神戸観光で人気の「北野」は、異国情緒溢れる街。レストランも多様で素敵なお店がたくさんあります。そんなお店の一つ「Matsushima」は、神戸を愛するシェフが日本の四季を大切に腕を振るう、神戸でフランス料理を食べるならオススメの大人気店です。そんな「北野」の歴史と、「Matsushima」をご紹介します。
神戸「北野」は国際色豊かな人が “住む街”
「神戸と言ったら港町で、たくさんの異人館にヨーロッパのような街並みがあって、ちょっとオシャレな街!」という印象を持っている方が多いと思いますが、神戸のどこもかしこもが、そうではありません。
主に、そのような雰囲気漂うエリアは、海に近い「旧居留地」と、山の麓にある「北野」。今回ご紹介するお店「フランス料理 Matsushima(マツシマ)」は、「北野」にあります。
さっそくお店をご紹介したいところですが、その前に「Matsushima」のある「北野」がなぜ人気があるのか、事前に知っておくともっと楽しくなる情報もご紹介します。
「北野」と「旧居留地」との違い
先ほどもご紹介した通り、「ヨーロッパらしい街並み」として挙げられるのは、「旧居留地」と「北野」ではありますが、この2エリアは場所も生い立ちもかなり異なります。
当時、神戸港で貿易の窓口を担う外国人商人のためだけの 特別区域 は「居留地」と呼ばれ、港に近いところに造られました。今の「旧居留地」があるエリアです。
しかし!日本政府の段取りが悪くて、居留地の中にある住宅地が、すぐにいっぱいになってしまったのです。職場はあっても住む場所がなければ仕事ができません。
そこで、「外国人専用の特別地区ではないけれど、日本人と一緒に住んでね」と居住許可が出たのが、山の麓にある「北野村」の辺り一帯でした。
当然、日本人がもともと住んでいるのは日本家屋、その村の中に異人館が建つようになったので「雑居地」とも呼ばれたそう。
また、北野に住む外国人は、石段や石造灯篭、石造擁壁などを寄進するようになり、ちょっとずつ異国の雰囲気が増していきます。そうすると、また新たに来日した外国人は、住みやすそうな北野に居住を構える…というように、北野は異国情緒のある街へと変化していきました。
そんな北野は、外国人にとって、ただ住みやすかっただけではありません。貿易の仕事をする外国人が北野を好んだ理由がもう一つあります。それは 北野が山の麓 = 高い場所にあったから。
「北野」のすごい急な坂道がむしろ良い
「北野」へ観光に行くとき、侮ってはいけないのが 急勾配の坂道 。この坂道を登る覚悟はして訪れたほうが良いです…とは言っても、広い道路には観光用のループバスやタクシーが走っているのでご安心ください。
また、迷路のように入り組んだ、急勾配の路地の雰囲気も素敵。これも北野散策の醍醐味です。
しかし、神戸港が栄えた当時、外国人は「北野の居住地」から「仕事場の居留地」まで、この坂道を通って通勤しなければなりません。なぜ、こんな交通の便が悪い場所に好んで住んだのか?
それは 北野から港への見晴らしが良く、港を行き来する自国の船を、自分の目で確かめられたから。
今となってはたくさんの近代的なビルやマンションが立ち並び、港は見えませんが、北野はもともと急勾配の山の斜面に 棚田が広がる田園地帯 だったのです。船が見えたら「よし、そろそろ坂を降りるかな。」といった具合だったのでしょう。
これで、北野が急な坂道ばかりなのも、細い路地(かつてのあぜ道)がたくさんあるのも、港まで見晴らしが良かったワケも、わかりますね。
ちなみに、北野に住む外国人の通勤通路として拓かれた通りが、今でもおしゃれな通りとして観光客に人気のある「トア・ロード」です。
一度は消えた異人館街
今現在、私たちが目にする「北野」の姿は、残念ながら開港当初からのものではありません。
北野と居留地を行き交う外国人で賑わうこの街に、暗雲が立ち込めたのは 第二次世界大戦が始まってから。外国人は国外退去や母国へ強制送還され、主人の居なくなった異人館の多くも空爆により焼失してしまいました。
さらに、戦禍をまぬがれた異人館は、高度経済成長期に近代的なビルやマンション、住宅に立て替わってしまったり、老朽化で取り壊されたりして、異人館街という街並みは消えてしまうのです。
NHKドラマで閑静な住宅街「北野」が一躍有名に!
