全羅北道・淳昌郡 ムン・ジョンヒハルモニコチュジャン
時を重ねながら熟成する醤(ジャン)は造り手の人生そのもの。 醤(ジャン)を知り、韓国食文化の魅力を味わう。 醤油や味噌など日本の味に欠かせない調味料があるように、韓国でも味の基本となる調味料が古来から発達してきた。それが、コチュジャン(唐辛子味噌)、カンジャン(醤油)、テンジャン(韓国味噌)をはじめとした、「醤(ジャン)」と総称される穀物主体の伝統調味料だ。
唐辛子の鮮やかな赤色が特徴のコチュジャンは、「赤くて辛い」韓国料理に多用される韓国固有の調味料。ソウルから車で4時間の全羅北道(チョルラプッド)淳昌(スンチャン)郡は、古くからコチュジャンの名産地として知られてきた。
そんな淳昌で生まれ育ち、淳昌でコチュジャンを作り始めて60年。淳昌郡が選定する「伝統コチュジャン製造技能者」第1号の称号を持つ文貞姫(ムン・ジョンヒ)ハルモニ(おばあさん)を訪ねた。
コチュジャンの里、淳昌郡
韓国におけるコチュジャンの誕生は、唐辛子が伝来した17世紀頃と見られている。19世紀始めに書かれた生活百科事典「閨閤叢書(キュハッチョンソ)」には、麹と塩を利用した現代のものに近いコチュジャンの作り方が登場し、地域特産品として淳昌のコチュジャンを紹介する記述がある。
朝鮮時代からコチュジャンの里として名を馳せてきた淳昌。朝鮮建国を成し遂げた太祖・李成桂(イ・ソンゲ)にまつわるこんな逸話も残っている。
高麗(コリョ)時代末期、淳昌に滞在中だった師匠の無学大師を訪ねた李成桂。その道すがら、とある農家で口にしたコチュジャンの味が忘れられず、国王即位後に献上品として納めさせるようになったのが、淳昌コチュジャンが世に知られる契機となった。
淳昌コチュジャン独特の味。それはいかにして生まれるのか。この地で87年の歳月を送ってきたムン・ジョンヒハルモニはこう話す。
「淳昌は昔から玉川(オッチョン)と呼ばれるほど水が清らかな土地だった。そして山に囲まれた盆地だから、霧の日が多くてね。湿度が十分だから、コチュジャンの味を左右する麹も良い具合に出来上がる」
きれいな水と発酵に適した気候。淳昌には、コチュジャン作りに最適な天恵の自然環境があった。
手間と時間の産物―伝統コチュジャン
穀類、唐辛子粉、大豆麹、塩を主な原料とするコチュジャン。それぞれをよく混ぜ合わせ、オンギと呼ばれる甕に入れ、一定期間熟成させると深い赤色を帯びたコチュジャンが出来る。
ムン・ジョンヒハルモニが5代目となる「ムン・ジョンヒハルモニコチュジャン」では、代々伝わってきた製法を今も守り続ける。
「コチュジャンの仕込みには、もち米粉を粥状にしたものを用いる粥コチュジャンと、釜で蒸したもち米を石臼でついたものを用いる餅コチュジャンの2種類があります。最近は手軽な粥コチュジャンが主流ですが、私たちは伝統的な製法である餅コチュジャンで仕込みます」
ムン・ジョンヒハルモニの技量を受け継ぐ6代目、嫁のシン・ヘランさんが教えてくれた。8月中旬の麹作りから秋~冬場の仕込みまで、1年を通じて行なわれる作業はすべて手作業。材料にもこだわり、米・大豆・唐辛子は、淳昌地域の契約農家から仕入れた地元産を使用する。
【コチュジャン作りの流れ】
表面に無数の微細な空気穴を持つため通気性に優れ、「息をする器」とも言われる。オンギの中で、コチュジャンはゆっくりと時を重ねながら熟成していく。
陽の当たる場所で熟成させること1~2年。辛味と塩気が適度に抜け、深い旨みを持つコチュジャンが完成する。
味の原点はシオモニから学んだ伝統製法
ムン・ジョンヒハルモニは17歳で嫁いで以来、コチュジャンを作り続けてきた。家庭で食べる伝統調味料は自給自足が当たり前だった昔。 醤作りをするシオモニ(義母)を手伝いながら、徐々にコチュジャンの作り方を身に付けていった。
