こういうやさぐれた感じの松下洸平もいいなぁ。(全出演作を見ているわけでないが)近年、松下が演じるキャラクターはしっとりやわらかな天然素材系が多くなった。ここにきてちょっとしたキャラの路線変更は新鮮である。
天然素材系キャラは、川口春奈との共演作『9ボーダー』(TBS、2024年)で集大成だったというか、ひとつの区切りになったんじゃないかな。さらにいうと、金子ありさの脚本が、松下からシルキーな上質素材だけを見事に刈り取ってみせたのではないか。
◆ストーリーとは別次元で物語る意志
そうして彼はすっきりした状態で、単独初主演作に挑むことができたと考えることができる。挑むといっても、冒頭の橋を渡る場面で明らかなように、完全に脱力している。松下洸平はただ歩くだけで、物語がただちに動きだす。
『9ボーダー』でもギターを背負ってなぞめいた雰囲気を醸す松下が、どこからか歩いてくるだけで、その足跡の分だけ物語が生まれた。同作で松下が演じたコウタロウの歩調が、物語自体のストーリーとは別次元で、物語る意志みたいなものを感じさせた。
その意志によって、ただ歩くという動作を反復させ、次の作品へ、うまくシームレスにつなげているところがある。松下洸平は作品間を軽々と超える。ぼくら視聴者も松下の過去作を振り返っては、その足跡がどんどん一本線で続く松下洸平その人の物語を、その都度加筆することになる。
◆松下洸平の“愛の物語”
毎年時間をかけて出演作を重ねる。作品間で連綿とつむがれる松下洸平物語をぼくらはリアルタイムで体験してきた。そして今、単独初主演作が新たな物語を語り始めている。今さら過去作を振り返ってみて気づく。あぁ、意外と単独初主演だったんだなと。
まるでひとつの長編作品のように結ばれる松下の作品歴からは、出演作品だけでなく、歌い手としてのソロ楽曲にも物語性を感じずにはいられない。2021年にリリースしたミニアルバム『あなた』のリード曲「あなた」のサビに傾聴してみる。