大ぶりのフラワーベースをおうち時間のお供にしてみたら、季節のうつろいがテーブルの上で分かるようになった……。イラストレーターとして活躍するヤベミユキさんが今回綴ってくれるのは、そんなちょっとした“贅沢”にまつわる体験です。

 

■持ちがいい枝ものは、面倒くさがりな私でも楽しめる

季節の枝ものや花を買ってきて、フラワーベースにざっと入れる。すると、それだけで鉢植えの植物のような存在感が出る。

クリスマスの時期にはヒバにオーナメントをつけてホリデーシーズンを楽しめたし、年明けに飾ったアオモジと白百合の蕾は、新年らしい凛としたムードを放ってくれた。

枝ものは比較的寿命の短い花と違い、一度生ければ2週間ぐらい持つ。これが、面倒くさがりで飽きっぽい私にはちょうどいい。

朝、子どもがまだ寝ているベッドを抜け出すと、念願のひとり時間が待っている。深煎のコーヒーをいれて、静かにグリーンを眺める。不規則に伸びる枝のしなやかな造形美は、まるで物事の本質を表しているようで、はっとする。

コロナの流行で世界が変わり、豊かな暮らしを求めてひとり意気込んでは、ネットショッピングで散財ばかりしていた昨年。ひとり反省会とともに迎えた今年は、今一度、基本に立ち返ることを楽しみながら、穏やかに過ごしたい。

 

■自分の「基本」を見つめ直している間に、春はやってくる

そう、たとえば、昔から好きだったファッション誌を片端から引っ張り出してみる。高校生の頃大人ぶって購読していた、25年前のSPURのスクラップ。そこには今見ても美しいと感じる、凛としたしなやかな女性が並ぶ。「好き」に対する自分の感覚が、当時とあまりにも変わっていないことに驚く。

それから、スキンケアに投資するときに、触り心地や香りにとことんこだわってみるのもいい。本能的に好きな香りはノスタルジーを呼び覚ましてくれるので、自分の根本を探るヒントになる。

私のお気に入りの柔軟剤は、幼い日に母がお尻にはたいてくれたベビーパウダーの香りに似ているし、レッスンのあとに必ず入るバレエ教室の奥の化粧室からは、ほんのりカビ臭かった祖母の家を思い出す。

祖母の家の屋根裏で、古い図鑑を読み漁りながら空想するのが何よりも好きだった幼い自分。あの頃のように没頭できるものはなんだろう?

……そんなことを考えていると、透き通るような甘い香りがふわりと漂ってきた。振り返ると、フラワーベースに生けた白く大きな百合がひとつ、花開いていた。その中から覗くオレンジともブラウンとも言いがたい色は生命力にあふれ、まるで冬眠からの目覚めのようだ。

花々が春の気配を感じてひとりでに目を覚ますように、取り巻く世界が大きく変わったときは、無理に動かなくてもいいのかもしれない、なんて思う。

ゆっくりと流れに身を任せて冬ごもりを楽しんでいる間に、確実に時は流れている。ただじっとしているだけでも、春はやってくるのだ。そう、それはきっと思いのほか早く!

春の訪れのことを考えていたら、いつの間にか気分が浮き浮きとしていた。草花のエネルギーを感じるような色とりどりのアイカラーがほしい! すみれ色のチークも買わなければ!
大波のように押し寄せてきた物欲に心が震えたが、自粛期間を経て少しだけ大人になった私は、それらをひとまずお気に入りリストに入れた。

 

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