失敗しては叱られる日々。もち米の蒸し方を間違え、芯ばかりの蒸米ができてしまった日は今でも覚えている。 当然シオモニにはこっぴどく叱られ、自分のふがいなさに人知れず涙を流した。しかし、そんな思い出も今となっては笑いの種。明るい笑顔で笑い飛ばす。
「だから、うちのミョヌリ(嫁)はあまり叱らなかった。どれだけつらいか、身を持って経験したからね」
「ムン・ジョンヒハルモニコチュジャン」では、毎年20トンものコチュジャンを製造する。12月の最盛期には、連日夜を徹しての仕込み作業だ。伝統調味料の生産においても機械化が進む昨今、昔ながらの製法を守り続ける理由は何か。そう問うと、穏やかだったムン・ジョンヒハルモニの口調が一変して強くなった
「デパートの入店依頼、貿易会社の輸出提案は何度もあった。だけど、これからも受け入れるつもりは一切ないよ。大量生産するようになれば製造過程が疎かになって、たった1つでも何かが欠ける。シオモニから習った方法で真心を込めて作ってこそ、淳昌コチュジャンなんだ」
固い信念をを守り続けてきたハルモニは、いつしか淳昌で指折りのコチュジャン名人として有名になっていた。1987年には淳昌郡主催の伝統コチュジャン品評会で1位に輝く。これまでの苦労が一気に報われた最高の瞬間だった。
「正直さでしょうか。良質の材料を使用して、手作りできる範囲で昔ながらの味を守っていること。配合などはいまだ勘に頼る部分が大きく、生産のマニュアル化も課題ですが、大衆化されていない家庭の味、ソンマッ(手の味)をお届けしています」
造り手の手間ひまと長い年月を経ながら、じっくり熟成・発酵をとげたコチュジャンは、シンさんいわく「美味しい辛さ」になる。コチュジャンが仕込まれたオンギの蓋が開いた瞬間、鼻孔をくすぐる濃厚な香りが漂った。
舌にのせてみると、唐辛子の辛味は驚くほど丸くなり、自然が作り出した柔らかなコクは、いつまでも大切に味わっていたくなるほど。コチュジャンの持つ、「美味しい辛さ」。ぜひ本場で味わっていただきたい。
商品購入方法
「ムン・ジョンヒハルモニコチュジャン」は、淳昌郡内にある店舗2カ所で購入できるほか、日本からはEメールを通じて注文・購入できる。
もち米コチュジャンをはじめ、麦コチュジャン、梅コチュジャンなど珍しいコチュジャン(コチュジャン類は500g10,000ウォン~)のほか、チャンアチ(漬物)類も豊富に揃う。商品によって異なるが、500gの小売からkg単位での販売が可能。
本店(淳昌伝統コチュジャン民俗村内)
住所:全羅北道(チョルラプッド) 淳昌(スンチャン)郡 淳昌邑(スンチャンウッ) 白山里(ペッサンリ) 265-19(位置) 電話番号:063-653-3130、063-653-8230 FAX番号:063-653-3103 営業時間:9:00~20:00 休日:韓国の祝日・連休時は臨時休業の場合あり。日程はお店のホームページにてお知らせ 日本語:不可 支払方法:ウォン、カード(JCB,visa,master,amex) ホームページ:http://www.kochujang.kr/ Eメール:koreansauce@naver.com ※韓国語・英語のみ可。日本までの送料はお客様負担 交通:江南高速バスターミナルから淳昌共用バス停留所(バスターミナル)まで高速バスで約3時間半(1日5本運行)。淳昌共用バス停留所から淳昌伝統コチュジャン民俗村まではタクシーで約15分。
支店 住所:全羅北道 淳昌郡 淳昌邑 淳化里(スンファリ) 271-1(位置) 交通:淳昌共用バス停留所から徒歩約10分 ※旧正月・秋夕(チュソク)期間のみ営業
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