現在、国内の連続ドラマで最長シリーズを誇る「科捜研の女」。1999年から始まった同シリーズが、ついに映画化。9月3日(金)に全国のスクリーンで上映される。20年以上、シリーズの主人公、榊マリコ(以下、マリコ)※を演じる沢口靖子さんへのインタビュー。※榊の字は木偏に神の「榊」が正

沢口靖子「日常を演じる女優だからこそ、自分の日常をきちんと生きていたい」
(画像=『DRESS』より引用)

手元には、細かく書き込まれた取材回答用のメモ。この取材のために事前に用意してくれたのだという。じっとこちらの目を見つめて軽くうなずきながら話を聞き、一つひとつ言葉を吟味するように丁寧に答える姿がとても印象的だった。

真摯で、実直。そんな言葉が似合う。
やわらかな笑顔と穏やかな話しぶりの裏に、すっと一本の筋が通ったような強さも感じられた。

デビュー翌年に選ばれた朝ドラ女優から、大河ドラマ、現行の国内ドラマ最長シリーズとなった『科捜研の女』。華々しいキャリアを積み重ねてきた沢口靖子は、どのようなスタンスで仕事に向き合ってきたのだろう。

■与えられた役に向き合い、自分のものとして表現したい

沢口靖子「日常を演じる女優だからこそ、自分の日常をきちんと生きていたい」
(画像=『DRESS』より引用)

1984年に芸能デビューを果たし、今年で俳優業37年目。壮大なキャリアを積み上げながらも、沢口がまとう雰囲気はやわらかく、自然体だ。役作りについての質問に、沢口は少し考えるようにして、こう答えた。

「役に向き合うスタンスは基本的に変わらず、与えられた役を着実に自分のものにして表現していきたいという思いでいます」

経験を重ね、キャリアを積むことで自分の「やりたい役」を選べるようになるのでは。そうしたこちら側の勝手な予想とは異なり、沢口は取材中、何度も「与えられた役をまっとうしたい」と繰り返した。

「俳優は表現者なので、こんな役、あんな役っていうより、与えられた役に対して自分の精神を解放した状態に持っていきたいという気持ちでいますね。30代後半ぐらいからは、企画の段階から加われるようになってもきたんですけど、それまではとにかくいただく仕事をこなしてきた感じで」

ハードな仕事をやり切るため、日頃から健康への関心が高いという沢口。
仕事から離れている期間も不摂生な生活を避け、疲れたときにはたっぷり眠る。「いつでも仕事に向き合える健康な心身を維持したい」という彼女は、これまでの多忙なキャリアの中で仕事に大きな穴を開けたことがないと語る。

「ただ」と沢口は言葉を添えた。

「お仕事となると気が張るから、というのもあるかもしれません。オンオフの切り替えはそんなに上手な方ではなくて。たまにいただけたお休みのあとに『何してたの?』と聞かれたときにも、『いや、もうぐったりして寝てました』と言ったり(笑)」

昔から、不器用で真っすぐで生真面目な性格は変わらない。
いろいろなものを器用にこなせるタイプが羨ましい、という。しかし、その羨ましさにとらわれて苦しんでいるわけではない。

「私はこういうタイプだから、その自分らしさを活かしていければいいのかなと思っているんです」

一つひとつの仕事にじっくりと向き合い、責任を果たしていく。その積み重ねが今の沢口につながったのだろう。

■「沢口靖子」像を追いかけていた自分を辞めた瞬間

沢口靖子「日常を演じる女優だからこそ、自分の日常をきちんと生きていたい」
(画像=『DRESS』より引用)

仕事に対するストイックさについて、沢口は「はじめから持ち合わせていたわけではない」という。

友達の誘いに乗って受けた第一回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリに選ばれ、翌年にはNHK連続テレビ小説のヒロインに抜擢されるなど、一気にスターダムを駆け上っていった沢口。次々に舞い込む山のような仕事に「ほぼ素人同然の状態」から向き合い続ける中で、徐々にプロ意識が育まれていった。

