唱と太鼓の2つの音が重なる伝統芸能「パンソリ」
唱い手(ソリクン)と鼓手(コス)の二人だけで綴られる伝統芸能パンソリ。楽譜がなく、人の口から口へ歌い継がれてきた、口承文芸のひとつです。パンソリは300年の歴史を持ち、民衆の歓喜や鬱憤、悲哀を反映して発展したため、雑草のようなたくましい生命力をもった芸能であるといわれています。18世紀末に原型ができた頃には祭りや市の日に村の広場で、パンノルムと呼ばれる大道芸の一つとして演じられるものでした。 パンソリのパンとは多くの人々が集まる場所を、ソリは音を意味し、2003年にユネスコの世界無形遺産に登録されました。
基本構成
声を使い、物語を演じるという部分で、パンソリは、日本の伝統芸能である浪曲と多く共通点があるといわれています。しかし、使用する楽器は、パンソリが打楽器である太鼓に対し、浪曲は旋律楽器である三味線を使用するなど異なる点もあります。
唱い手になるためには、小学生の間は発音や表現力・考え方などが形成されていく過程であるため、一般的に中学生になるまでに師匠に弟子入りをするのが望ましいと考えられています。その後、物語の始めから最後まで通して唄う完唱(ワンチャン)公演を行なったり、様々な公演に出演するなど、場数を踏んで上達していくことで一人前の唱い手になれるとか。プロの唱い手として認められるには、約10年の歳月が必要であるといわれています。
現代にも残る5つの作品
パンソリは、かつては12作品ほどの演目があったとされていますが、今日完全な形として残っているのは「春香歌(チュニャンガ)」、「沈清歌(シムチョンガ)」、「興甫歌(フンボガ)」、「水宮歌(スグンガ)」、「赤壁歌(チョッピョッカ)」の5曲のみ。パンソリの内容は物語なので、最初から最後まで唱うと8時間もかかる作品もあります。そのため舞台では物語の一場面が唱われることが多いです。
パンソリを楽しむためには
韓国で開催される公演の大部分は、字幕がない上、方言も多く、故事成語なども出てくるため、韓国語がわかっている人でも、話の内容を理解しにくいのが難点です。そのため、公演鑑賞をあきらめてしまう人も多いのではないでしょうか?しかしパンソリは、言葉がわからなくても十分に楽しむことができる伝統芸能だということをご存知でしょうか?パンソリの世界を満喫するための観賞ポイントをご紹介します。
1.声を楽しむ
数ある伝統芸能の中でも、パンソリは「人の声」が魅力。そのため、お気に入りの声を持っている人を探してみるのもオススメです。パンソリでは高くて美しい声が良い声と考えられていません。荒れた声であっても人の声を模倣するのではなく、自分の音を出せる声が美声とされています。声で人の心を揺さぶることができる人々は名唱(ミョンチャン)と呼ばれます。
2.表情を楽しみ、場面を想像する
どんな物語を唱っているのかを思い出しながら、「今、唱い手の表情は驚いているから、この場面かな?」など想像してみるのもパンソリを楽しむ方法の1つです。その想像に役立つのが、唄い手が片手に持っている扇子。この扇子は歌い手の心情を強調したり、場面が変化したことを知らせるのに使われるので要チェックです。 また、鼓手と呼ばれる伴奏者は唱い手に息を合わせ、ノリよく物語を展開させる指揮者的な役割を果たしているため鼓手に注目するのも忘れずに。
3.チュイムセをいれよう
チュイムセとは「オルシグ!」「チョッタ!」「オイ!」「アモン!」「クロッチ!」などの掛け声のこと。日本語では、「いいぞ!」「よっ!」などの意味を持ちます。唱い手と観客の掛け合いもパンソリの大きな魅力の1つ。このチュイムセ、タイミングは決まっていないので、自由に呼びかけが可能です。鼓手がいれることが多いですが、観客がチュイムセをいれると、唄い手と観客との一体感が生まれ、一緒に公演を創りあげるという楽しさがあります。そういった意味では、チュイムセがあると演者には大きな力になるといえるでしょう。 パンソリに触れてみよう 韓国に来たら、本場の「パンソリ」を聞いてみませんか?ソウル市内や地方で「パンソリ」を楽しめるオススメのスポットをご紹介します。
本格派
公演の演目に「パンソリ」が取り上げられているスポットです。1つの物語を深く味わいたいという人にオススメ!
