東京にありながら、都会すぎない街並みで愛される谷根千。レトロなカフェや古民家を改装したお店が点在し、目的もなくブラブラとお散歩するだけでも疲れを癒してくれるような昭和な雰囲気が漂います。
そんな谷根千では、店主の思い出の味が詰まったさまざまパン屋さんに出会うことができます。お客さんとの日々の会話をもとに、より良いパン作りを目指すお店も。今回は地元の人たちから愛され、そして新たな挑戦を続けるパン屋さんを5店舗ご紹介します。
北欧の味を東京で。店主の原体験が詰まったパン屋『VANER』
まずご紹介するのが古民家ベーカリー『VANER(ヴァーネル)』。木とふすま、畳と、まるでおばあちゃん家のような温かみのある佇まいです。
一番のおすすめは店主の宮脇さんがノルウェイで食べたという「サワードウブレッド」。小麦と塩だけを発酵させるというシンプルな作り方。食卓でいうとおいしいお米のような存在なのだとか。「初めてノルウェイの公園で食べたとき、おばあちゃんが作った煮物を食べているみたいな安心感があったんです。すごく優しい味だけど、長時間天然酵母で発酵させた奥行きがある。ケーキとかとは違うパンならでのおいしさを僕に教えてくれました。しょっぱいものと合わせても、蜂蜜やバター、シナモンシュガーなど何にでもあいますよ」。
宮脇さんがスウェーデンで出会った味を再現した「カルダモンロール」。スパイスの苦味やクセはなく、柑橘系のフルーツの皮のように爽やかな香りが広がります。表面をコーティングする砂糖はほんのりと甘く、もちもちとした食感です。
最近、新入りとなったのが「レーズンパン」。中には2種類のレーズンが入っています。「実は、試作中にたまたま焦がしてしまったレーズンパンを食べてみたら、とてもおいしくて商品化が決まったんですよ(笑)。焦げのおかげで、小麦の香ばしさが際立ったんです。パンと焦げって実は相性がいいんだよってことをこのパンを通じて伝えたいですね」。
宮脇さんの北欧での原体験がそのまま形となって現れている『VANER』。既に人気の商品であっても、お客さんの感想をもとに日々改良をしているそうです。これからの進化がますます楽しみですね。
■お店情報
VANER
住所:東京都台東区上野桜木2丁目15−6 あたり2
営業時間:8:00〜15:00※無くなり次第終了
定休日:月曜、火曜
Instagram:@vanertokyo
※取材当時の内容です。最新情報はお店のHPやSNSにてご確認ください。
毎日通いたくなる『根津のパン』で国産小麦のソフトな食感を楽しむ
千代田線根津駅から徒歩1分。たくさんの人が行き交う言問通りから1本路地裏に入った所に、木製の格子窓とオリーブの植木が目をひくパン屋さん『根津のパン』があります。もともと豆腐屋さんだった店舗の内観や外観はほぼそのままに、2018年8月にオープンしたこちらのお店。今では地元の人が通うパン屋さんとして街に根付いています。
手に取りやすい小さめサイズのパン・ド・ミは、「当日なら、トーストせずにそのまま食べてみてください」と店主の野口さん。2.2cmにスライスしてもらったパン・ド・ミをそのまま一口かじってみると、もちっとした弾力と小麦粉の豊かな風味が口の中に広がりました。
焼きたてはもちろん、翌日もパサつかずしっとり。翌日以降はバターと合わせたり、チーズをのせてトーストしたり…小麦の風味が濃く感じるリッチさなので、いろいろな食べ方にトライしてみたくなる食パンです。
パリパリとした硬い食感が特徴のハード系の「ペイザンヌ」も、こちらのお店では、ややソフトに焼きあがります。ブラックオリーブとくるみ、4種類のハーブを練りこんだ「オリーブとくるみのペイザンヌ」も、弾力がありしっとり。
いつもの商品も旬や気分によってアレンジをすることもあるそう。訪れるたびに前回とは違う発見と、変わらない温かな雰囲気で出迎えてくれる『根津のパン』。根津の街の雰囲気をそのままパンに落とし込んだような…そんな下町のアットホームなパン屋さんです。
■お店情報
根津のパン
住所:東京都文京区根津2-19-11
営業時間:10:00〜19:00 ※無くなり次第終了
定休日:月、木曜日
※取材当時の内容です。最新情報はお店のHPやSNSにてご確認ください。
谷根千エリアのニューストリート「谷中キッテ通り」のベイクショップ『サクセション』
江戸時代から続く千代紙の老舗「いせ辰」の角を曲がって根津方面に続く小道を「谷中キッテ通り」といいます。そんなのどかな雰囲気の通り沿いにあるお店『サクセション』。パンだけでなく、種類豊富なスイーツも販売しています。
一番のおすすめは「ロデブ」というパン。「『ロデヴ』は、フランスの地方都市の名前です。小麦粉と同量の水を混ぜて、何度も発酵させています。3日ほど熟成させるので手間がかかりますが、パン作りの基本が学べるような“育てる”パンのひとつです」と店主の岩本さん。小麦粉、水、塩、発酵種だけで作られる「ロデヴ」は、外側は香ばしく、中はもっちりとしていてとても素朴な味わいです。
