今でこそ「おしゃれ」「美味しい」と関心を集める韓国のパンですが、数年前は「美味しい?」と疑問を持つ人が決して少なくありませんでした。
韓国ならではのオリジナルパンや日韓で異なるパンの呼称等、身近にありながら知るほど奥深いパンを、食文化の視点から紐解いてみましょう!
韓国のパン
韓国語でパンは何という?
韓国語でパンは何と言うでしょうか?英語の「Bread(ブレッド)」ではなく、フランス語「pain(パン)」スペイン語「pan(パン)」に近い「빵(パン)」といいます。
韓国オリジナルパンの種類
日本発祥のあんぱんが存在するように、韓国ならではのオリジナルパンが存在します。多くは昔ながらの素朴な味。モチっとした食感や、ダイレクトに餅が入ったパンなど、祭祀や各種祝い事に欠かせない餅が食文化に根付く韓国らしいパンもあります。
ソボロパン(コンボパン) メロンパンに似て、やわらかいパン生地の上にソボロと呼ばれるホロホロしたクッキー生地がのる。
マンモスパン ソボロパンを大きく平たくした生地に、あずきやジャム、クリーム等を交互にサンドしたパン。
チャルトッパン 「찰떡(チャルトッ)」とは大福餅のこと。その名の通り大福餅が中に入ったパン。
ケチャルパン もち粉と小麦粉で作った生地にごまをふんだんに練りこんだ、モッチリ食感のパン。
クァベギ 細長くねじった形が特徴の揚げドーナツ。砂糖がまぶされているものが一般的。
マヌルパン ソフトフランスパンをガーリックバター液に浸し、切り込みの間にクリームチーズペーストを挟み焼いたパン。
ボン バターたっぷりの生地が麦わら帽子のようにのったパン。コーヒー味(コピボン)やモカ味(モカボン)が一般的。
日本と韓国でパンの呼称が違う?
韓国:ホットドッグ(ハッドグ) 日本:アメリカンドッグ
韓国:コロッケ 日本:揚げパン
韓国:シュークリームパン 日本:カスタードクリームパン
韓国:トースト 日本:ホットサンドイッチ
韓国におけるパンの立ち位置
韓国におけるパンの定義
韓国の食品公典2017年版によると、パンは以下のように定義されています。
「小麦または他の穀物、砂糖、油脂、卵等を主原料とし、発酵に関係なく生地にしたもの。または、クリーム、砂糖、卵等を主原料とした生地を冷凍または熟成させたもの。」
つまり、これらの原料をもとに作られるのであれば日本ではスイーツに分類され得る食べ物もパンに該当します。
特に年配の韓国人はケーキ、クッキー等小麦粉で作られた類の食べ物を総じてパンと呼ぶ傾向があり、パンを食べようといって広げてみたらお菓子だった、ということもよくあります。
クッキーやパイ、ドーナツをパンと呼ぶ人もいます
パン屋さんのショーケースにケーキが並ぶのも韓国では一般的
市場のパン屋さんでよく目にするカップケーキタイプのカステラもパン
ホットクはパンか?
シュガー入りの「蜜ホットク(写真左)」と韓国春雨の入った「野菜ホットク(写真右)」
韓国屋台おやつの代表格であり小麦粉を原料に作る「ホットク」については、食品公典にあるように小麦を原料にした生地で作られるためパンだという意見と、韓国語「호떡(ホットク)」の「떡(トッ)」が餅を意味することから餅だという意見もあり、結論はでないようです。
韓国ではパンは食事ではない?
炭水化物であるパンですが、韓国にはコメという確固たる主食が存在するため、おやつや軽食として発展を遂げました。
パンの立ち位置がうかがえる韓国語に、韓国で挨拶代わりに使われる「식사했어요(食事をしましたか)?」が挙げられます。ここで指す食事は、コメや汁もの、おかずで構成された一食でありパンは含まれません。言葉に潜む意図からも、韓国においてパンは食事ではないという認識が強いことが読み取れるでしょう。
また、一般的に「温かく柔らかいもの」を好むといわれる韓国人の嗜好傾向からみると、西洋風の噛みごたえあるハードパンではなく柔らかくフカフカした生地のパンが好まれるようです。
ライ麦で作られたハード系のドイツパン等を売りにする店舗はまだ少ない
人気は水分を多く含みフカフカとやわらかく膨れたパン 人気は水分を多く含みフカフカとやわらかく膨れたパン ただし、近年は韓国人の食生活の西洋化がますます進み、国民一人あたりのパンの消費量、加えて大量生産型の市販パンの生産規模も増える一方。西洋風の甘くないパンを食事として食べる人も少なからず存在し、パンは食事という認識になりつつあります。
韓国も朝にパンを食べる?
