子どもがいる・いないに関係なく、子どもや子育て世代に関する社会問題に対し、誰もが良い意味でアクションできる社会であればいい――そう語るのは、女性の働き方や教育、性暴力などを取材するライター、小川たまかさん。自分とは違う人生を歩む人を理解し、受け止めることの大切さを考えます。
子どもは社会みんなで育てるもの――。
その言葉や考え方が好きだと話すのは、女性の働き方や教育、性暴力などを取材するライター、小川たまかさん。
私たちに子どもがいても、いなくても、
電車内で降りる駅を間違えた小学生が泣いていたら、声をかけて正しい帰り道を教えてあげることができる。
駅構内や道端でベビーカーを押すのに苦労しているお母さんがいたら、手伝うことができる。
自分とは違う人生や、その人生を送る人が考えていることを知ることは、誰かの気持ちを想像したり、理解しようとしたり、受け止めようとしたりすることにつながります。
働くお母さんの生き方や子どもに関する問題をご自身の執筆テーマとしている小川さんに、「子どもを持つこと、持たないこと」について、お話を伺いました。
■普通じゃないことを「かわいそう」と勝手に決めつけないで
――小川さんは待機児童問題や働くお母さんに関する記事を書かれていて、その多くが大きな反響を集めています。とくに「共働き」というテーマでいうと、2014年にヤフーニュース個人で発表された「共働き家庭の子どもは「かわいそう」ですか?(※)」はSNS上でたくさんの人が言及しているのを見かけました。
この記事を公開したあと、30人くらいの男性から批判的な内容のダイレクトメールをいただきました。「子どもがかわいそう」「子どもが小さいうちは母親がついているべき」「あなたは良かったかもしれないけど、すべての家庭で当てはまる内容ではない」とか。
――そうでしたか……。
他人がよその家の子どもを「かわいそう」と一方的に判断するのも、子どもをだしにして働く親を責めるのもどうかと思いますが。
対して女性たちからは「書いてくれてありがとう」といった肯定的な反応が多く、お電話までくださった方もいました。
※共働き家庭の子どもは『かわいそう』ですか?(ヤフーニュース個人):小川さん自身が共働き家庭に育ち、周囲から「共働きの家の子って、かわいそう」「子どもが小さいときにお母さんがそばにいないのって、かわいそう」などと言われて、自分の気持ちを勝手に決められるのが嫌だった思いと共に、「かわいそう」かどうか決めるのは他人ではなく、子ども自身ではないかと綴った記事。
――記事が公開されてからちょうど4年が経とうとしていますが、共働き家庭がそうでない家庭の2倍近くになっている今、環境はどう変わってきたと感じていますか?
出典: gender.go.jp
子育てはお母さんだけがするものではなく、夫婦揃っているならふたりでやろうね、という考え方が広がってきていますよね。当時とはだいぶ変わってきているなと思います。
街中でお父さんと子どもだけの組み合わせを見る機会も増えました。一方で、子どもを育てる女性を責める風潮が未だに変わっていないと感じる光景も多いです。
■全員が「結婚→出産」の道をたどるわけじゃない
――たとえば、小川さんが編集協力されていた書籍『漂流女子 にんしんSOS東京の相談現場から』では、未婚で母になる女性を取り上げていました。そういった女性には、「父親がいないと子どもがかわいそう」といった声が挙げられることもあります。個人的には、「あなたに関係ないのでは……」と思ってしまいます。
漂流女子 ――にんしんSOS東京の相談現場からー― (朝日新書)
「できちゃった婚」を「授かり婚」と言い換えようという流れもあったが、未だに「できちゃった」カップルへ向けられる冷たい視線は強いようだ。物事の順序を重んじる気風もあるのだろうが、このことに私は小さな疑問を感じている。避妊の方法にはコンドームやピルがあるが、100%確実な避妊方法はまだ存在しない。また、子どもが欲しくても授からない人もたくさんいる。身ごもるかどうかは、人がコントロールできる範囲外にあることだからだ。『漂流女子 にんしんSOS東京の相談現場から』中島かおり著,128ページ,「コラム⑦「婚外子」、少ない日本」より引用
そうですね。親がふたりいないと子どもがかわいそうだ、みたいなことを言うよりも、誰にとっても子どもを育てやすい環境を整えるべきだと思うんです。
誰もがみんな、結婚して夫婦で子どもを育てる、という“今の社会でスタンダードとされていること”を実現できるとは限らないわけですから。
――シングルファザーやシングルマザーとして子育てをされている方にスポットライトが当たることも増えてきているように感じます。
それでも、昔ながらの家族のあり方しか認めない空気があるから、日本の婚外子(※)の割合は世界各国と比べて、ものすごく低いですよね。
この『漂流女子 にんしんSOS東京の相談現場から』(128ページ)では、2015年のデータを紹介しています。そこから引用すると、非嫡出子の割合は日本2.29%に対し、アメリカ40.2%、フランス48.4%、アイスランド65.7%……。
※婚外子:法的に婚姻関係にない男女から生まれた子どものこと。 法律上は、非嫡出子と呼ばれる。
――驚くほど差がありますよね。日本では「子どもは親ふたりで育てる」という形が“正解”とされている感覚があると思います。でも、実際はいろいろな家庭がある。だからこそ、各家庭で自分たちのやり方を正解にすればいい――小川さんはご自身の発信を通して、そういったメッセージを伝えていて、エネルギーをもらえます。
私自身、当時は珍しかった共働き家庭に育っていて、「うちは他の家庭とは違う」と子どもながらに感じていたんですよね。
だからといって、さみしかった記憶はないんです。両親から「お母さんもお父さんも両方働くことが、我が家には必要なことだから」と話をされて納得していましたし、働く母をかっこいいなとも感じていたので。
それから、自分の育った環境や、高校でご両親が離婚した友達が何人もいたこと、社会人になってライターとして多様な家族に出会ったことなどから、いろいろな家族の形があるし、それが当たり前なんだなと考えるようになったんです。
■子どもは大変だけど楽しそう。でも、今じゃない
――小川さんご自身は今、夫婦ふたりという家族構成です。子どもについてパートナーの方とお話しされることはありますか?
