20年にわたり、自分の家族にカメラを向け続けたドキュメンタリー作品。
優しくて絵が上手くて、周囲から天使のようと褒められるほど素晴らしい才能に溢れた8歳違いの姉は、研究者である両親の影響から医師を志し4浪の末、医学部に進学します。
しかし彼女が医学部2年生のとき、何の前触れもなく夜中に叫び出し、統合失調症と思われる症状が出始めます。
その壮絶な録音音声や残された映像を見る限りは、専門家の診療が必ずや必要であろうと多くの人が思いそうな様子ですが、父と母はそれを認めることなく、適切な受診から姉を遠ざけます。
物事は進むことなく年月だけが過ぎ、家のドアには南京錠がかけられ、両親は姉を閉じ込めるようにまでなってしまいます。
◆ある会話から「ごく近所で起きていたかも」と感じさせられた
本作品は、私が生活する札幌の、ある家族の話。
「天気がいいし、定山渓や支笏湖に行く?」という会話の一つ一つが私にとってはとても身近なもので、もしかしたらこの出来事はごく近所で起きていたかもしれないとすら感じさせました。
監督はイベント事を記録すると言う建前で家族の姿を撮り始めますが、年々姉は悪化していきます。弟である藤野監督は勇気を出し父や母と正面から向き合おうとしますが、優しく言っても、強く出ても、ずっと目を背け続けるご両親。
大変申し訳ないですが、その姿には怒りすら覚えてしまった私でした。
お姉さんが発症し始めた当時は、まだまだ統合失調症に関して適切に治療をすればだいぶ快方に向かうという認識が、まだまだ広まっていない時代性があったのかもしれません。
また両親とも研究者といういわゆる「インテリ一家」ならではのプライドなど複数の要素が重なってしまったことがこのような出来事につながったと推察します。
今ですら、「女の子」が医学部に進学することは物凄いこと。ご両親にとって「医学部の娘」はどれだけ誇らしい存在だったでしょう。その娘が人目もはばからず、とんでもない言葉を叫んだり動き回ったりしていると言う現実、どうしても受け入れがたかったのでしょうが……。