これまでにも何度か『PARISmag』にご登場いただいた、フランスの情報を日本へ発信するメディア『トリコロル・パリ』のおふたりが、新刊『フランスの小さくて温かな暮らし365日』を出版。著書の荻野雅代さん、桜井道子さんがフランスでの何気ない日常について綴った本書は、私たちに日々の暮らしを楽しむためのヒントを与えてくれる1冊です。
そこで今回は、約3年間パリで暮らした経験を持ち、現在『PARISmag』でスイーツについて連載中のムッシュサトウさんもお招きして、移住して驚いた現地の文化やフランスの魅力、最新のエコ事情などについてお話を伺いました!
男性だってスイーツも香水も当たり前に楽しむ
—新刊『フランスの小さくて温かな暮らし365日』でも、伝統的な文化から最新のトレンドまで、幅広いトピックに触れられていますよね。1日1ページで365日分フランスの生活について知ることができる内容になっていますが、こういう構成にしようと思ったきっかけは何だったのでしょう。
荻野さん:はじめは、自由国民社の担当編集の上野茜さんから「日めくりカレンダーみたいに1日1ページの本を作ってみませんか」とアイデアをいただきました。話をいただいてすぐの頃は「365÷2だったら余裕で書けるでしょ」と考えていたんですけど、いざ書き始めるとなかなか進まなくて…。
桜井さん:最初にお話をいただいたのは約3年前なのですが、それから長らくお待たせしてしまいましたね。去年の3月に外出自粛期間に入ったのをきっかけにようやく家でゆっくり執筆する時間が取れて。そこで気合いを入れ直しました(笑)。
荻野さん:結果的にコロナ禍で多くの方が生活を見直し始めるいいタイミングで出版できたのでよかったです。
桜井さん:フランスのことをよく知っている方にはまだ感想を聞けていないので、サトウさんがこの本についてどう思ったのかがとても気になります。
サトウさん:読んでいて「それそれ!」と共感することばかりでした。おふたりと食の好みが似ているのか、僕の好きなものばかり登場するんですよ。シュケットとかカヌレとか…。フランスで食べた味を思い出しながら、幸せな気持ちで読みました。
桜井さん:「スイーツ男子なんて言葉はいらない」のページにも反応してくださってましたよね。
サトウさん:はい。日本では何かと“○○男子”とカテゴライズされてしまいがちですが、フランスはそうやって性別や年齢を気にすることがあまりないですよね。スイーツや香水など、日本では女性向けだと思われがちなものを躊躇なく愛せるところもフランスの良さだなと感じます。
—総合美容専門店『OFFICINE UNIVERSELLE BULY』の代表ラムダン・トゥアミさんも、「日本の男性は“ローズは女性っぽい”などと避けたりするのかもしれないけど、もっと自由に好きな香りを選んでいいんですよ」とおっしゃっていて。フランスのそういう自由な捉え方が魅力的だなと思ったのですが、みなさんは生活の中で日本との違いを感じたことはありますか?
荻野さん:フランスの人たちは、他人が何を食べてるとか、どんな香水をつけてるとか、そういうのをまったく気にしないんです。良くも悪くも他人に無頓着というか。人目を気にしてきちんと振る舞う日本の“恥の文化”も大切だと思うのですが、中にはそれをストレスに感じてしまう人もいますもんね。
サトウさん:そうですね。そういう意味ではフランスの方が生きやすく感じました。
荻野さん:“男性だからこうあるべき”みたいな声はあまり聞かないですけど、女性らしさや男性らしさを魅力として前面に出していくという考えはフランスにもありますね。年齢を重ねた人でもセクシーな服装を楽しんでいたりして。
桜井さん:フランスのビーチにぜひ行ってみてもらいたいです。どんなおばあさんもビキニを着ているし、お腹がぽっこりした中年の女性も気にせず水着になっていて。みんな本当に自分の着たいものを着ているのがこの国を象徴しているなっていつも思うんです。人種やオリジンの違う人が集まる国なので、自分とまったく違うスタイルの人がいても、みんな気にしないんでしょうね。
会社のみんなでクロワッサンを持ち寄る、朝食会の文化
—本を読んで、子どもたちの休暇が思っていた以上に長くて驚きました。バカンスの時は、大人も同じくらいしっかり休むのですか?
桜井さん: 私のまわりには2ヶ月半ごとの学校休暇に1週間くらいの休みをとっている家族が結構います。毎回子どもに合わせて休めない親ももちろん多いと思いますが、少なくとも夏休みやクリスマスは、職種にかかわらずみんな休暇を楽しんでいる印象です。
—サトウさんは日本とフランス、両方の企業で働いた経験があると思いますが、働き方の面で違いを感じたことはありますか?
