妊娠を希望されている女性の中には、加齢が妊娠の可能性にどのような影響を及ぼすか気になるという方も多いのではないでしょうか。加齢に伴い変化していく卵子の「数」や「質」について、日本産科婦人科学会専門医の山中智哉さんが解説します。
前回のお話で、「『妊娠率』は『その人が妊娠する確率』と同じではない」ということをご説明しました。とはいえ、加齢とともに、統計的に妊娠率(同年齢の女性の方が妊娠する割合)が低下していくということは、個人の妊娠する確率が低下していくともいえます。
今回は、加齢という要素が妊娠の可能性に対してどのように作用するのかについてご説明したいと思います。
■加齢に伴い、卵子の数は減少していく
卵巣内の卵子は、その女性が胎児のときにもっとも多く、500万個前後と推定されています。そこから徐々に減っていき、生まれるときには200~300万個、月経が始まる思春期の頃には20~30万個となり、その後は月経周期や時間経過とともに減少していき、ほとんどの女性が50歳前後で閉経をむかえます。
したがって、年齢が高くなればなるほど、妊娠に対して有効な卵子が少なくなっていくことになります。
抗ミュラー管ホルモン(以下AMH)は、卵巣内に残されている卵子の数を反映するホルモンとして、多くの不妊治療クリニックで検査されています。実際の卵巣内の卵子数は測定することはできないので、AMHの値が卵巣の予備能力(その時点からどの程度の期間、卵巣機能が保たれるか)として扱われており、AMHは年齢とともに低下していくことが示されています。
閉経の時期が50歳前後として、45歳で閉経する女性と55歳で閉経する女性には10年の差があります。同じ40歳のときに比較したとすると、閉経まで残り5年なのか、15年なのかというのは、大きな差と感じられるのではないでしょうか。AMHの値も、全体としては年齢とともに下がっていくと書きましたが、同年齢の女性の中でも、個人によるばらつきはあります。したがって、前回お話ししたように、妊孕性(妊娠する可能性)について、加齢の個人差に着目するのは卵子の数においても重要なこととなります。
また、卵子の数は加齢の影響だけでなく、生まれつきの要素、喫煙などの外的な要因、子宮内膜症などの疾患などの影響を受けることもあります。
■加齢と卵子の質の変化について
加齢に伴い妊娠率(妊娠する割合および妊娠する確率)は低下していきます。また、流産率が上昇するとともに、生産率は低下することが示されています。そこには、上記の卵子の数とともに、卵子の質の変化が関係しています。
卵子の質という言葉が意味することのひとつに、染色体の状態があげられます。卵子あるいは受精卵が分裂する過程において、染色体の分裂の異常が加齢とともに上昇することが分かっており、それによって、染色体異常の可能性やそれに伴う流産率等の上昇が引き起こされるのです。
また、卵子の質の低下の要因には、細胞が持つエネルギーの減少も指摘されています。細胞内のエネルギーの貯蔵庫であるミトコンドリアの機能が低下することが原因ですが、これは卵子に限らず、体細胞においても同様に変化が認められます。肉類などに含まれるカルニチンがミトコンドリア機能の改善につながることが分かっているため、食生活は卵子の質や健康を保つためにも大切であるといえます。
以上のように、加齢による体の変化は誰にでも起こることですが、妊娠という視点からはより重要な要素となります。また、繰り返しになりますが、臨床の現場で多くの患者さんを診ている中では、個人の差というものを大きく感じています。
不妊治療において、体外受精という選択もありますが、加齢が不妊の原因のひとつになっているとしたら、そこも同時に改善していくようにしなければ、よい結果を得ることはできないと私は考えています。
引き続き、次回は加齢に対する治療などについてお話ししたいと思います。
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