子どもを持たず、夫婦ふたりで生きていくことを決めたふくだりょうこさん。最初から子どもを持たないと決めていたわけではなかった。けれど、35歳を迎えたタイミングで決意を固めました。今回は、そんな彼女が、自分たちの人生についてどのように考えているのか、お話しをお伺いしました。
「親が支配する世界が全てだった」
これは、2018年の4月、ライター・ふくだりょうこさんが執筆した「「家族は一番身近な他人」ということに早く気がついて。」の中に書かれていた一文だ。
父と祖母による家庭内暴力、支配に苦しんだ経験を持つ彼女は、29歳のときに3年交際していたパートナーと結婚。現在は、結婚7年目で「子どもは持たない」と決めている。
「わたしが育った家庭にも原因があるとは思うんですが、今は子どものいる幸せな家庭をどうしてもイメージできないんです」
そう話す彼女に、子どもを持たないと決断するまでの物語と、これからの生き方について聞いた。
■「子どもを産まないのは女性としての務めを果たしていない」という衝撃的な言葉
――現在、パートナーの方とは結婚7年目とのことでしたが、交際中に、将来子どもを持つかどうかについては話し合っていましたか?
実は、結婚する前はふたりで「子どもがいたらいいよね」という話はしていたんです。
でも、結婚してすぐのときに、まわりの友人で親になる人たちが数人いて、お子さんがいるご家庭の様子を目にするような機会があったときに、夫が「子ども……大変そう。いなくていいかな」と。
「子どもがいたら、ついイラっとして不安になったり、邪魔だなと思ってしまいそう」という不安があったように見えました。
―― 実際に子どものいる暮らしを想像したとき、自分にはそれが難しそうだと。「子どもがいたらいいよね」という話をしていたころから心境に変化が起きたんですね。
なんとなく、彼がそういうことを言い出すのではという予感はあったんですよね。
ただ、私は、お友達の赤ちゃんに会ったときに「可愛い」という気持ちがあったので、そのあともしばらくは「子ども、私も欲しいかも」とは思っていて……ときどき話題にはしていたんです。
――そこには「早く産まなくちゃ」という気持ちもあったのでしょうか?
31~32歳くらいのころ、周りが出産ラッシュだったんです。
そのときは「やっぱり産まないといけないのかな」という気持ちになったこともありました。
あと、40代の女性から「子どもを産まないのは女性としての務めを果たしていない」と面と向かって言われたりして、ショックを受けたり(笑)。
でも、彼と何度か話しあったときも、「うーん、欲しいかな、欲しくないかな」という感じで……いつも最終的には「やはり子どもがいなくてよい」という結論になっていましたね。
――勝手なイメージではありますが、夫婦で意見が食い違うとき……特に子どもの話は、険悪なムードにもなりかねないと思います。その話し合いはどのように進めたのでしょうか?
話し合うときに喧嘩みたいになったことはありませんでした。
たとえば「女の子がいい? 男の子がいい?」と冗談っぽい、軽い感じで話をふったりして、ふたりで穏やかに話し合っていましたね。
■リミットだと決めていた35歳、子どもを持たないことを決意
――そういうふうに、難しいこともふたりで感情的にならず話し合えるコミュニケーションができるのは素敵です。最終的に「子どもを持たないふたりの人生でいこう」と決めたきっかけは何でしたか?
そうですね……。
迷っているうちに、自分の中でリミットと決めていた35歳になりまして。それを機会に、迷ったり考えたりすることの一切をやめました。
最終的に「子どもを持たない」と決めた理由は、まず自分の仕事がとても好きだということ。もし子どもが生まれたとしたら、夫はあまり家事をしない人ということもあって。
子どもの世話や家事のほとんどを自分ひとりですることになると思うんです。
そこからまた仕事に復帰するというのはけっこう大変だろうと。
あと、育ってきた家庭環境があまりハッピーなものでなかったこともあって……。わたしは昔から「長生きしたくない」というような気持ちがあったんです。子どもを産むと、子どもに対する責任も生じますし、産んでおいて早くに自分がいなくなるということも可哀そうだなと。
――もし、子どもがどうしても欲しいという人がパートナーだったら、子どものいる自分は想像できますか?
そうですね……うーん、どうかな。
今は、子どもを持つことが怖いという気持ちもあります。私にとっては、もはや未知の世界すぎて。
私自身の家庭環境にも理由があるとは思うのですが、「子どものいる幸せな家庭」をあまり想像できないんですね。もしかして自分も子どもに手をあげてしまうかもしれないし……正直「こんな私に育てられる子どもが可哀そう」という気持ちもあります。
■子どもを産んでいないからといって、出産や子育てを否定したくはない
――お子さんのいるお友達との関係は変わりましたか?
やはり以前のように気軽に飲みにいったりすることは少なくなり、独身の友達と会うほうが多くなりましたね。
ただ、子どものいる友達のおうちに遊びに行かせてもらったりはします。
子どもを産んでないからといって、出産や子育てを否定したくはないですし、赤ちゃんを抱っこさせてもらったりもしますよ。
――周りが出産ラッシュなどを迎えると、焦りや不安を抱いてしまう……という人もいますが、あまり大きな変化を感じることはなかったんですね。
うまく言えないんですが、出産を経験した友達は良い意味で性格が変わったなぁ、と思うことはありました。
子どもを持たない決断をしたわたしには、そうやって変わるきっかけがないんだな、と。
でも、どうしても子どもが欲しいとはもう思っていないですし、不安に感じたり、コンプレックスとして自分の中にため込んでいるということはないですね。
ただ、子どもがいる人から「子どもがいないから身軽でいいわね」とか「都合とかはこっちに合わせてよ」というようなことを言われて、むっとしていた頃はありました(笑)。今はもうそういったことを言われても大丈夫ですけど。
――子どもがいなくても、仕事はあるし、自分の生活もありますもんね。友人との関係が変化していく中で、パートナーとの関係の中で大切にしていることはありますか?
夫婦ふたりだけなので、お互いのことをよく知りあうことが大事だなと思っています。だからコミュニケーションはちゃんととるように心がけていますね。お互いについて知らないことがないようにしたいなと……。
■「孤独死」の不安はある。だけど、今は本当に幸せ
――夫婦ふたりで生きていくことについてはどのように考えていますか?
そうですね。
ずっと先の話ですが、どちらかが亡くなったら……という話をときどきします。特に彼は、家事ができないので、私がもし先に死んでしまったら3日ももたないよ、なんて言ったりします。
残された方は孤独死という可能性もありますし、そのときどうすれば良いのか、ということをもっと話し合わないといけないなぁ、と。
今現在の話としては、夫がもう少し家事をしてくれたら、と思いますが、そのくらいです。基本的には満足していますね。
《補足》
内閣府のホームページに記載されている「高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向(6)」によれば、孤独死を身近な問題と感じる人の割合は、60歳以上の高齢者全体では約17%。対して、ひとり暮らしをしている高齢者にかぎると約45%。
――自分たちの価値観や選択を大切にされているんですね。
私は生まれ育った家庭で生きるのがとても大変だと感じていました。楽しいこともあまりなかった。
でも、結婚したことでそこから自由になれました。そういう意味では夫には救ってもらったと感じています。大人になって自分で稼いだお金で、好きな時に好きなことを何の制約もなくできるので、今は本当に幸せです。
取材協力/ふくだりょうこ
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