おうち時間が増えた昨今、暮らしまわりを見直す機会が多くなりました。家具もそのひとつ。快適性とデザイン力に優れた家具が人気です。北海道旭川市は「家具の街」として知られ、街なかの店やホテルで上質な木製家具と出会えます。その究極スポットである「旭川デザインセンター」をご紹介します。
#観光 #家具 #旭川
駅やホテルや街なかで旭川家具と出会う
旭川家具をご存知ですか? 100年以上の歴史があり、北海道産を中心とする良質な木材と高いデザイン性で世界的に有名です。私は旭川家具のことは「星野リゾート OMO7旭川」で知りました。旭川家具を、椅子だけでも約20種・40脚ロビーに置いている日本初の都市観光ホテルです。
ホテルの椅子を見て、JR旭川駅の記憶とつながりました。構内には色、形が様々な椅子がいくつも並び、誰でも気軽に利用できるのです。ホームへ続くエスカレーターや階段まわりは木材を多用した個性的なデザイン。
あとから知るのですが、これは「旭川家具ラウンジ」と呼ばれる旭川家具工業協同組合の取り組み。北海道産のタモ材を使った粋な内装は建築家の内藤廣さんによるものです。「家具の街・旭川」が体感できる「旭川デザインセンター」があると知り、ホテル滞在の翌日、みちくさ旅へと出かけました。
旭川デザインセンターは、旭川市旭山動物園から車で15分ほどにあります。1980年誕生の旭川家具センターを2017年に大幅改装し、「旭川デザインセンター」という名前でリニューアルしました。ここは北海道旭川地域(旭川市・東川町・東神楽町)の家具やクラフトメーカー約30社が常設ブースを構えるショップ。併設する飲食店や雑貨のセレクトショップもオシャレです。
家具ミュージアムのような上質な空間
1000坪ものスペースに家具がずらりと並び、さながらミュージアムのようです。2階まで吹き抜けのエントランスを中心にして、まずは1階の企画展からはじまって、家具ブランドごとの常設ブース(カンディハウス、匠工芸、大雪木工、コサイン、インテリア北匠工房、東10号工房、ガージーカームワークスほか約30社)へと続きます。
昨夏の企画展は「サマーヒュッゲ〜自宅で過ごす、穏やかな夏。」でした。 運営する旭川家具工業協同組合の専務理事・杉本啓維(よしまさ)さんは、「ヒュッゲとは『温かく心地よい時間や空間』を意味するデンマークの言葉です。コロナ禍、自宅時間の巣篭もりを“我慢”というネガティブで捉えずに、『自宅こそ心豊かな場所に』というライフスタイルのご提案を、 旭川家具などで“ヒュッゲ”をテーマにして行いました」と話します。
2021年4月7日からの企画展は「Design Stories from IFDA デザイナーとつくる、暮らしのストーリー。」と題して、この30年の旭川家具の取り組みを紹介。とくに「国際家具デザインフェア旭川(IFDA)」という1990年にスタートした世界規模の木製家具デザインコンペティションのアーカイブ映像や、歴代の入賞作品は見応えがあります。
家具産地に次世代が育つ理由
旭川が「家具の街」になった背景を旭川デザインセンターで学びました。
北海道第二の都市・旭川市は、明治23年(1890年)に誕生した旭川村からはじまります。周囲は旭岳をはじめとする雄大な大雪山系に囲まれ、水に恵まれ木材資源が豊富な土地柄。木挽場があり、北海道産ナラ材は世界最高峰の品質を誇る「ジャパニーズオーク」として知られ、銘木市が開かれ、小樽港から海外へ輸出されたほど。良質な木材の集散地でした。
また、北海道の中心に位置することも、家具産業につながりました。戦時中は陸軍第七師団が置かれ、鉄道や町の整備とともに人口は増え、建物や住まいの需要が増え、家具製造業が次々と誕生しました。主要産業の米作りが冷害による凶作で不安定だったことも、家具が通年産業として期待されたところです。
戦後の高度経済成長期は、婚礼家具などいわゆる「箱物家具」で売り上げを伸ばします。ですがライフスタイルの変化、バブル経済の崩壊、また大地震による住宅家具倒壊の悲劇なども一因となり、人々の家具への概念が変化。ハウスメーカーによる造り付けの収納家具が普及します。そして使い捨て感覚の安価な家具の台頭。最近は一定料金で家具を借りるサブスクレンタルサービスが話題を集める時代です。
変化が求められる中、旭川家具では「脚物家具」と言われる椅子をはじめ、国内外のデザイナーとタッグを組み、使いやすくて美しい、そして長持ちするデザイン性重視の個性あるモノづくりを展開しています。
杉本さんは、「早い時期から若手職人の教育支援が行われていたことが、旭川家具ブランドを強くしたのではないでしょうか」と話します。
1963年に市の支援による海外研修制度が実施され、現在の旭川家具を代表するカンディハウスの故・長原實さんら、当時の若手が海外でものづくりを学び、旭川家具の進化へとつなげたと言います。
その後、家具やデザインを学ぶ大学や専門学校の設置、国際家具デザインフェア旭川(IFDA)の開催(1990年〜)、「旭川・家具づくりびと憲章」の制定(2007年)をはじめ、官民一体で積み重ねた歴史があってこその今。国産木材へのこだわりと、そのための森林保護や植樹などの活動も長年続けられています。(参考・川嶋康男編著『100年に一人の椅子職人』新評論刊)
旅行者とローカルを結ぶホテルで“利き椅子”体験
OMO7旭川では2020年秋、旭川家具の椅子にスポットをあてたアートイベントを開催しました。ロビーラウンジ「OMOベース」にある椅子の座り比べ、家具職人さんによる解説、そして旭川家具を使う市内飲食店をご近所ガイドOMOレンジャーとめぐる「ご近所さん旭川家具ツアー」です。
ホテルスタッフの大久保貴之さんは旭川家具に魅せられた一人です。
「例えばこの椅子は『yamanami(やまなみ)』という名前通り、山の稜線をイメージさせるフォルムが見事です。製造する匠工芸は、大雪山系をのぞむ大自然に工場があり、働くみなさんがとっても素敵でした。当館でのアートイベントでは私もお客様と一緒になって、家具職人さんのモノづくりへの溢れ出す思いを聞くことができ、感動しました。イベント後、参加のお客様に旭川家具をお買い求めいただけたことは、想定外でしたが、コロナ禍にあり辛いことが多かった昨年のよき思い出です」と話します。
2021年秋もOMO7旭川では旭川家具企画を予定。その前に毎年6月には旭川デザインセンターを中心にして「旭川デザインウィーク」が開催されます。各社新作発表や商談が行われるほか、旅行者にも楽しい工場ツアーやワークショップなどが予定されています。
家具を生業にする杉本さんの言葉を思い出します。 「私にとって家具とは? 家具は身近な道具のひとつ。いつもそばにある、心やすらぐ、人生のパートナーでしょうか。手入れをして大切に扱うことで子供の代にも引き継げる頼もしい存在です」。
一緒にいる時間が長いものほど愛すべき存在に。おうち時間を快適にする家具。産地で出会い、ご当地のホテルやお店で体感し、品定めで生涯の友になれば、これほど旅の素晴らしさってないと思います。「家具の街・旭川」へぜひ、お出かけください!
旭川デザインセンター
北海道旭川市永山2条10丁目1-35
JR旭川駅から車で約15分
JR旭川駅前のフィール旭川からバス乗車、永山2条10丁目下車徒歩すぐ
9時〜17時
無休(年末、年始、お盆は休み)
0166-48-4135
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