また対照的に“ザワザワ”パートを、岡山天音、尾野真千子、向井理、桜井ユキらによる確かな演技で表現している点も秀逸でした。病気や障害のある兄弟姉妹がいる「きょうだい児」、そして「ヤングケアラー」「虐待・DV」などの社会問題に切り込みながらも、登場人物たち一人ひとりの葛藤や心情を丁寧に描いた、まさに“心震えるヒューマンサスペンス”でした。

◆3位:光る君へ

とりわけ周囲の女性たちから「大河にハマってる!」「初めて全話完走した!」という声が多かった、今年の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合ほか)。史料があまり残されていない平安時代を舞台に、本名すら定かではない紫式部“まひろ”の人生を描きました。

『光る君へ 前編』
『光る君へ 前編 (NHK大河ドラマ・ガイド)』(NHK出版)
雅な平安の世界で繰り広げられる、政(まつりごと)と、ドロ沼の人間関係。大河ドラマファンが好きな合戦シーンはほぼありませんでしたが、平安でも令和でも変わることのない人間の激しい業のぶつかり合いは見応えがありました。最後の最後まで、まひろを取り巻く各人たちとの関係性にハラハラさせられた、今までにない大河ドラマだったと思います。

同じく大石静氏脚本で、切なくも激しい人間ドラマを描いたドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系)のファンだった筆者としては、またも吉高と柄本の関係性を、じらされながら固唾をのんで見守った1年間でもありました。

◆2位:アンメット ある脳外科医の日記

今年最も心に沁みた作品は『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)。事故によって記憶障害の重い後遺症を持つ脳外科医の主人公・川内ミヤビ(杉咲花)が、同じく脳外科医の三瓶友治(若葉竜也)をはじめとする仲間たちとともに患者を全力で救いながら、自分自身も再生していく物語でした。

アンメット ある脳外科医の日記
画像:関西テレビ放送 カンテレ『アンメット ある脳外科医の日記』公式サイトより
ミヤビの記憶障害は、過去2年間の記憶が抜け落ちた上で、今日のことを明日にはすべて忘れてしまう、というもの。誰と、どんな風に過ごしたのか、毎日リセットされるという状態は想像を絶します。そんな主人公の心情を杉咲花が、寄り添う人間の心情を若葉竜也が、見事に表現していました。記憶はなくとも、積み重ねてきた努力や関係、心は失われないことを全話通して丁寧に描写。人は誰もが完璧ではないからこそ、人と人が支え合う。その尊さを登場人物たちの日常を描くことで伝えてくれた、医療ドラマの枠を超えた傑作でした。