歴史エッセイスト・堀江宏樹氏が今期の大河ドラマ『べらぼう』(NHK)を歴史的に解説します。

『べらぼう』吉原の名店に売られてきた少女

 3月30日放送の『べらぼう』、「お江戸揺るがす座頭金」の回には、吉原の名店・松葉屋の店先に困窮した武家の少女が売られてきているシーンがありました。

 彼女はこの後、すぐに店の看板遊女――花魁(おいらん)のアシスタント役・振袖新造(ふりそでしんぞう)と呼ばれる役職を与えられ、さっそく稼働しはじめると思われます。

 松葉屋のような吉原の名店ともなれば、6~7歳くらいのときに親元から直接、あるいは女衒(ぜげん)と呼ばれるスカウトマンに田舎から連れられてきた少女が店に買われて入店するのが通常コース。

 未来のスター遊女・花魁を目指し、10年くらいの研修期間を経て、ようやく振袖新造として働き始めることができるのですね。

身売りされる少女の売価はわずか数十万円

 ドラマの時代よりも40年ほど後の文化・文政時代に成立した『世事見聞録』という史料によると、幼くして吉原に身売りされる少女の大半は越中(現在の富山県)・越後(新潟県)、そして出羽(山形・秋田)の生まれだったといいます。

 つまり農村地帯の出身が大半なのですが、ドラマの舞台である18世紀後半~19世紀前半は世界的に天候不順で、凶作・飢饉が非常に多く、困窮した農家が娘を手放さざるをえないという悲しい状況がありました。

 しかし娘を吉原に行かせれば、最低の衣食住は保証されたのですね。すくなくとも手元でわが子を飢え死にさせる可能性はなくなるわけでした。しかしそういう親心に付け込むのが吉原の怖いところで、少女の売価は3両~5両程度。江戸後期の1両は7万円くらいですから、わずか数十万円……。

 ちなみに貧農の娘でも美しく、年頃とされた二十歳前の女性であれば、売価は5両~7両と多少は高めに買ってもらえたそうです。しかし名店の遊女ともなれば、1日~2日の労働だけで賄える額なのでバカらしくなってもおかしくありません。それでもすぐに借金返済をして故郷に帰ることができないのが、吉原のさらに怖いところでした。

江戸時代の吉原における花魁の価値観は?