もし自分や家族ががんになったら……。もちろん命の心配が一番だが、すぐに頭をもたげるのは費用のことである。保険である程度はまかなえても、がんのステージによってかかる費用が異なるし、退院した後も意外な費用がかかる。

東北医科大学の教授がとった患者へのアンケートで年間の平均自己負担額を見るとともに、がんになった時の家計の負担という観点での「自己負担額」について考えてみる。

保険適用にならないものが意外に細々と

「がんになってこんな費用に悩まされるとは」とため息をつくAさんのケースを見てみよう。Aさんは医療費について漠然とした知識はあったが、それでもやはり大きな悩みとなったようだ。

病院での治療のためさまざまな医療費がかかるが、健康保険の適用で自己負担は3割で済む(70歳未満の成人)。直接的な医療費の入院、手術料、検査料などはまず安心できる。

さらにAさんの場合、入院・手術と医療費は総額約100万円かかったが、実際の退院時の支払いは約8万円。これは1ヵ月にかかった医療費の自己負担額が、一定の金額を超えた場合に、健保に申請した「高額療養費制度」が適用されたためだ。

年齢や所得によって自己負担額は異なるが、Aさんの場合は「8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1%」。事前に調べておいたことが役立った。

しかしAさんの想定外だったのが、保険適用にならない次のようなものだった。

  • 差額ベッド代(1日2万円)……個室に入ったため。東京都の1人部屋は1日平均7,812円だが、Aさんの病院は都心にあるため高額になった。
  • 家族の交通費……妻は体調が思わしくなく、タクシー通いだった。
  • 入院中の食事代の一部……自己負担3割の対象外のため。360円×3食=1,080円を負担。
  • 入院中の日用品、雑費……病院内のコンビニはスーパーで買うより高め。
  • 診断書などの作成費用……がん保険の給付金申請のため。1通5,000円~1万円。
  • 先進医療の技術料……全額自己負担だが、厚生労働省が「先進医療」と認めたものは保険診療との併用が認められるようになった。Aさんの場合は先進医療費20万円が自己負担だったが、通常の治療と共通する部分の診察、検査料などは保険が適用される。

通院しながら治療を続けると……

Aさんは前立腺がんと診断されたが、手術後約3週間で退院。通院しながら抗がん剤治療を受けることになった。

抗がん剤やホルモン治療は1回5,000円~3万円で、月2~4回の治療を受ける。これも全額自己負担だ。ただ、Aさんはがん保険の特約で抗がん剤治療をつけていたので、家計への影響は少なくて済んだ。

Aさんの例のように、がん患者の入院日数は平均19.9日と16年前より20日も短縮している。これは医療技術の進歩や、早期退院を促す病院側の治療方針などにより短縮化が進んでいるためだ。