4年前に結婚してからの2〜3年はとくに、そういった話をしなかったですね。夫も私も子どもを今すぐほしいとは思っていないんです。かといって、絶対にほしくない、というわけでもない。
ただ、今年私が38歳、夫は41歳になるので、タイムリミットという文字が頭をよぎります。そろそろどうするか考えないといけない時期ですね。子どものいる人生か、いない人生か、どちらかに決めたいなとも思います。
――決めたい、ですか?
たとえば、「私が40歳になったら、子どものいる人生に向けて、準備を始めよう」みたいな目標を設定できたら、今からそれまでの2年間は子どものことを考えたり、悩んだりしなくて済むかなぁと。ただ、そういった話し合いはなかなかしづらいな、というのが本音です。年齢のことがあるので、「できなかったらできなかったとき」とは思ってます。
――子どもというトピックについて、夫婦間で微妙に見解が違うと、議題に挙げづらいという話は聞いたことがあります。子どもを作らないと決めているわけではないけれど、「今ではないかな」と、小川さんがお考えになっている背景には何があるのでしょうか?
いろいろあります。お互いに心の準備ができていないこと、金銭面での心配……でも一番の不安は、子どもができると夫婦仲が悪くなるんじゃないか、ということでしょうか。
――その予想は「産後クライシス」など、社会にあふれる情報からくるものでしょうか?
そういった情報もありますし、私の両親があまり仲良くなかったのが原因だと思います。両親のことは好きだし、尊敬していましたが、家事の分担などを理由にケンカしている姿を見るのがつらかったんですよね。
――親の姿=いつか自分が親になったときの姿、だとイメージを重ねてしまうのはわかります。
10〜20代のときなんて、自分にとって一番身近な夫婦は両親です。
彼らを見ていると「自分が幸せな家庭を築けるわけがない」と思えてならなくて、「絶対に子どもを産みたくない」という気持ちがありました。一方で、「いつかは産むんだろうな」という気持ちもあって、そのふたつの間で揺れていたんですよね。
■子どもがいなくても、子育てする人を応援したい
――いつかは産む……というのは、社会が女性の人生に示してきた、「女性は大人になったら結婚してお母さんになる」といったイメージの影響もあるとは思います。夫婦ふたりで生きていく未来については、どんなふうに考えていますか?
今は、夫と穏やかで平和な日々を送れていることに、とても満足しています。
周りの同世代も子どもがいない夫婦が多く、嫌なプレッシャーを感じることもないですし。ただ、姉夫婦とふたりの子どもたちを見ていると、大変そうだけど楽しそうだなぁとも思います。
彼らと接していて、「私と夫、20年後くらいにさみしくなっていないかな?」と想像することがあるんです。だから、今も「子どもを持たない」と決めきれないわけですね。逆に、きっぱり決断できている方の潔さをすごいと思いますし、羨ましいですよ。
――「女性の体のしくみ」「養子を迎え入れられる年齢」といった制約がいろいろとあるために、子どもをどうするか40歳前後までに決断しないといけないというのは、本当に悩ましい問題ですね。
そうですね。このまま子どもを持たない生き方をすることになったとしても、子育てする人たちを間接的に応援していくつもりです。自分に子どもがいなくても、会社に子育てをしている仲間がいて、保育園に預けられない……となると社会が困ります。
仲間に職場復帰してもらって、前みたいに力を発揮してほしいのに、待機児童問題でそれが叶わないとなると、私たち周りの人間もつらい。そう考えると、子どもがいる・いないに関わらず、待機児童や女性の働き方などの問題提起は、誰がしてもいいと思います。
――とても素敵ですね……。以前、小川さんは、仕事と子育てを学びたい学生と、子育てをサポートしてほしい家庭をつなげる事業をしているスリール株式会社・堀江敦子(ほりえ・あつこ)社長を取材されていました(※)。記事の中で堀江社長が「結婚していなくて、子どもがいない自分も働くお母さんを応援したい」といったことをおっしゃっていて、まさにそういった考えが大事だなと感じました。
堀江社長は「子どもがいない人が、子育てをしている人を応援するのにも意味がある」と話しているんですよね。私もそれに共感しています。
「子どもは社会で育てる」っていい言葉ですよね。
子育ては子どもがいる人だけの問題とするのではなく、子どもがいない人でも良い意味で口を出せる社会であってほしいなと思っています。
※制度だけでワーママ・イクメンは増えない 子育て当事者になる前の「両立体験インターンシップ」(ヤフーニュース個人)
小川たまかさん
1980年、東京都品川区生まれ。ライター。主に性暴力、働き方、教育などのテーマで取材。「ヤフーニュース個人」をはじめとした媒体に寄稿。編集協力した書籍に『漂流女子 にんしんSOS東京の相談現場から』(中島かおり著、朝日新書)などがある。性暴力被害当事者を中心とした団体、一般社団法人Springスタッフ。Twitterは@ogawatam
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