諸外国の事例
子育て先進国と言われているフランスでは、課外活動支援のひとつ「余暇センター」が地域社会や施設と連携し美術館訪問・遠足など多様なプログラムを提供する事で子ども達の育ちを支えているそうだ。
“余暇”と言われてもピンと来ないが、日本の学童で行われているような宿題の手助け、学習監督、外国語教育は余暇に相当せず、食事と休息の時間を含み、集団で生活しながら自然・社会・文化に関する諸活動を行うこととされており、2歳から17歳まで利用できる。給食も提供され、遠足などセンター外での活動の際はお弁当も支給される手厚い内容となっている。
日本と同じく少子化対策が急務となっているドイツでは「デイ施設」が設置されている。この「デイ施設」、元々幼稚園だったそう。3歳以上5歳まで対象の幼稚園が保育園機能・学童保育機能と拡充し年齢区分の無い施設となっている。
また、デイ施設以外にも「多世代の家」と呼ばれる乳幼児から高齢者まで、あらゆる年齢層が利用できる交流型施設の設置を政府が推進しているし、子どもから高齢者まであらゆる年齢層が受講できる「音楽学校」も子ども達の居場所の一つとなっているという。
「学力世界一」のフィンランドでは希望する全ての子どもが、親の就労に関わらず利用できる学童保育に加え、子どもの居場所として90年以上前から「レイッキプイスト(児童公園)」が定着している。職員が常駐し、無償で食事提供を行っているところもあるそうだ。
また、地域図書館も大事な居場所の一つとして位置づけられている。子ども達の社会的疎外の予防を目的としてさらなる放課後事業の拡充を目指しているそうで、その理念が何より素晴らしいと感じた。
なーんだ、諸外国では、子どもの“育ち”を第一に考えて、ちゃんと夢の場所を作ろうとしていたのか、と目から鱗だった。
なぜ日本でできないのか
日本でも、プレイパークなど子どもの居場所づくりとして自治体毎に様々な取り組みをしているようだが、政府主導で子どもの“育ち”を第一に、日々の子ども達の居場所を確保していこうと言う動きはないように見える。
フランスの「余暇センター」、フィンランドの「レイッキプイスト」など、子ども達が自分のやりたい事を自由に選択でき、それを受容してもらえる場は日本では児童館がその役割を果たしているのかもしれない。でも、残念ながら前述した通り縮小傾向で全ての子に平等にその機会が与えられている訳でも無い。
そんな中、全ての子どもが利用出来るような場を、きちんと予算を割き整えられたなら、そこは土管のある空地となるであろう。一定の距離感を持った見守りがあり、その温かな見守りの元、豊かな放課後を過ごした子ども達は生き抜く力を育めるであろう。
温かな見守りを確保するには見守る側のソフト面の充実も大事だ。学童保育指導員の平均年収が約200万円。それは情熱を搾取する事で成り立っている事業と言わざるを得ないし、ボランティア頼みの事業も個人の情熱に頼る所が大きく持続可能とは言えない。楽しくイキイキと活躍している大人との継続した関わりを通してこそ、子ども達は将来に対して夢や希望を持つはずだ。
地域の中に点在する土管のある空地。様々な年代が集い、子ども達はそのコミュニケーションを通して学校では学べない大事な何かを得るだろうし、大人たちも子どもを介して緩やかに繋がれれば地域も活性化する。まさに一石二鳥だ。
その為に今すぐ出来る事。それは、学校の中だけでなく、保育園、幼稚園、図書館、役所の出張所など、あらゆる所に子どもの居場所を確保する事。選択肢は多ければ多いほど、子ども達は自分で自分に適した居場所を見つけ出すだろう。自ら考え主体的に選ぶスキルは生き抜く力の一つになるはずだ。
「子どもの権利」としての居場所確保
先に紹介した諸外国では、子どもの居場所を考える事と保育を考えることが同義となっているようだ。また、保育を受ける権利は「子どもの権利」として認められており、希望する全ての子どもが享受できる環境となっている。保護者の就労状況に左右される「親の権利」では無い。保育と聞いて、就労している保護者の元に居る保育に欠ける子ども達を想像しがちな日本とは捉え方が大きく異っている。
なぜそのような意識の差が生じているのかと言えば、政府が子どもの“育ち”を考える必要性を実感し、その育ちの場として保育を位置づけているからであろう。なぜ必要性を実感しているかと言えば、子どもの育ちを考える事は、国の未来を考える事だからだ。
OECDのデータによると、全教育期間に対する公財政支出の対GDP比は、日本は加盟国34か国中6年連続最下位。子育て世代なら痛感していると思うが、日本は子育てに関わる予算を割こうとしていない。
子ども達への投資は日本の未来への投資でもある。今、日本でも子ども達の居場所を“育ち“の視点から真剣に考えるべき時を迎えているのではないだろうか。地域のそこら中から子ども達の“のびのびと響き渡る”笑い声が絶えず聞こえてくるような、そんな未来であって欲しい。子ども達の声がしない地域に活気に満ちた明るい未来は無いはずだ。
*この文章内の学童クラブは放課後子ども総合プランの放課後児童健全育成事業を指します。また、全児童対策は同プラン内の放課後子供教室を指します。両事業の運用については各自治体により異なります。
<参考:池本美香 編著『子どもの放課後を考える ー 諸外国との比較で見る学童保育問題』(勁草書房)>
(著者)渡邊寛子
福島県出身。東京都新宿区在住。大学卒業後、製薬会社の営業職(MR)として勤務。単身赴任中のMR(他社)の夫、小4男子、4歳女子、2歳男子の5人家族。長男出産後半年で復職後から時短にて勤務。長男の学童問題を契機に保育に興味を持ち、保育園・学童の保育の質向上の為に活動中。目の前の問題を言葉にして解決への一歩を踏み出すことを目指す“カエルチカラ・プロジェクト”の「なかのまどか言語化塾」一期生。
「カエルチカラ・プロジェクト」は、目の前の課題を変えるための一歩を踏み出せる人を増やすことを目指すプロジェクトです。
女性を中心に何らかの困難を抱える当事者が、個人の問題を社会課題として認識し、適切に言語化し、データを集め、発信することで、少しでも改善の一途につなげたい。「どうせ変わらない」という諦念、泣き寝入りから「問題を解決できる」「社会は変えられる」と信じることができる人が増えることを願っています。
発起人: WILL Lab 小安美和、研究機関勤務 大嶋寧子、ジャーナリスト 中野円佳
提供・LAXIC
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