店内ではイートインもでき、ランチタイムには、季節の野菜を使ったクロックムッシュやカチャトーラ、バターチキンカレーなど、ベイクショップのイートインとは思えないほどしっかりとしたお食事がいただけます。こちらのサンドウィッチには6種類もの具材が入っていて、ほんのり甘い関西風厚焼き玉子がアクセントに。
『サクセション』という店名は「継承する」という意味なのだそう。谷中の新名所「谷中キッテ通り」の発展とともに、岩本さんの想いがつながっていく予感がします。
■お店情報
Succession(サクセション)
住所:東京都台東区谷中2-5-19
TEL:090-5793-1401
営業時間:11:00〜18:00
定休日:火曜日
※取材当時の内容です。最新情報はお店のHPやSNSにてご確認ください。
根津の下町にたたずむ小さなビストロ『Cise』
下町の風情が残る根津の静かな住宅街にある『Cise(チセ)』というお店。パンと北海道の食材をふんだんに使った創作料理が楽しめる小さなビストロです。とりわけおいしいと評判の自家製パンはテイクアウトもできるため、地元ではパン屋さんとしても人気だそう。
『Cise』のパンは通常のパンより水分量の多い高加水のパンなので、外側はパリッと、内側はもっちりとした食感です。バゲットやチャバタはソースやスープに浸して食べるとさらにおいしい。ブリオッシュや食パンはバターの香りがより豊かなので朝食に、不定期に登場するチーズや青のりのチャバタ、くるみのリュスティックはワインと一緒に楽しみましょう。
今回、パンと一緒にいただいたのは水餃子。洋食だけでない自由な発想に驚きです。大きな水餃子を頬張ると、ジューシーなスープが口いっぱいに広がります。そして、水餃子にかかっている自家製ラー油がまた絶品。辛さはほとんどなく、クミンやコリアンダーのエスニックな風味と、丸ごと入ったカシューナッツやレーズンのゴロゴロとした食感が、もっちりとした水餃子と絶妙にマッチ。お皿に残ったラー油はパンで拭って、最後まできれいにいただきました。
「これからはもっとパンのバリエーションも増やしたいし、いろんな所へ行って食材を調達したいですね。気軽に人が集まれるような、呑めるパン屋が理想です」と話すシェフの宮武さん。今後の展開がますます楽しみなお店です。
■お店情報
Cise Bread & Wine
住所:東京都台東区池之端3-4-19 1F
電話:03-6884-1989
営業時間:[lunch]12:00 a.m. – 14:30 p.m.(L.O)、[dinner]18:00 a.m. – 22:30 p.m.(L.O)
定休日:不定休
※取材当時の内容です。最新情報はお店のHPやSNSにてご確認ください。
フランスの食文化とエスプリを発信。根津『レジニシエ』
不忍通りを挟んで根津神社の反対側。下町情緒と新しいカルチャーがミックスされたエリアに『レジニシエ』はあります。新しいパン屋激戦区の谷根千エリアですが、フレンチなパン屋さんは意外に少なかったようで、「こういうお店が欲しかったの」と喜ばれることも少なくないのだとか。
『レジニシエ』のパンは、2017年フランス全国バゲットトラディションコンクールで、女性初そして外国人初の優勝を飾った成澤さんが監修しています。潔い1本のクープが特徴的。ザクっとしっかりとした歯ごたえを感じるオーセンティックな味わいで、メイン料理の相棒に、またカスクート(サンドイッチ)にしてもおいしくいただけます。
看板商品のバゲットに次いで人気なのが、「クロワッサン」。幾重にも重なった生地はサクッと心地いい食感。バターの香りがしっかりとしつつ、脂っぽくなく軽い口当たりです。
店長の井田さんがおすすめするのは「ミルリトン」という、中に生クリーム入りのアーモンドクリームとフランボワーズのジャムが入ったお菓子。コーヒーとの相性が抜群なので、フランス式で朝食代わりにいただくもの◎。
「街のパン屋さんとして、もっと日本でもフランスのエッセンスを感じてもらいたい」。そんな想いで現在もさまざまなパンの開発に試行錯誤中なのだとか。次訪れる時は、新しいパンが登場しているかもしれません。
■お店情報
Les Initiés(レジニシエ)
住所:東京都文京区根津2-32-5
TEL:090-8041-6329
営業時間:10:00-17:00
定休日:月曜日、水曜日
Instagram:@les_initie
※取材当時の内容です。最新情報はお店のHPやSNSにてご確認ください。
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谷根千の古き街並みと、そこに調和し、地域全体で盛り上げていこうとするお店の人たち。そんな方々の手から生まれ、この場所でしか出会えないパンはますます目が離せません。
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