サトウさん:僕が勤めていたフランスの会社では有給が5週間くらいありました。長期で海外旅行をする人もいれば、桜井さんがおっしゃっていたように1週間の休暇を何回かに分けてとる人もいます。日本では有給を使うのに気を遣うというか、会社に対して「すみません、休みをいただきます」という空気感があるじゃないですか。でも、フランスではみんな「行ってらっしゃい!」って快く送り出してくれましたね。
—仕事の日は、みなさんどんな過ごし方をされているんでしょう。
桜井さん:職種や役職にもよると思いますが、こっちでは20時まで会社にいたら遅いっていう印象です。お父さんが学校に迎えに来ている家庭もよく見かけるので、夕方には退社している人が多いのではないでしょうか。
サトウさん:僕がいた会社は9時から18時の勤務でした。
荻野さん:仕事終わりにみんなで飲みに行く文化もあまりないんですよ。日本にいた頃は遅くまで働いて、終業後に同僚と飲みに行って、そういう生活も楽しかったんですけどね。だから、フランスに来てすぐの頃はびっくりしました。みんなサーっと帰っていくので。
—飲み会がないとなると、どういうところで会社の人たちと交流を持つんですか?
荻野さん:会社や部署で交流を持つというよりは、個人的にですね。仲のいい人同士で家族ぐるみのディナーをしたり、若い世代だけでちょっと遊んだり。
サトウさん:若い子だけで飲みに行こうよ、というのはたしかに経験があります。あとは、会社全体の集まりという意味では、朝にみんなでパンを持ち寄る朝食会がありましたね。
桜井さん:アメリカ映画ではドーナツをたくさん買って会社に来る人がいますが、フランスではそれがクロワッサンなんです(笑)。
荻野さん:会社の飲み会はオフィスでやることが多いですね。ポテトチップスや飲み物を買ってきて、会議室とかに集まって。それも30分〜1時間で切り上げるから、何時間もだらだら飲むっていうのは珍しいかも。
環境に配慮しつつも、フランスらしい美意識は忘れずに
—「パニエ」と呼ばれるカゴバッグが愛用されていたり、フリーマーケットや骨董市が盛んだったり、フランスでは古くからエシカルな取り組みが普及していたんだと本を読んで改めて感じました。最近新たに広まっている取り組みはありますか?
荻野さん:4月7日のページに書いた、ゼロウェイストのお店が続々と増えてきています。自分たちで好きな容器を持って行って、お米もパスタもワインも、なんでも量り売りで購入できるんです。食品だけでなく洗剤やシャンプーもあって。
桜井さん:あとは、キリスト教の神父さんが始めた「エマウス」という慈善団体が始めた、寄付された古着や古雑貨を安価で販売するシステムも人気です。キリスト教のソリダリテ(=連帯)の精神が根底にあるのを感じます。
—エコという面だけでなく、金銭的に余裕のない方々にとっても助けになりますね。
桜井さん:洋服に限らず雑貨や家具でもアンティークの掘り出し物が見つかることも多いので、おしゃれな人たちもみんな「エマウス」に通っています。それから、エコバッグ文化も昔から根付いていましたね。フランスでは2016年からレジ袋が有料になったのですが、その前からみんなエコバッグを持っていました。カートを持って買い物に行き、買ったものをそのままそこに入れて持ち歩いている人も多いです。日本の過剰包装の反対で、過少包装に困ることもありますよ。バゲットとか、手で持つ部分しか紙で包んでくれないので(笑)。
荻野さん:でも、サトウさんが『PARISmag』で高級パティスリーのショッパーを紹介していたように、フランスでは「商品の価値に見合った包装」をする意識があると思います。それは金額だけでなく、ものづくりの手間暇やブランドのイメージなどをふまえた上でのパッケージです。日用品はラフな包みだけど、特別なお買い物では心躍るようなかわいい包装をしてもらえる、そういうメリハリのあるところが私は好きですね。
—エコの精神は大事にしつつ、お客さんを喜ばせる心とか、美意識のようなものは忘れずにいるんですね。
サトウさん:日本ではすごく高いものを買った時にしかもらえないような袋を、ケーキ1つで貰えるっていうのがすごくうれしかったです。そういうこだわりの部分は、すごくフランス的だなと思いますね。
他人にも自分にも甘いからこそ、心に余裕を持てる
—サトウさんはコロナ禍によって1年前に帰国されたそうですが、日本での暮らしに取り入れているフランスの知恵や工夫は何かありますか?
