数年前から話題になっている「家事ハラスメント」という言葉をご存知でしょうか。実は、妻に対する「家事労働ハラスメント」と夫に対する「家事ハラスメント」があり、それぞれはまったく別の内容なのです。

この記事では、家事ハラスメントの意味や言葉が生まれた背景を解説します。また、夫に家事のダメ出しをすることなく、上手に家事を分担して妻の負担を減らすためのコツを紹介します。

「家事ハラスメントとは」?

「家事ハラスメント」という言葉は竹信三恵子氏(和光大学教授)の造語である「家事労働ハラスメント」が元となって生まれました。もともとは、女性だけに無償の家事労働を押し付けて当然とする社会の問題を意味する言葉です。

しかし、やがて、夫の家事のやり方や成果を妻が厳しく批判する行動も「家事ハラスメント」と呼ばれるようになりました。

「家事ハラスメント」は、女性が家事をすることを前提として成り立つ社会のしくみに原因があります。一般的に、女性は子どもの頃から家事ができるように育てられることが多いでしょう。それに対し、男性は「男の子なのだから家事はできなくてもいい」という育てられ方をされてきた人も珍しくありません。結果として、成人した段階で男女の家事スキルに大きな差がついてしまっている場合が多いのです。

また、男性は長時間労働をするケースが多く、成人後に家事を習得する時間が限られているともいえます。さらに、忙しく働く男性をサポートする役割を女性が背負わされている面もあり、家事スキルの差が埋まりにくい一因になっています。

家事ハラスメントで生じる課題

この記事では主に、夫の家事に妻がダメ出しをするほうの「家事ハラスメント」について取り上げます。

前述したように、結婚した段階における夫の家事スキルは妻より劣ることが多いでしょう。家事とは、できる人にとっては簡単な作業に思えるかもしれませんが、できない人にとっては「何から手を付ければ良いかさえもわからない」ものです。掃除でも、ゴミ出しでも、たくさんの細かい知識や経験があるからこそ、スムーズかつ完璧にこなせるといえます。

わからないなりに苦労しながら家事をやってくれた夫に対して、妻が厳しい言葉を投げつけてしまうことはありませんか? 一所懸命にやったことを否定されれば、夫は家事をやる意欲をなくしてしまいかねません。結果として、夫の家事スキルがいつまでも向上せず、妻にばかり家事負担がかかりつづけるという悪循環となります。

また、批判的な会話が増えれば夫婦関係にも溝ができるかもしれません。夫婦円満のためにも、妻から夫への「家事ハラスメント」をしないように気をつけましょう。

家事ハラスメントが起こりやすい場面

洗い物なら、「汚れがきちんと落とせていないよ」「洗うだけではなくて、きちんと拭いて食器棚に収納するところまでやって」と夫にダメ出しをしたくなりませんか?

掃除の場合に出やすいダメ出しは、「きちんと部屋の隅まで掃除機をかけないとダメだよ」「掃除機をかける前に棚やテーブルを拭いてホコリを下に落としてから」等です。

夫よりも家事スキルが高い妻から見ると夫の家事のやり方がいいかげんに感じられて、イライラしてしまうこともあるでしょう。「自分はもっと、きちんと家事をしているのに」と思うため、夫にも自分と同じくらい「きちんと」させないと気が済まないのです。また、自分が母親や義母等から厳しく家事のやり方をチェックされて感じたストレスが、夫に対する八つ当たりとして出てしまうこともあるかもしれません。

一方、夫の側では「家事は本来、妻の役割だけれど、自分は家事に協力してあげる」という気持ちが、多少なりとも、あるのではないでしょうか。そこへ批判的なことを妻から言われると、「協力してあげようとしているのに感謝されるどころか文句ばかり言われるなら、もう家事をやりたくない」と感じるはずです。

ダメ出しにならない夫へのアドバイス

夫の家事に口を出したくなるケースはどうしても出てきます。そのような場合は、できるだけ否定的な言い方をせず、上手にアドバイスをするようにしましょう。この段落では、夫に家事のアドバイスをするときの具体的な言い方を紹介します。

「○○したらもっと良さそう!」

夫が家事をするやり方や結果にコメントをしたい場合は、「きちんとして」や「ダメじゃない」は禁句です。言わなければならない内容だとしても、相手のミスや成果を否定したり責めたりするニュアンスの言い方にならないように意識しましょう。

その代わり、「ベターな提案」をするようにします。たとえば、「〇〇したら、もっとおいしくなると思うよ」や「〇〇したら、もっときれいになるのではないかな」といった言い方です。内心は不満かもしれませんが、そこは少し抑えて、まずは現状を評価してあげてください。その上で、さらに良い結果を出すためのハウツーをさりげなく伝えるほうが夫も素直に耳を傾けやすくなります。

「ありがとう!」

多くの男性にとって、家事はハードルが高い苦手な作業です。それを、妻のために努力してやってくれた夫に対しては、結果がどうであれ、まずは感謝の言葉を贈りましょう。やり方が間違っていたり不器用であったりして満足できる結果になっていないとしても、まずは褒めたり感謝したりすることが大切といえます。

人は、肯定してもらった後のアドバイスのほうが受け入れやすいものです。ですから、先に感謝を伝えてから、「次は〇〇してくれたら、もっとうれしいな」といった、建設的なアドバイスをするようにしましょう。

夫が家事をしてくれる動機を考えれば、このような言い方が好ましい理由もわかります。夫は「妻に喜んでほしい」「妻の負担を減らしてあげたい」という気持ちから家事をしてくれることが多いでしょう。その気持ちを満たしてあげれば夫も「家事をして良かった」と感じ、家事スキルを上げようとしてくれるのではないでしょうか。

「一緒にやってみよう!」

夫が家事を引き受けてくれてから実際に始めようしたときに、やり方がわからなくて戸惑っていることもあるかもしれません。そのようなとき、その家事を日常業務としてやっている妻はいら立ちを感じてしまうこともあるでしょう。つい、「どうして、こんな簡単なこともできないの?」等と、なじるような言い方をしてしまいがちです。

しかし、家事スキルが低い夫を非難しても良い結果にはなりません。責める代わりに、「一緒にやってみようか」等と、歩み寄る姿勢で言葉をかけるほうが夫婦円満に繋がります。夫が苦手な家事なら、お手本として実際にやって見せてあげましょう。「家事のやり方を教えるくらいなら自分でやってしまったほうが早く終わる」と思うかもしれません。しかし、夫が家事を覚えるまでの練習期間と考えて、粘り強く教えてあげてください。