韓国人の中には、朝食にパンはふさわしくないと考える人もいます。韓国では伝統的な韓医学から、食べ物に温かい性質・冷たい性質があると考えられているためです。パンの主原料である小麦粉は冷たい性質に属するため、腸を冷やす恐れがあると考え、1日のスタートである朝の食事には避けた方がよいとされます。
しかし、忙しい現代の韓国では朝食を手軽なパンで済ます人も増えているようです。
ソウルの街中にあるコーヒーチェーンでは、朝食の時間帯ににボンやベーグル等のパンやサンドイッチをドリンクとセットで提供するお店があります。
特にサンドイッチは、野菜、ハム、チーズ等多くの食材をはさみ作られるため栄養価が高く、パンであるものの朝食の選択肢として悪くないと認識されています。
韓国のパンで忘れてはならないのが、薄切りパンに特製の甘いソースを塗り、ハムやチーズ等をはさんだ韓国式ホットサンド「トースト」。
安価に小腹を満たすことができる軽食として、観光地や学生街を中心にトースト屋台があります。
露店が中心ですが、固定店舗を構える有名チェーンといえば「Isaacトースト(イサックトースト)」が知られます。
韓国パン文化のはじまり
高麗時代に貴族や商人が外国で出会ったパンを持ち帰り、国内で作ろうと試みたり、朝鮮時代に宣教師によるパンの伝来等がありましたが、食文化として根付くことはありませんでした。
19世紀の開港期になると変化がみられます。外国製品が流入しはじめた朝鮮時代後期には海外からの物資流入とともに、製パン技術も再び伝来しました。
当時の宮廷の台所「水刺間(スラッカン)」の遺物には、パン作りのための台所用品があったことも確認されており、王宮でもパンを口にしていたとみられています
朝鮮時代末期、近代化を推し進める開化派とロシア、アメリカ等の諸外国公使が集う「貞洞(チョンドン)倶楽部」で、「ソルコ」というカステラに似た甘いパン等が作られていたという記録があり、これが近代におけるパン食の幕開けとも言われています。
韓国のパン屋の変遷
町のパン屋の登場から普及まで
日本の植民地時代であった1940年代から登場し始めたという町のパン屋さん。
しかし、パンが一般的になったのは朝鮮戦争以降のこと。戦後の食糧難により、支援食糧として小麦粉が大量に輸入されたため、パンをはじめ、トッポッキ、スジェビ等の小麦粉を材料にしたメニューが生まれました。
1960年代頃から大手食品メーカーによる大量生産型のパンが市販される一方、職人によるパン店が各地に登場するのもこの頃。現在、老舗と言われる有名店舗の創業がこの時代です。
この時代を描いたパン職人が主人公の韓国ドラマ「製パン王キム・タック(KBS、2010年)」はドラマチックな展開だけでなく、パンが韓国社会に根付いていく過程が描かれているのが興味深いところで、放送当時は50%もの視聴率を獲得した人気番組です。
世界にも進出!韓国のベーカリーチェーン
1990年代から増えてきたフランチャイズチェーンのベーカリーブランド。ソウルの街中はもちろん駅や空港等至るところに店舗を構えるほか、韓国内のみならずシンガポールやベトナム等海外にも展開します。
人気の理由は食パンから惣菜パン、菓子パンにケーキまで多様に揃うラインナップ。イートインスペースの併設やモーニングセットを扱う店も登場し、老若男女問わず支持を得ています。
本格派パン職人の台頭とパンブーム
2000年代に入り、海外で修行を積んだパン職人による本格的な店舗が増えてきました。ドーナツやワッフルのようにおやつの延長であったパンが、主食としての存在価値を発揮しはじめ、それに呼応するように食パンやクロワッサン等、パンの種類も多様化してきました。 近年では、パンをメインに扱うベーカリーカフェの存在が目立ちます。韓国の伝統家屋「韓屋(ハノッ)」を現代風にリフォームした店舗やインスタ映えする斬新なメニュー等、カフェ文化が発達している韓国でパンブームを牽引しています。
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