サトウさん:桜井さんがプロフィールに書いていたように、自分にも他人にも甘いところがフランスのいいところだと僕も思っていて。今回の世界的な混乱の中、みんな同じ気持ちを持っているはずなので、自分にも他人にも優しく助け合っていきたいなと常々考えています。人と比べたり余計なことを気に病んだりせず、広い視点を持って生活できたらなと。
荻野さん:その、“自分にも他人にも甘い”っていうのはキラーフレーズですよね(笑)。フランス人は無愛想なイメージが強いというか、旅行へ行って嫌な思いをした日本人の方々も多いと思うのですが、本当はみんな人懐っこくて優しいんです。本でも挨拶の大切さについて書きましたが、コロナ禍の影響でこれまで以上にみんな声をかけ合っていて。パン屋さんのスタッフに「大変なのにいつもありがとうね」と言ったり。
桜井さん:数年前にテロがあった時も思ったのですが、普段は他人に無関心なんだけど、本当に大変なことが起こった時には連帯する力が強いなと感じます。
荻野さん:そういう一致団結のパワーはたしかに感じますね。新型コロナウイルスが流行った直後、レストランのシェフたちが無償で料理を医療従事者の方々にデリバリーしていたんです。こんな時に勝手に持って行っていいのかとか、もらったものを食べていいのかとか、日本だったら、あらゆるところに配慮してなかなか行動に移せないと思うんです。でも、フランスは思い立ったらすぐ行動へ移す力が強いですね。
—フランス人はクールだというイメージを勝手に持っていましたが、お話を聞いているとみんな人間らしくてチャーミングなんですね。
サトウさん:そうなんですよ、たまに迷惑な部分もありますけど(笑)。
—郵便物がきちんと届かないというのも聞きました。
桜井さん:ちゃんと届くと「あ、届いた」ってうれしくなります(笑)。サービスのレベルが高い日本からしたらありえない話なんでしょうけど。
荻野さん:日本から離れてみて気づくことも多いですね。久々に日本へ帰国した時、コンビニで飲み物を1本買っただけなのにすごく丁寧に対応してもらえて感動しました。フランスで「お客様は神様です」なんて言ったら、限度を知らない客が激増して収拾がつかなくなりそうです(笑)
桜井さん:そういうサービスが当たり前の場所で育ったから、フランスに住み始めた頃は適応するのが大変でしたね。
荻野さん:逆に、「こんなに適当でいいんだ」って気持ちが楽になった部分もあったかもしれません。例えば、家に誰かを招く時に完璧に準備しなくてもいいんだって思えたり。フランスで生活をすると、ある意味しあわせのハードルが下がるというか。日本だと荷物は届いて当たり前だけど、フランスでちゃんと届いたら「やったー!」という気持ちになれるんです(笑)。
365日さまざまなトピックに出会える、日めくりカレンダーのような1冊に
―最後に、この本を手に取る方へのメッセージをお願いします。
荻野さん:ふと目についた時に手にとってもらって、気になるページだけをパッと読むという楽しみ方もできるかと思います。私たちは全然思いつかなかったのですが、インスタのコメントで「最初に自分の誕生日のページを見てみました」というコメントをいくつかいただいて。そういう楽しみ方もあったのか!と。トイレ事情とかスリの話とか、ちょっとネガティブなことを書いてある日もあるので申し訳ないですが……。
—なるほど、そういう楽しみ方もできますね!
桜井さん:フランス人の考え方やライフスタイル、レシピなど本当にいろんな部分に手を伸ばしているので、これまで触れてこなかったフランスのおもしろい一面を見つけてもらえたらうれしいです。
荻野さん:「フランスはこう!」とか「パリジェンヌはこう!」とかあまり固定せず、365日全体を通して滲み出てくるフランスを感じ取ってもらえたら。その上で、フランスのこんな部分を真似してみようとか、逆にこれは日本の良さだから大切にしようとか、暮らしについてぼんやりと考えるきっかけになったら本望です。ぜひ、パラパラとページをめくりながら楽しんでみてください。
■書籍情報
『フランスの小さくて温かな暮らし365日〜大切なことに気づかせてくれる日々のヒント〜』
著者:トリコロル・パリ 荻野雅代 桜井道子
定価:1,700円(税込)
サイズ:B6変型
ページ数:368ページ(カラー)
ISBN-10 : 4426126886
ISBN-13 : 978-4426126889
発売元:自由国民社
発売日:2021年3月5日
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