突然ですが、皆さんにとって、忘れられない香りはありますか?
幼い頃に使っていた洗剤の香りを嗅ぐと安らかな気持ちになったり、通っていた塾の芳香剤の香りを嗅ぐと今でもあの頃の緊張した気持ちが蘇ったり、香りは人々の思い出に深く結びつき、それを鮮明に呼び起こしてくれる力があるなと思います。
友人曰く、プロヴァンスの出身でなくともフランス人にとってラベンダーの香りは、なんとなく故郷を思い出す「懐かしい香り」なのだそう。家の衣服の中に入れてあったポプリやお母さんが使っていたボディクリームの香りが懐かしい記憶と結びついていたりするのでしょうか?
今回はそんなラベンダー で有名なプロヴァンスをバーチャルツアーします。
噴水がたくさんある旧市街
パリからTGVに乗ると3時間ほどで「Aix-en-Provence(エクサンプロヴァンス)駅」へ行くことができます。「Aix-en-Provence」のAixは、ラテン語のアクアが語源の言葉で、この地が水の都であったことに由来。その証拠に、旧市街には至る所に噴水が流れていて、憩いの場所となっています。
この日、猛暑ではありましたが水の流れる音を聴きながら水面が光できらめいているのを眺めていると、一気にすがすがしい気持ちになれました。温泉が出る噴水もあるそうで、その昔この地で多くの戦士たちが癒されていったことが伺い知れますね。
街並みは石造りで旧市街はこのような黄色の壁もちらほら。以前紹介したレモンの街、マントンもそうでしたが、街の色味が黄色やオレンジに変わっていくのを見ると南へ来ているんだなあと感じます。
海に近いため、食事は新鮮な海鮮を味わうことができます。こんなたっぷりの新鮮なムール貝もパリでは考えられないほどの安価で楽しむことができます。
お店のテラスでこのムール貝のワイン蒸しを楽しんでいると、何組かのカップルがちらりとこちらを見てお店に入ったかと思うと同じムール貝を注文したり、おしゃれなマダムが近づいてきて「おいしそうね、お味はどう?」と聞いてきたり。
フランス人っぽく「悪くないよ〜」と交わしたいところですが、本当においしかったので「すっごくおいしい!」と答えると、マダムは「それでは私も」と。隣の席にちょこんと腰かけこの大盛りのムール貝をペロリとたいらげていました。白ワインの香りと玉ねぎの柔らかな甘みをまとったムール貝、マヨネーズ付きのホクホクのフリットは相性抜群で、ワインが止まらなくなります。
食事のあとは中心地にある市庁舎へ。そびえ立つ時計台は14世紀に建てられたあと、17世紀に再建を経ています。時計台の中央部分の装飾は細部まで非常に美しく、その素材や色味から歴史を感じました。この時計台は太陽や月、十二宮の星座の位置などがわかる天文時計が設置された珍しいものだそう。その昔、占星術は政治にも関わっていたというので、この時計台がどのような役割を持っていたのかが伺えます。
マルセイユに近いプロヴァンスの街では、石鹸も多く見つけることができます。そもそもマルセイユ石鹸がブランドとして展着している理由は、17世紀にルイ14世が定めた「厳しい製造基準」を守っている物だけが「サボン ド マルセイユ」としてのブランド名を名乗れるからだそう。プロヴァンスの良質なオリーブ油と海水とマルセイユ塩、アルカリ性海藻の灰であるバリラを使い、植物油脂成分が72%以上でないと基準を満たしたとはされないのです。
このパンデミックで我々の命綱となっているのは、マスクと手洗いであることから、石鹸の発明によって衛生と国の繁栄が保たれていることは今も昔も全く変わらないのだなと感じますね。
旧市街を離れてヴァランソル高原のラベンダー 畑へ
そしていよいよお目当てのラベンダー畑へ。今回は市街から出ているバスツアーを予約し、ヴァランソルの高原へ行ってきました。エクサンプロヴァンスに詳しい友人によると、このツアーだとその時期一番の見頃の畑へつれていってくれるため、一番楽なのだそう。初めての人も十分に楽しめます。
ラベンダー畑のこの美しさはその没入感にあります。「畑を歩いている」というより、「花々の中で迷子になる」という感覚に近いのです。
遠くを見つめながら彷徨っていると蜂が飛び交うブンブンという音、ラベンダーの甘くて優しい香りに包まれて、自分が大自然の真ん中にいることに気づきます。
ぜひ機会があれば、このアメジスト色に輝く永遠の迷路に迷って、自然と一体化する体験をしてほしいです。
こちらは友人のお気に入りのプライベートのラベンダー畑。コンパクトな畑はイベントスペースもあり、当日は結婚式の2次会と撮影会が行われていました。
こういったプライベートな畑もUberで市街から15分ほどで行けるので、市街周辺でラベンダー畑を楽しみたいという方にはおすすめです。
ラベンダーの香りを家に持ち帰れるようなお土産もいっぱいありました。
お土産にはラベンダーのバームを購入。多目的に使える優れもので、私は髪の毛先をまとめたりするためのヘアワックスとして使っています。練り香水のように優しい香りが広がるお気に入り。右のサシェには、塩とラベンダーが入っていて食事に入れてラベンダーの香りをアクセントにしてもいいし、バスソルトとしてアロマセラピーを楽しんでも◎
「C」のマークを辿って、セザンヌが過ごしたアトリエへ
街の道の至るところで良く目にする「C」の文字をあしらったゴールドのマーク。これは、プロヴァンスゆかりの画家であるPaul Cézanne(ポール・セザンヌ)の名前のCからとったもので、街中のセザンヌゆかりの場所にこのマークが埋め込まれています。
セザンヌ のアトリエも市街から離れた小高い丘の上にあります。ひっそりと木々に隠れるような形で佇むこぢんまりとしたアトリエ。ここは彼が晩年、作品制作に没頭した場所です。
今でこそ、誰もがその名を知るセザンヌですが、彼の作品の価値が認められたのは彼の死後。
セザンヌが取り組んできた新たな表現方法は空間の認識方法を変えることでした。絵をリアルに描くとき、正しく物体の距離感を表現するために、近くに見えるものは大きく、遠くに見えるものは小さく描くことが基本です。しかし、彼はこの表現から逃れ、実際に見えているものをそのまま描くことがアートとしての本当の「表現」なのか?という疑問をもとに作品制作に没頭するのです。
遠くにある山を実際よりも大きめに描き変えることで写実的に描写した絵よりも、よりダイナミックで、実際に鑑賞者がその山を見ているような感覚になる作品になっているのです。この遠近法を意図的に変える手法は、宮崎駿監督もアニメーションの表現に取り入れているのだそう。
アトリエの柔らかな午後の日の光の中で、置いてあるリンゴのフォルムが浮かびあがり、自然の作り出す美しさには敵わないなとしみじみ思いました。天井にまで続く大きな窓からは木漏れ日がたっぷりと差し込み、その光さえも彼にとっては画材のひとつだったのだろうと感じます。
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ラベンダーだけでなく、旧市街の街並みやシーフード、そしてセザンヌのアトリエなど魅力いっぱいのエクサンプロヴァンス。ぜひ、機会があったら実際にお散歩していただきたいですが、今は、こちらの記事でお散歩気分を少しでも感じていただけたらうれしいです。
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