オーディション名の「シンデレラ」さながらに周囲の状況が一変する中、当時の沢口は世間の「沢口靖子像」を守ろうと必死だったという。

「イメージと名前が本来の自分よりも少し前にありまして。その自分に追いつこうと必死でしたね。自分から役者になりたいと思ってこの世界に飛び込んだわけではなかったため、覚悟がなかったと思うんです。あれよあれよって感じで沢口靖子像が大きくなっていって、えー! って感じで」

しかし、そんな日々から沢口が逃げ出すことはなかった。

「ずっと前だけ見てました。オーディションに受かったとき、これが私の運命かな、と受け止めましたので。辞めたいと思ったことも、後ろを振り向いたこともなかったです。ありがたいことにお仕事をいただけない時期があまりなかったといいますか、先々の仕事が決まっていたのも関係しているかもしれません。責任を果たすため、とにかく前を見るしかない状態だったものですから」

俳優「沢口靖子」の人気と知名度が上がるにつれ、守るべき「沢口靖子像」はどんどん大きく膨らんでいく。沢口は倒れないよう心身の健康に気を遣いながら、「沢口靖子像」を守るために全力投球を続けた。

しかし、30代前半のあるとき、沢口は世間が求める像を追いかけ続ける生活にブレーキをかける。スーパーマーケットでの買い物中、ふと周りの目を気にしすぎていた自分に気付いた。

「乳製品を買おうとミルクのパッケージに手を伸ばしたとき、『この商品を私が手に取ったら周りの人からどう思われるかな』と頭によぎった瞬間があったんですね。そこで、これではいけないなって気づいたんです。自分が買いたければ、何を買ってもいいわけじゃないですか。けれど、当時の私は求められている“沢口靖子”になろうと思うあまり、いつも他者主体みたいなところがあったんです。ちょっと本来の自分を見失いがちになっていたなと思って、そこからはもう少し自由に、自分がどうしたいのかっていう自分主体で生きるようになりました」

芸能界という輝かしい場所で、自分らしさを保ち続けること。
それは、活躍の場が増えれば増えるほど、想像以上に難しいことのようにも思える。

スター「沢口靖子」でありながら、本来の「沢口靖子」でもあり続けるため、彼女はどう心がけていたのだろう。その問いへの答えにも、“俳優”としてのプロ意識がにじみ出ていた。

「“日常”を演じなければいけない立場だからこそ、地に足を付けて“日常”を生きていかなければと。経験のないまま俳優業を始め、現場で叩き上げられながら、自分なりに説得力がある演技について考えた末にそう思うようになりましたね」

プロ意識が磨かれていった一方で、高まる人気に浮つくことなく真摯な姿勢を保つことができたのは、沢口の中にこうした気付きがあったからかもしれない。

■『科捜研の女』マリコは、分身でありながらもあくまで別人

沢口靖子「日常を演じる女優だからこそ、自分の日常をきちんと生きていたい」
(画像=『DRESS』より引用)

現在、国内の現行連続ドラマで最長を誇るシリーズとなった『科捜研の女』。主人公のマリコについて、沢口は「科学のエキスパートであり、趣味は科学みたいな人。仕事に対する信念があり、決して諦めずに真実を明らかにしようとするような精神の持ち主ですね。その純粋な情熱が、結果的に周りの人を衝き動かすことになるのかなあと思っています」と評する。

そのまなざしは、どこか外側からマリコを見ているかのようだ。
沢口がマリコを演じ始めてから22年。役柄と自分自身とが混ざることはないのだろうか。

「もちろん私の分身のような存在ではありますが、あくまでも私とマリコは別人ですね。1年ごと、年齢を重ねて戻ってくる場所でもあります。シリーズが増えていっても、脚本から生まれて皆さんに育てていただいた存在だということは変わらないですね」

新たな事実に気がついた瞬間、スイッチが入るマリコ。火が付いたマリコの勢いは強く、そのエネルギーが周りの人を巻き込みながら、真実へと辿り着く力となる。そんなマリコと沢口にはどのような共通項があるのか、そしてどのような違いがあるのだろうか。

