タイ料理の醍醐味は、なんといっても「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」と感じるところにある。さまざまなハーブが鼻を突き、口の中を代わる代わる風味たちが刺激をする。そんな本場のタイ料理を味わうため、新大久保にある「ソムオー」という店を訪れた。

30代の後半に一時ハマったのは、タイで女子会をすることだった。

女友達とそれぞれ自分の都合で休みを取り、たまたまばっちり日程があえば国内の空港で、もしも合わないようならば、現地で待ち合わせる。みなスマホを持っているし、ほんの少しであってもタイに土地勘があったり、もしくはなくても、これまで散々海外を旅行した経験のある女たちばかりだから心配はない。

こうしてタイに着いたわたしたちが何をするかというと、ただひたすらタイ料理を食べつつ酒を飲み笑っておしゃべりをする。無表情で粛々とこなす日常から抜け出し、ねっとりとした南国の気候に浮かれて笑い、露天で日本では絶対に着れないような派手なワンピースをノリで買って着替えて笑い、パイナップルをくりぬいてグラス替わりにした、花火がパチパチとスパークしている普段は絶対に飲まないようなカクテルを飲んで笑う。

あまりにタイが好きすぎて、やがてタイに行くことを「タイに戻る」とさえ言うようになっていた。

それくらい、定期的に微笑みの国タイへと出向き、女友達と馬鹿笑いをしていたわたしだが、昨年に子どもを産んだことで生活がガラリと変わった。

育児中心の生活となり、海外旅行にも挑戦したものの、さすがにフニャフニャの0歳児を亜熱帯の国へと連れていく勇気はなく、タイに焦がれる思いは募るばかりだ。せめて日本にいても、タイの気分を味わえないか……ということで、足を運んだのが新大久保駅にほど近い場所にある、タイ料理屋「ソムオー」だ。

「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=『DRESS』より引用)

■「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」というのがタイ料理

「ソムオー」の素敵な点をまずあげると、その内装だ。日本のタイ料理屋にしては広めであり、天井が高く、かつウッディな作りで、まるでバンコクのカオサン通りにあるカフェのようなのだ。

バックパッカーの聖地としてよく知られたカオサン通りだが、場所の不便さもあって近頃は廃れぎみだという。けれども個人的には、あの浮かれまくった雰囲気が好きで、タイに行くと、ホテルはカオサンに取ることがいまだに多い。

「ソムオー」を選ぶふたつ目の理由は、とにかくメニューが多いところ。

なんと200種類近くもあるという。しかも、例えば代表的なタイのメニューである青パパイヤのサラダ「ソムタム」であれば、一般的な「ソムタム・タイ」だけでなく、沢蟹入りの「ソムタム・プー」、沢蟹と発酵魚入り「ソムタム・プーパラー」、渡り蟹入り「ソムタム・プーマ」に加えてベトナム風味の「ソムタム・ベトナム」まである。

が、そこまでメニューが多いと、嬉しい悩みが生まれる。何を食べればいいのか、という問題だ。もちろんトムヤムクンやパッタイ、ヤムウンセンといった定番メニューば安心だけれども、せっかくこれだけメニューがあるのならば、挑戦したい……というわけで、今回はお店のオススメだという自家製ハム和え物の野菜包み(ネームクルック)、そしてタイでも見たことのないつけ麺タイプの「カオソーイ」をいただくことにした。

まずはタイビールで喉を潤す。タイ気分を味わうために、あえて氷入りのグラスに注いでいただく。黄金色に輝く液体とキメ細やかな泡。薄めのあっさりとした味は食前酒としてピッタリだし、タイ料理にもとても合う。

「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=バンコクのカオサン通り(写真提供:大泉りか)、『DRESS』より引用)
「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=『DRESS』より引用)
「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=シンハービール 600円(税込み)、『DRESS』より引用)

時刻は夕方の16時。

ソムオーには、休憩時間がないのだが、それもいい。ランチとディナーのちょうど間の時間、ふらりと休憩で入ったカフェでビールを頼む贅沢さよ……なんてことを考えていたら一品目が登場した。

「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=自家製ハム和え物の野菜包み(ネームクルック)1728円(税込み)、『DRESS』より引用)

「ネームクルック」とは、タイのハム「ネーム」を使った和え物。香辛料で味付けされた豚肉の生ハム「ネーム」を、ピーナッツ、ココナッツ、生姜、葱、そして味つけてフライしたお米と和えてある。添えられているレタスに、スイートバジルやパクチーパラン、ミントなどを千切ったものを一緒に乗せていただく。

「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=『DRESS』より引用)

一口食べた瞬間に、口の中が小さいパニックを起こした。
しょっぱさ、甘さ、辛さ、各種香辛料の爽やかさとパンチの利いた風味、さまざまなハーブの鼻に抜けるような香り。フレッシュな野菜類に、香味野菜のアクセント、しっとりしたネームに、揚げた米のカリカリサクサクとした食感。

「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」というのがタイ料理の醍醐味ではないだろうか。

「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=カオソーイ 1080円(税込み)、『DRESS』より引用)

「何を食べているのかわからない、けど、美味い」を繰り返しているうちに、二品目がやってきた。「カオソーイ」と呼ばれるタイのカレーラーメンだ。

「カオソーイ」はチェンマイ地方の名物。
ちょっと前にマッサマンカレーが流行ったけれども、実はカオソーイのほうが、美味しいのではないかと個人的には思っている。通常は茹でた卵麺がスープに浸かり、その上に揚げた麺がトッピングされた状態で提供される。

必ずついてくるのがタイの高菜の漬け物パックドーンと赤玉ねぎ。それにレモンもしくはライム。「ソムオー」の場合はつけ麺スタイルで提供されるので、麺が伸びることを気にせず、慌てないでビールのつまみとして食べられるのが嬉しい。

「いま、何を食べているのかわからない。けど、美味い」本場タイ料理を味わう新大久保
(画像=『DRESS』より引用)

付けダレは、ココナッツ風味で甘辛いカレー味だが、あまりクセはなく日本人好みの味だ。

ごろっとした鳥肉が入っていて食べ応えもある。スープを茹麺につければ主食になるし、揚げ麺ならばつまみとして楽しめる。同じ“麺”という食材なのに、手の加え方が違うだけで、こうも変わってくるのが面白い。

四月の頭、タイではソンクランと呼ばれる旧正月の祭りがおこなわれる。街中は互いに水を掛け合って大盛り上がりだ。何年か前のこの祭りに、わたしも女友達たちと参加したことをふと思い出す。

息子も1歳を過ぎて歩くようになり、ずいぶんとしっかりしてきたし、さて、今度はいつ、タイに戻ろうか。

取材協力/「ソムオー」
住所:東京都新宿区百人町1-11-24 YSビル1F
電話番号:050-5868-8433
定休日:なし


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