いま坂本龍一氏の曲をめぐって、騒動が巻き起こっています。
◆天皇陛下のBGMに『ラストエンペラー』/K-POPが『戦メリ』借用で炎上
パリ五輪スケートボード男子ストリートで金メダルを取った堀米雄斗選手が、天皇皇后両陛下主催、秋の園遊会に招かれたときの様子を、映画『ラストエンペラー』の曲とともに自身のインスタグラムに投稿。これが“選曲ミスだ”との批判を招き、投稿を削除する事態になったのです。
中国の歴史上最後の皇帝となった人物にまつわる映画の音楽を選んでしまったことに、“あまりにもダメすぎる”とか“常識がない”と呆れる声が続出しました。
もう一つは、韓国の6人組ガールズグループ「IVE」の新曲『Supernova Love』に関する炎上。『戦場のメリークリスマス』のメロディが借用されたことに、“坂本氏の意図を無視してただのラブソングになっている”とか“教授が生きてたら許可してない”と、こちらも怒っている人が多い様子なのです。
それぞれ異なる問題ですが、筆者の考えでは、堀米選手はNG、IVEは条件付きでOK、です。
◆想像力を働かせてほしかったが、不幸だった堀米選手
まず堀米選手については、音楽の置かれた文脈を理解することの重要性の問題です。
擁護するコメントにもあったように、決して悪気はなかったのだと思います。厳(おごそ)かな気持ちで、謹んで招待を受けたという思いを伝えたい一心で検索していたら、ちょうど“エンペラー”という単語がタイトルについた、荘厳な曲が見つかってしまっただけなのではないか。ある意味では、不幸だったのだと思います。
それでも、たとえ映画は見たことがなかったとしても、一般常識として『ラストエンペラー』がどんな映画なのかぐらいは知っておいたほうがいいし、知らないにしても“ラスト”が付いているのは何故か考える、ぐらいの想像力を働かせてほしかったと思います。
◆『戦メリ』とアレンジ曲の雰囲気とマッチしているのか?
次に、IVEを条件付きでOKとした理由を説明しましょう。これは主に音楽的な問題です。
まず、プロデューサーのデヴィット・ゲッタや、ソングライターチームが戦メリをサンプリングしたいと考え、そのような決断をくだすこと自体はOK。
しかし、そうした結果、曲がどのように聞こえるかについては、意見が分かれるところだろう、と思います。
映画『戦場のメリークリスマス』が描いた戦時下における人間の心の動きと、この曲が切っても切れない関係にあること。そして、たとえ映画を見たことがなかったとしても、坂本氏のメロディに、抑制的な静けさが漂っていること。
これらを踏まえて、果たして『Superenova Love』という曲の雰囲気とマッチしていると言えるのでしょうか?
◆平原綾香『Jupiter』と同じく陳腐な言葉に変換
今回の批判の中に、“メロディだけそのままのただの替え歌みたい”というコメントがありました。これはその通りで、今回『Supernova Love』が取った手法は、ホルストの『惑星』に日本語詞をつけた平原綾香の『Jupiter』(ジュピター)と同じなのだと思います。どちらも原曲に歌詞がない点も共通しています。
問題は、ハーモニーやメロディのスケール感によって聞き手のイマジネーションや解釈に委ねていたものが、陳腐な言葉によって矮小化(わいしょうか)されてしまったことなのでしょう。