しかし1970年代に入ると、地元の住人や民間企業が協力して、北野に現存している異人館や景観の保全活動を行うようになります。その成果もあってか、1977年にNHK連続テレビ小説で異人館の「風見鶏の館」が取り上げられると、異人館のある街として、北野は全国的に注目を浴びることに。
そして神戸市も北野の景観の保存・修理に取り組むようなり、北野だけではなく、神戸の街全体の観光地化が一気に進んでいきました。
国際色が長年根付いている「住宅街の北野」
こうして、観光客が多く訪れるようになった北野ですが、観光客がたくさん訪れるエリア以外は、今でも閑静な「住宅地」です。
また、住民も国際色が豊か。かつて港町として栄えたからなのでしょう、海外から来る人たちはwelcome!な土地柄なので、戦後に北野に移り住み、居住歴の長い外国人もたくさん。彼らが働く場所、学校や幼稚園、そして宗教施設や外国人コミュニティーなど、生活の隅々まで多国籍な人々の暮らしが、北野には根付いています。
そこが北野の面白いところ。観光地でありながら、住んでいる人もいっぱいいるんです。だから、観光客のための大規模施設などはなく、こぢんまりとした “友達の家のようなお店” が多いのですね。
今回ご紹介する「フランス料理 Matsushima」は、そんな北野の住宅街の一角にあります。
2002年に北野にオープンした「フランス料理 Matsushima」
正式名称は「Cuisine Franco-japonaise Matsushima(キュイジーヌ フランコ ジャポネーズ マツシマ)」。日本語のガイドブックなどには、簡単に「フランス料理 Matsushima」と書かれていることが多いです。
お店のある、東西に伸びる通りがまたユニーク。「パール・ストリート」と呼ばれる所以は、かつて真珠をはじめとする宝石の卸会社がたくさんあったからだそうですが、今はいろんな国のレストランがあちこちに。どのお店も、隠れ家のようにこぢんまりとしているにも関わらず、ついつい吸い寄せられてしまうような魅力を感じられます。
「フランス料理 Matsushima」のエントランスも、こぢんまり。大きな看板を出しているわけではありませんが、“素敵な友達の家” のような感じで街に馴染んでいます。
それもそのはず、Matsushimaさんは、ご夫婦で2002年にこのお店を立ち上げたそうで、北野ではもう長年やってらっしゃいます。何度かミシュランガイドにも掲載されましたが、敷居が高そうな堅苦しいような雰囲気はありません。
店内は白が基調で清潔感いっぱい。個室もあるそうですが、メインのダイニングルームも隣のテーブルとのゆとりがたっぷりあり、ほどよく落ちつけます。
ディナーは間接照明が柔らかな空間を演出し、ランチは窓からふりそそぐ陽の光が、とても気持ち良いです。
日本の四季が楽しめる様々なコース
店名にも「Franco-japonaise」とあるとおり、Matsushimaさんは、フランス料理でありながら、日本人としての感性で、日本ならではの四季の素晴らしさを、お皿の上に表現することを大切にしています。
だから、ホームページを見ても分かる通り、今月のメニューとして、「季節の食材コース」や「シェフの季節のおすすめコース」など、使う食材は日本の旬ものを大切にしています。
四季によってメニューは頻繁に変わりますし、毎年同じ料理が出るとも限りません。その一期一会のフランス料理がまた楽しみなのです。
基本のコースはランチ、ディナー共に¥5,000 と ¥10,000の2種類。時期によっては、旬の食材をテーマにしたスペシャルメニューもお目見えします。コースの流れは、小さなアミューズ、オードブル、スープ、メイン(1種か2種)、デザート。
特にオードブルとメインは、数種類から選べるようになっており、追加料金がかかるものもあります。
参考までに、筆者がチョイスした「サウスダウン種仔羊ロースト」は、一番高い追加料金で、プラス1,500円。非常に稀有な仔羊だということで、これもいつもあるわけではありません。
旬の素材を最大限に生かす
Matsushimaさんのお皿は、一見シンプルかもしれませんが、そう見えるものほど奥が深い!旬の食材そのものの味や良さを最大限に生かしているような、素材直球の味わいです。
例えば、上記写真の 白菜と灘「福寿」の酒粕のポタージュ。寒くなり、白菜が甘く美味しくなってくる頃は、日本酒の酒蔵では新酒を搾り始める時期。搾りたての酒粕も出回るようになります。そんな “旬” の食材2つを、シンプルなポタージュで見事にマッチングさせています。