日々、溢れかえるモノや情報に囲まれ、多くのモノを所有しながらも大事なモノを見失いがちな現代人。そうした反動からか、不要なモノを手放す「断捨離」や最小限のモノだけで生活する「ミニマリズム」というライフスタイルにも注目が集まっています。
身の回りのモノを次々と整理する断捨離を経て、大切なものを手に入れることができたというイラストレーターの兎村彩野さん。
前編で伺った兎村さん流の「断捨離」。2年間の「断捨離」を行った結果、仕事への考え方や作風にまで変化があったそうです。今回は、実際にどのような変化があったのかについて伺ってみました。
前編:「多すぎるモノを整理することで時間を得た、私の断捨離生活」
兎村 彩野(うさむら あやの)
イラストレーター、アートディレクター。
1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始し、17歳でフリーランスに。子どもや女性向けの絵を得意する。2014年よりドイツの万年質LAMY1本で描く「LAMY Sketch」が人気になる。
HP:TO2KAKU
HP:AYANO USAMURA
今回のお話に関係するブログ:「13月の贈り物」
モノを減らし、仕事も変化し始める
−実際に断捨離を2年間続けてみて、お仕事の面でも変化はありましたか?
兎村:スケジュール帳を見ると分かりやすいのですが、(2013〜2015にかけての3冊のスケジュール帳を見せてもらいながら)同じ8月の予定でいうと、年を追うごとにすっきりとしていきます。
最初の年は、1か月の中で空いている日が3日。2年目は7日。3年目の今年は14日も自由に使える日を作ることができました。だからといって、仕事量や収入が大幅に減っているかというと、そうでもないんです。むしろ、無駄なモノを買わなくなった分、今年の方が暮らしはゆたかになっています。
予定で埋め尽くされたスケジュール帳は、一見、充実しているようにも見えますが、この頃のわたしは今より幸せではなかったです。
−というのは?
兎村:以前は仕事についても、「もっと有名になりたい!」というような個人的な欲望だったり、自分が他人からどう見られているか、どんな風に評価されるかという考えが強くありました。ひとつずつ人生を整理整頓をして余計なモノを持たなくなった分、自分自身の内面と向き合う時間が増えました。そうすると、今の自分が何を必要としているか、気付けるようになりました。今は「自分が相手からどう思われたいといか」より、「自分が相手をどう見ているか」を意識しています。「自分が!自分が!」という自己中心的な気持ちより、一緒に仕事している人たちと、どうしたらみんなで心地よく働けるかを考えられるようになりました。きっと以前より気持ちに余裕があるんだと思います。余裕があると客観的な視野でいられるのかもしれません。
−作風に変化はありましたか?
兎村:絵やデザインの作風も代わりました。以前に比べると大人っぽくなりましたね。使う色数も減って、シンプルですっきりとしています。以前よりも丁寧に1本1本の線を描けるようになりました。
迷いのないシンプルな線をスーッと気持ち良く描けるようにったのは、欲を手放すことで、少しだけ自分自身に素直になれたのではないかなと分析しています。迷わないというのは自信にも繋がります。
断捨離とは、暮らし方そのものを整えていくこと
−断捨離をすることによって、そんな風に変化していけるのでしょうか?
兎村:私が思うのは、断捨離とはモノに限らず、暮らし方を含めてひとつずつ整えていくことなのだと思います。今持っているモノや、人との関わり方、仕事の進め方や生活のリズムなど、そうしたすべてにつながっていると感じています。
−暮らし方について、具体的に以前と今で変わったことはありますか?
兎村:都内に住んでいる時は昼夜逆転した生活を送ることも多かったですが、自然が身近にある鵠沼海岸へ引っ越して、身の回りの全ての事を整理整頓し始めてからは、生活の時間帯も調い、食事も自分で作る機会が増えました。食生活が変われば、肉体も変わります。肉体が健康できれいでなければ、どんなに部屋がきれいでも本当の断捨離にはならないと最近は思うようになりましたね。
実際、食生活を改めてみるとこの肉体の中に自分のすべてが詰まっているのだと、健康の大切さを実感するようになりました。
−兎村さんの話を伺って、断捨離のイメージがかなり変わりました。
兎村:「モノを減らす」のではなく「整えていく」と考えた時に、24色のクレヨンを例にしてみると分かりやすと思います。現代人はすでにもう24本入りの箱に収まりきらない本数のクレヨンを持っているような状態です。断捨離は一度、そのクレヨンを全部箱から取り出して、自分に必要な色を選び、箱にきれいに入れ直す作業だと思います。
無理やり26本入れようとしてもダメです。24本全部同じ色だったり、太さが違ったりしても、なんだか使いにくいですよね。箱に入らないクレヨンを手放す、バランス良く並べる、使いにくいクレヨンは交換する。24本入りのクレヨンの箱を自分自身で使いやすく整えることが「断捨離」だと私は思っています。
現代の人はみんな、情報や人間関係やモノを多く持ちすぎていますから。まずは一度、何が必要で、何が必要でないかを選び直すところからはじめてみてはいかがでしょうか。
私自身、そこからはじめて、ようやく必要なものや大切なことに気づけるようになりましたから。
−兎村さんのような気付きを求めている人も多いかと思うのですが、何かアドバイスはありますか?
兎村:まずは自分が欲張りになっていると認めることが良いのかもしれません。欲張りはいい欲も良くない欲も全部吸い寄せてしまいます。欲を手放すとモノが減る以上に、だんだん視野が開けてプールや海の中にふんわり浮かんでいるように不思議な安心感に満たされます。不安がない状態なのかもしれません。そうすると、人にもモノにも依存しなくなり、人間らしい本来の安定した心に調っていくのだと思います。
心が調ったら余裕が生まれるので、心に「のりしろ」を持つことをお勧めします。
−心の「のりしろ」とは、何ですか?
兎村:子供の頃、図工の時間に2枚の紙を貼って工作をしました。のりしろがないと貼り付けるのが難しいですよね。自分の心に少しだけ「のりしろ」を持つことができれば、どんな相手とでも、なんとなくくっつけ合える。のりしろがなかったら、持っている人としかくっつけられないですよね。のりしろというのは、心から優しさがはみ出てる部分なんじゃないかなと私は思います。心に余裕がないとなかなか優しくなれないですよね。モノに囲まれ、自分自身のことでいっぱいいっぱいの状態のときには優しくなるってちょっと難しいなって思います。
これからも整理整頓という断捨離をしながら、私自身ものりしろを持った人になりたいなと思っています。余裕やゆとりのある優しい人になりたいです。
モノを捨て、自分と向き合う「時間」を手に入れた結果、他の人に喜んでもらいたいと思えるようになったというお話がとても印象的でした。
「大切なものは埋もれていただけで、実はそこにずっとあった」と話す兎村さん。断捨離を経て「大切なもの」に気付けた兎村さんの清々しい笑顔から、自分の本当に大切なものや自分に向き合う時間が必要なのだと教えてもらったような気がします。
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