け、現在では5代目となる息子イ・スンヨン氏とともにムンベ酒の製造を続けている。
じっくり時間をかけて醸される香り高い酒
ムンべ酒の材料
ムンベ酒はもともとアルコール度数40度で、高濃度の酒だ。原料は小麦で造った麹と粟、モロコシといたってシンプル。麦麹を使うことでさっぱりとした飲み口でありながら香り高い酒に仕上がる。
材料はすべて韓国産を用い、中でも粟とモロコシは水と空気がきれいな江原道(カンウォンド)の契約農家から仕入れ、定期的に畑に出向いて栽培管理も行なっている。
ムンべ酒の製造工程
ムンベ酒はまず麹造りから始まる。小麦と麹、水を入れてよく練った後、型に入れて踏み固める。しっかりと空気を抜いたところで、約25度の冷暗所で藁をかけて乾燥させる。藁には水分を吸収する働きがあるため、適度に乾燥することができ麹造りにぴったりなのだという。
麹ができたら、焼酎の元となる酒母(酵母を多量に培養したもの)造りだ。乾燥した小麦麹を割り入れ水を加えた後、粟を加えて約5日間発酵させる。その後、モロコシを蒸したものを加えてさらに15日間発酵させ、蒸留過程に移る。
ムンベ酒の蒸留は材料が焦げないように低温で行なうため、香り高い焼酎を造りだすことができるという。
蒸留したてのムンベ酒はアルコール臭の強い癖のある香りと雑味の多いとがった味がするため、1年以上熟成させる必要がある。じっくりと熟成させることで口当たりがまろやかでやわらかくなり、花のような香りがたつ焼酎へと仕上がる。
現在では工場で酒造りを行なっており、製造は酵母や菌が自然発酵しやすい温度・湿度を保つことのできる春(4月~6月頃)と秋(9月~11月末頃)に限定。年間で約60トンを製造しているという。
ムンべ酒の飲み方
ムンベ酒は癖がないので、ポッサム(茹で豚)などの肉料理から刺身などの魚料理まで、色々なおつまみに合うのが特徴だ。飲み方はストレートのほか、水割りやロック、さらにはトニックウォーターで割ってカクテル風に味わうのも飲みやすくおすすめだという。
次世代、そして世界に広がる伝統酒へ
ムンベ酒醸造院では、ムンベ酒造りの技術を一般の人にも広めて理解をしてもらおうと年に1回不定期で、試演・試飲会を行なっている。韓国の伝統酒のひとつであるムンベ酒がどのような過程を経て造られているか、昔ながらの方法を一般公開することで、伝統酒に関する興味関心を高めることを目指している。
また5代目となるイ・スンヨン氏は、高校2年生からムンベ酒造りを学び始め、建国(コングッ)大学で農業科学を専攻して酒造りについて知識を深めた。現在は、先祖代々受け継がれてきた酒造りの技術を現代的な技法へと昇華させ、ムンベ酒を世界的な名酒にすることを目標としているという。
陶器しかなかったムンベ酒を親しみやすいガラス瓶の容器で商品化したり、伝統酒になじみの薄い若者にも気軽に飲んでもらおうと、40度の商品のみならず低濃度の23度、25度の商品も開発するなど、伝統の味を守りながらも大衆化に向けて改良を続けている。
また海外進出にも積極的で、現在はアメリカ、日本、中国に輸出を行なっており、今後は高アルコール度数の蒸留酒をよく飲んでいるロシアやモンゴルなども視野に入れているという。
「ムンベ」とは韓国語でヤマナシの意味であるが、原料には使用されていない。「ムンベ酒」の香りがヤマナシの花と似ていることから名づけられたという。
「ムンベ酒」は2000年南北首脳会談時、青瓦台(チョンワデ)での晩餐会で韓国公式酒としても提供されたほか、国賓に振舞う貴重な酒として数々の重要な場面で登場してきた。
また、ロッテ、新世界(シンセゲ)、現代(ヒョンデ)などの百貨店やemart(イーマート)、ホームプラス、ロッテマートなどの大型マートなどで購入が可能と、手に入りやすいのも魅力のひとつだ。
歴史が長いながらも今でも身近に味わえる韓国の伝統酒「ムンベ酒」。1000年の歴史に思いをはせながら、杯をかたむけてみてはいかがだろうか。
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