怒りと上手く付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事・戸田久実さんがお届けする連載【大人の上手な怒り術】第4回では、職場でパワハラにならない上手な叱り方について解説してもらいます。
■叱ることへの苦手意識をなくそう
「叱られるのは嫌だけど、叱るのも苦手」「職場の部下や後輩に対して、どう叱っていいかわからない」。こんな相談をよく受けます。
たしかに、自分の子どもならまだしも、他人である部下や後輩を叱るのは難しいですよね。叱ったことによって気まずくなったり、嫌われてしまうのも怖いですし、うまく伝えられずに相手を傷つけてしまう心配も。
昨今はパワハラ問題が取り上げられることも多く、「下手に叱ってパワハラと言われたくない。でも、そうならないためには、どうしたらいい?」と悩む人も多いようです。
このように、叱ることに苦手意識を持っているためなかなか叱れず、その結果、いつまでたっても部下や後輩の問題行動は改善されないので、さらにストレスが溜まる……という悪循環に陥ってしまうこともあるでしょう。
ですが、相手を嫌な気分にさせず、改善してほしい点を上手に伝えることはできます。そんな適切な叱り方ができるようになるために、まずは叱る目的から考えてみましょう。
■パワハラにならない効果的な叱り方とは
相手が子どもでも大人でも同じですが、人を叱る目的とは、「相手の成長を願い、望ましい行動をしてもらうために意識と行動を変えてもらうこと」です。
叱るということは、相手に「次からこうしてほしい」ということを伝える手段であり、決して、声を荒げたり感情をぶつけたりする必要はないのです。
では、実際にどのような叱り方をしたらいいのでしょう。以下にポイントをまとめてみました。
何について叱っているのか、論点がブレないようにする
「◯◯さん、書類の提出期限が過ぎているんだけど。まったくデスクも整理整頓できていないよね。だから提出書類がわからなくなるんじゃないの? しかも出勤時間もギリギリだし……それに……」。
というように、叱っている間にあれもこれもと付け加え、どんどん本題から話がそれてしまう人がいます。
このように論点がブレると、相手も何に対して注意を受けているのかわからなくなってしまいます。「◯◯さん、書類の提出期限は守ってね」など、伝えたいことは“一時に一事”に絞りましょう。
どのようにすればいいのか、具体的な表現で伝える
次のような曖昧な表現を使っていませんか?
「ちゃんと時間は守ってね」
「しっかり段取りを組んでね」
「お客様には、もっと丁寧な対応をして」
「相手の立場に立って考えて行動して」
しかしこれでは、自分の思った通りの行動を相手がしてくれないことがあります。「ちゃんと」「しっかり」「相手の立場に立って」などの基準は人によって違うものです。
相手は「ちゃんと時間は守っているつもりなんだけど、何がいけないの?」と感じているかもしれません。何をどこまで望んでいるのかを細かく伝えなければ、相手の行動は変わらないのです。
「会議の集合時間だけど、配布資料にも目を通してほしいの。それから、ジャストタイムに始めたいから10分前までにはきてね」
というように、次からどうすればいいのか、相手と共通認識を持てるよう、できるだけ“具体的な”表現で伝えましょう。
なぜ、という理由・目的を理解できるように伝える
相手に意識と行動を変えてもらいたいのなら、叱っている理由、目的を伝えることも重要です。
そんなこと「当たり前だから」「常識だから」「規則だから」 で済ませている人もいるかもしれません。ですが、特に年代が違えば価値観も違いますし、何を常識ととらえているかも違うでしょう。
「そんなの人として当たり前でしょ!」といった言い方をしてしまうと、叱られた方は「人として当たり前ではない!」と言われているように聞こえ、グサッと傷ついてしまいます。
「書類の提出期限を守ってね。そうしないと、その書類をまとめる人の仕事の段取りにも影響するから。仕事はチームで行っている意識を忘れずにね」というように、なぜそうしてほしいのか、理由・目的を伝えると、より理解してもらいやすくなるでしょう。
■言ってはいけないNGワードとは?
次に、言ってはいけない、気をつけたいNGワードもご紹介します。
「なぜ?」で相手を責める
「なぜ こんなことをするの!?」「なぜ何度も同じミスをするの!?」
ついこう聞いてしまいたくなりますが、原因を追及することにはあまり意味がありません。改善するどころか、相手は「責められた」と感じてしまい、萎縮したり言い訳をしたり。さらに、3回以上「なぜ?」と言われると、追い詰められて思考が停止してしまいます。
「なぜ?」ではなく「今後このようなことが起こらないようにするためには、どうすればいいかな?」と、次につながるような聞き方が望ましいでしょう。
決めつけたような表現
「いつも遅刻するよね」
「必ず忘れるよね」
「一度もしたことないよね」
こんな風に大げさに言ったり、決めつけたり、レッテルを貼ったりする言い方はいけません。本当にわかってほしいことを相手に理解してもらえなくなってしまいます。
あくまでもそのときに改善してほしい事柄だけに言及しましょう。
過去の話を引っぱり出す
「前もそうだったよね。一度や二度じゃないよね。そういえばあのときも……」などと過去を蒸し返して、どれだけ相手が悪いかを証明しようとするのもやってしまいがちなことです。
ですが、このように自分が言われたらどう感じますか? きっと素直に言葉を受け入れることはできないでしょう。決して過去の出来事を責めないようにしましょう。
人格を否定するような表現
「遅刻ばかりしてだらしない人だよね」
「この仕事向いてない! ほんと使えない!」
「ばかじゃないの!」
こんな言い方は、当然、相手を深く傷つけます。こちらの思いが伝わらないばかりでなく、ケンカに発展したり、修復不可能になってしまうこともあるでしょう。
相手を叩きのめすことが目的ではないので、これらは言う必要がないこと。叱る際には相手の“行動”についてのみ言及することが大切です。
以上のポイントを踏まえれば、相手も自分も嫌な気分にならず、成長につながるような叱り方ができるでしょう。適切な叱り方ができれば、職場の雰囲気もよくなります。ぜひ、実践してみてくださいね。
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