もちろん田中圭がいい俳優であることは周知の事実ですが、本作では特に、目まぐるしい感情の振れ幅をひとりの役で表現する力が圧倒的。第1話はすんごいダメなモラハラ夫(筆者個人的には、好きな田中圭)で、妻の妊娠を知った2話でも「父親の役目はできない」と言い放ち育児しない宣言をしたのに、同話のラストでは娘・栞の誕生に感動して号泣。DNA鑑定で栞が自分の子ではないと分かれば、茫然自失で海に入るし。

結局、残念な夫だったのは第1話だけ。実に解像度の高いサレ夫を見せてくれました。このドラマでは宏樹以外のみんながあまりに自由だし、勝手だし……決して清廉潔白ではないけれど、個人的には「もはや田中圭にしか感情移入できない状態」でした。

◆安達祐実/『3000万』

そして今クール一番の熱演で視聴者を魅了したのは、NHK土曜ドラマ『3000万』の主人公を演じた安達祐実ではないでしょうか。1994年、1995年のドラマ『家なき子』(日本テレビ系)の「同情するなら金をくれ!」から30年、今度は3000万円をめぐるクライムサスペンスで、“ごく普通の主婦”を演じました。

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家のローンや子どもの教育費でお金の心配が尽きない、安達祐実演じる妻・祐子と、夫の義光(青木崇高)が、交通事故の相手がもっていた3000万円をネコババしたことから物語は幕を開けます。

普通の夫婦が、目の前の大金に翻弄されて泥沼に引きずり込まれていく様子には最初から最後までハラハラさせられ、見応えのある作品でした。追い込まれていく恐怖や興奮、怒りや焦りなど感情の乱高下が著しかった主人公を、凄まじいリアリティで演じ切った安達。鬼気迫る彼女の表情が、人間の欲を何よりも象徴していました。

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この秋クールのドラマが良作ばかりだったのは、俳優陣の演技があってこそ! 最終回まで、楽しませてくれそうです。