イランで生まれ、日本で俳優として活躍中のサヘル・ローズさん。現在は、それぞれに事情を抱えつつ、鬱屈として生きる女性たちを見つめた出演映画『女たち』が公開中です。
罵詈雑言を浴びせてくる半身不随の毒親(高畑淳子)と二人暮らしの主人公・美咲(篠原ゆき子)の家に、ホームヘルパーとして派遣される看護師のマリアムを演じたサヘルさんに、演じた役柄のみならず、主人公と母の関係から感じたことを聞きました。
さらに、7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日したサヘルさんに、中学3年のときに「死のうとした」という、自身の壮絶な日々について、前後編で語ってもらいました。
この国で生きる外国人が抱える気持ちを、少しでも伝えられたら
――今年は『ターコイズの空の下で』に続いて2作目の出演作公開ですが、一般的にサヘルさんに浮かぶのは、『ターコイズの空の下で』での秘書役のようなイメージです。本作のホームヘルパー役のオファーを受けてどうでしたか?
サヘル・ローズさん(以下、サヘル)「嬉しかったです。外国人ヘルパーの方って、日本でもどんどん増えてきていて、必要とされている分野ですよね。本編でマリアムの生い立ちや背景は触れられませんが、外国人の方々がこの国で生きていくためにどういった心情を持って、どういったことを抱えているのか、少しでも伝えられたらと思いました。
同時に、私も母とふたりで生活していて、母がどんどん老いていくので、主人公が思うことや、いつか私自身も母を介護しないといけないという将来を見据えて、知っておきたい感情だと感じました」
本作のお母さんは、毒親ではないと思った
――主人公の美咲にとって、母親はいわゆる毒親のように映ります。
サヘル「あのお母さん本人が一番苦しんでいるんですよね。感情のやり場がなくて、娘にあたってしまう。でもそのことに母親自身も苦しんでいるんです。
ふたりの関係を見たとき、かつての私と母の関係もそうでしたが、どこか互いに遠慮して生きていると感じました。私と母は血が繋がっていませんが、だから遠慮していたわけではなく、血が繋がっていようがいまいが、遠慮があったりすれ違いがあったり、お互いを見られていないことってありますよね。そこを乗り越えて、どの年齢で親子として向き合えても、それは正解だと思います。20代で仲良くなれることもあれば、本作のように時間を経て、やっと親子として向き合えることもある。
私は高畑さんが演じたお母さんは、毒親ではないと思いました。寂しくて、生きているのがしんどくて、誰かに当たってしまう。特に一番近い娘に。それに、母親だけではなく、この映画の登場人物は全員が何かしら傷ついていて、自分を装って繕っているから、お互いをちゃんと見られていない。主人公と親友(倉科カナ)との関係もそうです。誰かが現れたらスイッチをいれて、笑顔で繕って、その人好みになる。人は、本当に自分らしく生きられているのだろうかと考えさせられました」