とろりと溶けるフォンダンショコラに、甘酸っぱいタルトタタン、サクサクパイにクリームたっぷりのサントノレ。
甘く、美しいスイーツは、食べるとおなかが満たされるだけでなく、心にあたたかいものをくれるような気がします。
そんなスイーツがくれる不思議な力を描いた映画『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜』が日本で公開されます。
困難な幼少期を過ごした主人公ヤジッドは、スイーツにより心を満たされ、やがて最高のパティシエになる夢を見るように。そして、自由な発想とスイーツへの真摯な姿勢により、夢を叶えていくという物語です。
映画の公開を記念し、主人公のモデルとなったフランスの天才パティシエ、ヤジッド・イシェムラエン氏と日本を代表するパティシエの辻口博啓氏(※辻は一点しんにょう)の対談が実現。
「スイーツは笑顔にする」。
そう語るお2人が考えるスイーツが持つ力についてお話しいただきました。
ヤジッド・イシェムラエン
1991年フランスのエペルネ生まれ。パティシエであり実業家としても活躍。
モロッコ生まれの両親をもつが2歳半で里親に預けられる。里親の息子がパティシエだったことで、お菓子作りに目覚める。8歳で里親のもとを離れ、養護施設で暮らす。
14歳でパティシエとしての見習いを始め、17 歳でパリにあるパスカル・カフェ (世界菓子チャンピオン) で働き始める。
2014 年、22歳の時、フランスチームのリーダーとして参加したGelato World Cup(冷菓世界選手権)で世界チャンピオンとなる。現在、アヴィニョンに自身の店舗を構えているほか、ギリシャ、スイス、カタールなどに店舗をオープンし実業家としても活躍している。
ルイ・ヴィトン、バルマンなどのハイブランドとのコラボレーションなどでも話題に。
辻口博啓
クープ・デュ・モンドなどの洋菓子の世界大会に日本代表として出
サロン・デュ・ショコラ・パリで発表されるClub des Croqueurs de Chocolat(クラブ デ クロクール ド ショコラ=ショコラ愛好家の会)によるショコラ品評会では、
2015年にはNHK朝の連続テレビ小説「まれ」の製菓指導を務
日仏パティシエが語るお菓子の力
―ヤジッドさんの半生を描いた映画ですが、ご覧いただいた感想を教えてください。
ヤジッド:いろんな複雑な感情が込み上げてきましたね。今回の作品は僕の人生をリアルに描いていますから、再現フィルムを見ているような気がしました。
ノスタルジックな気分にもなりましたし、思い出して悲しくもなり、ハッピーなシーンでは幸せな気持ちにもなりました。
―辻口さんはご覧になっていかがでしたか?
辻口:僕も18歳のときに実家が倒産してしまって、どうやって生きていくかわからないような状況の中で、コンクールで優勝することでここまで来ることができました。
日本で何回優勝しても人生は変わらなかったけど、お菓子の世界大会「クープ・デュ・モンド」に出て、個人優勝したことで人生が変わっていった。
そういった意味ではヤジッドさんの人生と重なる部分があり、こみあげるものがありましたね。
ヤジッド:うれしいですね。この作品はそのために作ったんです。国境を越えていろんな国で、いろんな人が、僕の人生に通じると共通項を見出してくれたら、それはとてもうれしいことです。
辻口:すごくいい映画でした。ヤジッドさんのご活躍も改めて知ることができました。
今の時代は、SNSやWEBで自分のメディアを作り、発信できる時代だから、さまざまなビジネスにも展開していけそうでおもしろそうですね。
日本でなにかやるときはぜひ一緒にやりましょう!
ヤジッド:ぜひ、お願いします!世界のいろいろな国にお店を出したいという気持ちはあるけれど、僕自身のお菓子をその土地に合わせていきたいという気持ちがあります。
カタールやフランス、スイスにお店を出してきましたが、その土地の人たちがどういうものを美味しいと感じるかリサーチして、それぞれ異なるクリエイティブとして提案している。
だから、日本でやるときもきちんと日本の国の文化や食材を謙虚に理解した上で、日本の皆さんが気に入ってもらえるようなものを提供したいなと思っています。だから、日本にお店を出すのはもう少し先かな。
さっき日本のスイーツを食べてきたけど、「日本の人はこういう味やテクスチャーが好きなんだ」「砂糖の分量はこれくらいが好みなんだ」と勉強になりました。
日本のチョコレートは砂糖が少ないんだなと驚きましたね。寸分の狂いのない几帳面なビジュアルも美しかったです。
日本は僕にとっては未知のもので溢れているけど、お菓子を作ることでそういう新しい文化を知ることもできる。いろんな国を巡って謙虚にその土地のことを吸収したいなって思っています。
お菓子はコミュニケーション
―辻口さんから見て日本のスイーツの特徴はどんなところにあるのでしょうか?