国立国楽院 土曜名品公演
伝統的なパンソリや民俗舞踊だけでなく、現代人にも馴染みやすい創作音楽など幅広いプログラムを週代わりで楽しめる!国立国楽院が主催。
韓国語レベル:★★★(字幕なし)
国立劇場
国立劇場では完唱パンソリ公演などが定期的に開催されています。
韓国語レベル:★★★(字幕なし) チケット購入方法:個人で予約(02-2280-4114日本語可)、当日公演1時間半前から劇場窓口でも購入可 ホームページ:www.ntok.go.kr(韓国語・英語)
ちょこっと派
1つの演目としてパンソリは登場しませんが、物語の一部として出てきます。パンソリ初心者にオススメ!
貞洞劇場
伝統芸能を基盤にした創作ファンタジーの新作を生み出し続けている貞洞劇場では、パンソリをはじめ、舞踊など、独特な世界観を豊かに表現しています。
韓国語レベル:★☆☆(日本語・英語字幕あり)
Fanta-Stick
太鼓や琴など韓国伝統楽器、パンソリ(口承文芸の1つ)、B-BOYなど全く異なるジャンルのアートが1つになったファンタスティック・ショー。伽椰琴(カヤグム)、奚琴(ヘグム)などの弦楽器の旋律とパンソリがあわさる場面は必見です。
韓国語レベル:★☆☆(日本語・英語字幕あり)
滋味(ジャミ)
パンソリも聞ける!「三清閣」で、宮廷料理を満喫できるプレミアムランチコンサート滋味(ジャミ)。ただし、不定期開催。
韓国語レベル:★☆☆(パンフレットに日本語記載、各演目は英語・日本語・韓国語の字幕解説あり)
地方派
伝統芸能の有名な大会は、その芸能に由来する地で行なわれることが多い韓国。そのためソウルではなく、地方で開催されることが多く、己の力量をはかるべく全国から伝統芸能の道を歩んでいる猛者たちが集まります。そのため大会を通して、未来の名唱との出逢いがあるかも?!どっぷりと伝統芸能の世界に浸りたい人にオススメです。 全州大私習(チョンジュデサスッ)ノリ Point:毎年6月頃全州市で開催され、パンソリ部門では大統領賞を、農楽部門では国務総理賞を競います。伝統芸能において韓国最高峰の権威を誇る大会。 韓国語レベル:★★★ ホームページ:www.jjdss.or.kr(韓国語) 南原春香国楽大典(ナモンチュニャンクガッテジョン) Point:春香歌と興甫歌の舞台になっている全羅北道(チョルラプット)の南原はパンソリ文化の発祥の地。名唱部、一般部、学生部に分かれて競う大会。毎年5月頃開催。 韓国語レベル:★★★ ホームページ:www.chunhyang.org(韓国語)
自宅派
韓国に行くことができなくても、自宅や通勤途中などにパンソリを楽しんでみてはいかがでしょうか?手軽に聞ける・見られるCD、DVD、絵本などがあり、日本でも購入可能です。
唄い手・鼓手・観客が一体となる「パンソリ」の世界へ
1993年に公開された、映画「風の丘を越えて-西便制(ソピョンジェ)」によって、日本でも知られるようになったパンソリ。言葉の部分では、まだまだ敷居が高いと考えられる伝統芸能の1つであるかもしれません。しかし、言葉がわからなくても、心で感じることができるというのがパンソリの長所でもあります。情感あふれる唱声、生き生きとしたセリフと表情を通して、パンソリの世界へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。