◆深い海の底にひとりいるような孤独を見せる海

帰っても誰もいない部屋にただいまを言っても水季の気配もない。これまで、肉体はもうなくても水季を感じていた海が、夏の部屋では水季を感じることが難しい。ベッドマットに触れ、ここにいた?と面影を探しても、このベッドに長く寝ていたのは弥生だと思うとやるせない。
ドラマではそこは触れていないが、この部屋には弥生の痕跡ばかりが濃厚だろうなと思う。海は弥生が好きだからいやではないだろうし、逆に、弥生をここから追い出してしまったのではないかという気持ちによけいになるのではないだろうか。余計なお世話だが、思い切って、新居に引っ越すべきだったのではないか。せめてマットは新しく買ったのだろうか。そんなことが気になってならない。
◆抱きしめた感触を得ることだけはできない

水季の実態がない代わりに海はブルーのイルカをぎゅっと抱きしめる。朱音は水季が落書きした鍋をぎゅっと抱きしめる。肉体が消えても、思い出は残るものだし、その人の存在をいつでも思うことができるけれど、抱きしめた感触を得ることだけはできない。だから、代わりのものを抱きしめるしかない。