「モノ」を円滑に移動させる「物流」は経済に不可欠の存在で、「産業の血液」とも呼ばれます。今回は、物流大手2社「ヤマト運輸」と「佐川急便」の業績を比較してみましょう。

ヤマトと佐川 業績比較

まずはヤマト運輸と佐川急便の業績を比較しましょう。双方グループ全体の「売上高」と「取扱数量」を、直近の本決算「2020年3月期」で比較します。

高シェアはヤマト ヤマト売上:1.6兆円 佐川:1.2兆円

決算を比較すると、シェアが高いのはヤマト運輸だとわかります。売上高、取扱数量ともにヤマト運輸の方が大きくなりました。

売上高
(2019.4~2020.3)
取扱数量
(2019.4~2020.3)
ヤマトホールディングス
(ヤマト運輸)
約1兆6,301億円 約17億9,900万個
(宅急便)
SGホールディングス
(佐川急便)
約1兆1,735億円 約12億5,700万個
(飛脚宅配便)

利益率は佐川 ヤマト営業利益:447億円 佐川:754億円

利益面では佐川急便の方が大きくなりました。本業の利益を示す「営業利益」、本業以外の利益も含めた「経常利益」の両方で、佐川急便の方がクロネコヤマトより大きい数値となりました。

営業利益
(2019.4~2020.3)
経常利益
(2019.4~2020.3)
ヤマトホールディングス
(ヤマト運輸)
約447億円 約406億円
SGホールディングス
(佐川急便)
約754億円 約805億円

ヤマト運輸は構造改革中で、人件費などの上昇から約136億円の減益となっています(2019年3月期は約583億円の営業利益)。ただし、減益分を差し引いても佐川急便の営業利益に追いつきません。

効率的に利益を稼いでいるのは佐川急便だといえるでしょう。

コロナは物流にプラス ヤマトも佐川、どちらも好調

2020年は新型コロナウイルス感染拡大のため、さまざまな企業に影響が及んだ年です。両社の業績がどうなっているか確認してみましょう。

今期(2021年3月期。2020.4~2021.3)の本決算は未発表なので、中間決算(2020.4~2020.9)で比較します。

今期は両社増収増益 「新しい生活様式」で物流ニーズ高い

両社の中間決算を確認すると、どちらも増収増益となっています。特に営業利益は両社とも順調に上昇しており、ヤマト運輸は前年同月比の4.3倍以上になりました。

売上高
(2020.4~2020.9)
営業利益
(2020.4~2020.9)
ヤマトホールディングス
(ヤマト運輸)
約8,061億円
(前年同月比:+0.7%)
約269億円
(前年同月比:+333.2%)
SGホールディングス
(佐川急便)
約6,348億円
(前年同月比:+8.0%)
約525億円
(前年同月比:+41.1%)

新型コロナウイルスに対応する「新しい生活様式」の影響で物流の需要が増加。両社とも業績にプラスの影響となったようです。

経産省進める「EC化」 物流は不可欠

ヤマト運輸と佐川急便が好調な理由は、新型コロナウイルスだけではありません。政府が推し進める「EC化」が業績を後押ししています。

経済産業省は、インターネット利用人口の増加などを背景に、日本のEC化を推し進める立場です。

ECとは「イー・コマース(電子商取引)」のことで、端的にいえば「インターネット上の個人消費(買い物やサービスの利用)」を指します。

経済産業省によると、ECの市場規模は2010年時点で7兆7,880億円でしたが、2019年時点では19兆3,609億円まで拡大しました。9年で約2.49倍であり、1年あたり10.67%もの成長を果たしています。

2010年 2019年 成長率
EC市場規模 7兆7,880億円 19兆3,609億円 +148.6%
(約2.49倍)

ECでは商品を購入者まで運ぶ物流サービスが不可欠です。拡大するEC化が物流大手の両社を成長させたと考えられます。

日本のEC化率は諸外国と比較するとまだ低い水準です。今後EC化が諸外国並みに進む場合、ヤマト運輸と佐川急便の業績はさらに成長するかもしれません。