「私の中にも、マリコのような性質があるかもしれません。マリコが科学捜査にのめり込むときの集中力や仕事に対する熱意は、私が俳優として作品に向き合うときと同じでしょう。正確さや規則正しさを重視するところもマリコと似ているかなと思います。ただ、マリコの魅力でもある屈託なく大胆な行動で真実に向かって突き進んでいくところなんかは自分と全然違いますね。私は比較的慎重なタイプなんです」

22年という長い時間の中で、作中のマリコは「科学一辺倒な人間」から「目の前の人と向き合って接することのできる人間」へと成長した。この22年、マリコと向き合い続けた沢口にはどういった変化があったのだろう。

「台本をより深く読み込むようになりましたね。脚本に書かれた言葉だけではなく、その奥にある思いを読み込み、楽しんで表現したいと思うようになりました。脚本家の精神と自分の演技がぴったりとハマったとき、私の中の俳優魂にスイッチが入るんです。科捜研の女だけではなく、どの作品でもそこに近づけるように努力しています」

■20年の集大成。『科捜研の女 -劇場版-』でも、役へのスタンスは変わらない

沢口靖子「日常を演じる女優だからこそ、自分の日常をきちんと生きていたい」
(画像=『DRESS』より引用)

20年以上続いてきた『科捜研の女』が、この秋ついにスクリーンに登場する。沢口は「まさか『科捜研の女』が映画になるとは思ってもいませんでした」と語る。

「もう夢のようなお話だと喜び、20年の集大成として取り組みたいなと思いました。とはいえ、マリコという役に向き合うスタンスはこれまでと変わらずに取り組んだつもりです。“いつも通り”を大切に演じながらも、観客のみなさんに感謝の思いを伝えられたらいいのかな……という気持ちで臨みました」

与えられた役に向き合い、自分らしく表現する。沢口の思いは本作でも変わらない。

「今回の『科捜研の女 ‐劇場版‐』は、監督が明確な世界観をお持ちで、『こんな画を撮りたいです』とおっしゃってくださったんです。脚本を読んで役作りをしていったのですが、その言葉でより作品の方向性を理解することができましたし、監督の世界観に私も乗っていくことができました」

一作品一作品、完成作品を見返しながら反省点を見つけ、次の仕事に活かしてきたという沢口。『科捜研の女』も、シリーズごとに役を磨き続けてきた。初の映画化となった本作について、「仕上がりに手ごたえを感じている」と微笑む沢口。役作りにつまずいたときには、人にあまり頼らず自分の中で消化し、乗り越えてきたと語った。

「アドバイスをもらうことはありますが、最終的に乗り越えるのは自分なのかなと。誰かに自分自身の問題を100%任せることはないですね」

ふんわりとした笑顔の下に、簡単には崩れない“自分”という土台の積み重ねがある。視線を逸らさずこちらを見据える瞳に、真正面から役に向き合い続ける沢口の誠実さと強さを垣間見たような気がした。

沢口靖子「日常を演じる女優だからこそ、自分の日常をきちんと生きていたい」
(画像=『DRESS』より引用)

映画情報

■タイトル:『科捜研の女 -劇場版-』

■公開日:2021年9月3日(金)

■ストーリー
≪チラシ≫
世界同時多発不審死事件、発生!なぜ、科学者だけが、殺されるのか?
京都、ロンドン、トロント・・・「助けて」と叫びながら高所から飛び降りたのは、全員が科学者だった。だが、犯罪に繋がる物的証拠はゼロ。各地で自殺として処理されようとしていたが、京都では榊マリコ(沢口靖子)をはじめとする科学捜査研究所のスペシャリストたちと捜査一課の土門刑事(内藤剛志)、解剖医の風丘教授(若村麻由美)らは、何かがおかしいと察知し、半ば強引に捜査を進めていた。そして、世界的な発見で脚光を浴びる一人の天才科学者にたどりつく。だが、その男には鉄壁のアリバイが存在するのだった・・・。スクリーンに散りばめられた謎を解かねば、死の連鎖は止められない! 
あなたに、この謎が解けるか?

■出演者
沢口靖子、内藤剛志、佐々木蔵之介、若村麻由美、風間トオル、渡辺いっけい、小野武彦、戸田菜穂、金田明夫、佐津川愛美
©2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会


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