厚生労働省は今回の改正案の意義として、基礎年金の調整を早期に終わらせ、かつ、基礎年金と厚生年金の調整終了時期を一致させ、本来の「賃金や物価に連動した年金額」を実現することと、将来の基礎年金の給付水準を向上させることなどを挙げています。
改正するとどうなる?
厚生労働省はシミュレーションの前提条件を2パターン設定しています(経済状況が横ばいの「過去30年投影ケース」と楽観的な「成長型経済移行・継続ケース」)。このうち「過去30年投影ケース」のシミュレーション結果は次のとおりです。
●基礎年金、厚生年金ともにマクロ経済スライドによる調整は2036年度に終了する。
●夫が会社員で妻が専業主婦だった世帯は2040年度まで、会社員だった単身世帯は2043年度まで、年金額の水準(所得代替率)は現行制度よりも低くなる。
●会社員+専業主婦世帯は2041年度以降、会社員単身世帯は2044年度以降、年金額の水準(所得代替率)は現行制度よりも高い水準で下げ止まる。
会社員にとって「損」なの?
今回の改正案を実現させるために想定される財源は2つあります。「厚生年金の積立金を基礎年金により多く配分することにしよう」という年金制度の中での仕組みの変更と、「基礎年金の給付増額に伴い、国庫負担を増やしてもらおう」という国の予算の確保です(基礎年金給付の半分は国が負担しています)。
会社員や事業主(会社など)が支払っている厚生年金保険料はそのまま年金受給世代への給付に充てられており、今回の財源として想定されている積立金とは関係ありません。現在の厚生年金の積立金は、過去の被保険者の保険料の残余が積み立てられ、運用によって増えてきたものです。
厚生年金保険料には国民年金保険料分(基礎年金の分)も含まれており、厚生年金の保険料や積立金は、もともと厚生年金だけでなく基礎年金の給付にも充てられています。現在の会社員も将来、今回の改正案によって底上げされた基礎年金を受け取れるわけですから、「今回の改正案は会社員にとって損」とは言えません。
むしろ「過去30年投影ケース」のシミュレーション結果によれば、「2040年度以降に年金を受け取る人は、現役時代の働き方(自営業か会社員かなど)にかかわらず、大半の国民が恩恵を受ける」と言えそうです。逆の視点では、「2040年度までに亡くなる年金受給者は、損する人が多い」と言えるかもしれません。「若い世代ほどお得」と言えるでしょう。