辻口:フレンチは足し算の料理と言われているけど、日本のガストロノミーは引き算の料理が中心です。引き算をうまくやりながら本質に迫っていくような味わいが日本人はすごく好き。
また、日本人は非常に自分たちの土地に対してのリスペクトがすごくあるので、地域の特徴があるようなものやその土地でしか取れない食材で作られるお菓子というのも人気ですよね。
―フランスではスイーツはどんな存在なのでしょうか?
ヤジッド:フランス人にとっては、とっても重要なポジションを占めています。フランス文化では日曜日に家族でお菓子を食べる習慣もあります。
パリでは特に「あそこのパティシエが新しいお菓子を出したんだよ」というのが話題になることも多いです。パリに限って言えば、パティシエは常に注目されていますね。
―今日は辻口さんが手がける「モン・サン・クレール」のスペシャリテ「セラヴィ」をご用意しました。ぜひ、ヤジッドさんも召し上がっていただければと思います!
辻口:世界大会の日本代表に選ばれた時に作ったケーキで、「人生を変える」という気持ちを込めて「セラヴィ(C’est la vie=それが人生)」と名づけました。
ヤジッド:周りはホワイトチョコなんですね。中にはチョコレートとフランボワーズ?なめらかでおいしいね。好きです!
―お2人にお聞きしたいのですが、スイーツを作るときのインスピレーションはどこから来るのでしょうか?
ヤジッド:アートや洋服、カルチャーのトレンドの最先端はいつもキャッチするようにしています。
トレンドの最先端をキャッチするのも女性が多いですから、女性がなにを食べているかとか、なにに注目しているかをチェックして、それをお菓子に落とし込むことをしています。
辻口:僕の場合は素材ですね。いろんな国に行くとスパイスやフルーツなど今まで知らなかった素材に出合うことができ、インスピレーションにつながります。
ペルーにカカオ農園を持っているのですが、農園で出合った発酵の技術や周辺に育つ植物、現地の食べ方など畑に行くことで知れる世界はたくさんあるのでおもしろいですね。
造形に関しても自然のものからインスピレーションをもらうことはよくありますね。
―辻口さんは、元日におきた能登地震の被災地にお菓子を届けるボランティアをされているとお聞きしました。ケーキは生活必需品ではないかもしれませんが、ケーキを食べることでうれしい気持ちになれたり、満たされたりするものがあると思います。ケーキの持つ力はどんなものだと思いますか?
辻口:僕自身が石川県の七尾出身ということもあり、能登の地震で被災した人に何かできないかと思い、炊き出しさせてもらっています。
手作りのロールケーキ、ショートケーキ、シュークリームが食べたくなる時期かなと思って、そういったものを届けています。現地の学生と一緒にお菓子を作ったり、全国の学生が作ってくれた焼き菓子を届けることもしました。
大変な状況のみなさんもお菓子を届けるとパッと明るい笑顔になるんですよね。お菓子には人々を笑顔にする力があることを改めて実感しました。
ヤジッド:お菓子はそれがいいところですよね。みんなにとってうれしい瞬間、慰められるような瞬間にお菓子というものが重要な役割をしてくれる。
ハイレベルなお菓子だけでなく、シンプルな手作りなお菓子でも食べた人の気持ちを変えてくれる大きな力をもっている。
辻口:僕もそう思います。お菓子はコミュニケーションですよね。
ヤジッド:そう。音楽みたいなもの。言葉が通じなくても食べれば笑顔になれるからね。
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映画は3月29日に全国公開!ぜひ、スイーツが持つ力、夢を後押しする力を劇場でお楽しみください。ヤジッドさんが監修したアートのように美しいケーキのビジュアルも注目です。
映画情報
『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜』
監督:セバスチャン・テュラール
脚本:セドリック・イド
出演:リアド・ベライシュ、ルブナ・アビダル、クリスティーヌ・シティ、パトリック・ダスマサオ、フェニックス・ブロサール、リカ・ミナモト
2023年/フランス/フランス語/110分/5.1ch/カラー/
配給:ハーク、配給協力:FLICKK 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、日本スイーツ協会
(C)DACP-Kiss Films-Atelier de Production-France 2 Cinéma
公式H P:hark3.com/parisbrest SNS:@parisbrest_
3/29(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー