社会人としてスタートしたら、今後自分の責任において人生のさまざまなリスク対策を行っていく必要があります。そして対策は、ライフステージごとに違ってきます。ここではライフステージごとの代表的なリスクを紹介するとともに、そのための備えも解説いたします。
ライフステージに応じたリスク対策を
独身時代には、傷病などにより就労できなくなった場合のリスクが想定されます。「怪我や病気で仕事ができない」となったときのため、貯蓄しておくなど生活費を補うための対策をしておくことが重要となります。
その後ライフステージが変わり、結婚・出産をしたとします。家族が増えれば、就労不能のリスクに加えて自分が死亡した場合のリスクも想定しておかなければなりません。
このようにライフステージによって想定すべきリスクは異なります。したがって、自分が今どのライフステージにいるかを見極め、それに応じたリスク対策を行っていく必要があります。
出産・子育て期は死亡保障の重視を
リスク対策の基本は、「発生する確率が高く、被害額が大きくなりやすいものから優先」して行っていくことが大切です。しかし出産・子育て期などは、今後多くの教育費を支払う必要があることを考えると、この時点でリスク対策として費用を割くことは難しいといったケースもあります。
そこで優先すべきは、生活に大きな影響を与える恐れのある世帯主のためのリスク対策です。家計を支えている人の、交通事故や疾病による死亡・高度障害などの「もしも」に備えましょう。
私的保険の金額設定
死亡・高度障害のリスク対策には、少ない費用で大きな保障を得られる定期生命などの私的保険(共済組合や保険会社によって運用される保険)の利用が適しています。ただし、保険金の額が多ければ支払う保険料の負担も大きくなり家計を圧迫しかねません。
かといって保険料を節約しすぎてしまうと、何かあった際に保険金の額が足りないといった事態になる恐れがあります。私的保険を利用する際の保険金の額は、「亡くなった後に家族が必要とする金額」を設定することが大切です。
私的保険は、保険料を支払い続けることが可能か、そして何かあった際には家族がいくら必要かを考え、選ぶといいでしょう。また、リスク対策として私的保険を利用する際は、保険金の額の設定に平均値などを用いるのは避けましょう。
なぜなら世帯ごとに家庭の事情は違います。平均値はあくまでも参考程度に留めておき、自分の家庭にあった長期的な収支状況を把握できるライフプランを作成するのがいいでしょう。
例:ライフプラン表
年 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
---|---|---|---|---|---|---|
夫の年齢 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 |
妻の年齢 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 |
子どもの年齢 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
イベント | 保育園 入学 |
車の 購入 |
家族 旅行 |
マンション を購入 |
||
予算:万円 | 30 | 200 | 20 | 4000 |
ただ、そのライフプラン通りに人生が進むわけではありません。状況が大きく変われば、その都度ライフプランを引き直す必要があります。
定年退職後は医療費などの発生による老後貧困への警戒を
定年退職を迎えると収入の多くを厚生年金などの老齢給付に頼ることになります。2020年度の厚生年金の年金額(老齢給付)ですが、夫は厚生年金と国民年金、妻は国民年金というモデルケース世帯で見た場合、月額約22万円となっています。
一方、総務省による2019年の「家計調査報告」によると、2人以上の世帯の支出額は毎月平均で約29万円となっています。したがって年金だけでは生活費が不足してしまうため、預金などで不足分を補う必要があります。
ではいくら必要なのでしょう。夫婦で95歳までの生活を維持するとして、老齢年金とは別に2,000万円の自己資金が必要とも言われています。また、国民年金の遺族基礎年金は、子どものいない配偶者は給付を受けることができないので、一方の死亡により年金額が減少する場合があります。
たとえば、モデルケース世帯のように、夫が厚生年金で妻が国民年金のケースでは、夫が死亡した場合、妻は夫の遺族厚生年金等を受給できる可能性がありますが、妻が死亡した場合、夫は自己の厚生年金のみで生計を維持していくことになります。
老後資金は人生の最終局面で必要となるため、資金額が不足していても挽回する時間や手段が少なく、結果として老後貧困に結びついてしまう恐れがあります。年金によって生活を維持している場合は年金額の変動に注意しましょう。
リスクへの備えには保険と貯蓄の併用を
リスクに対して貯蓄だけで備えることができればベストですが、十分な金額が貯まるまではリスクにさらされ続けることになってしまうため、預金の額が充分でない場合は、保険の活用が有効です。
保険には社会保険と私的保険があり、保険を利用する際は、まず社会保険をベースに保障額を算定しましょう。そして、不足分を私的保険で補い保険料を抑えながらリスクへの備えを進めていくのがいいでしょう。
遺族厚生年金を死亡保障の柱に
重要な社会保険である遺族厚生年金は、遺族基礎年金に上乗せするかたちで給付が行われ、その額は在職期間中の収入に応じて支払っていた、厚生年金の保険料と加入期間に比例します(報酬比例部分)。
遺族厚生年金の給付額は、厚生年金の加入者が在職中に死亡した場合などに、受けとるはずであった報酬比例部分の4分の3に相当する金額を遺族が代わりに受け取ることができます。
受給権は生計を維持されていた配偶者・子・父母など幅広い人に認められているため、死亡保障の柱としての活用が期待できます。
しかし、仕組みがやや複雑で支給要件が短期・長期の2種類があり、どちらに符合するかで給付額等が異なります。
短期要件は厚生年金保険の被保険者が死亡した場合や、被保険者期間中の傷病が原因で初診日から5年以内に死亡した場合が該当します。そして長期要件は、厚生年金や国民年金の加入期間が25年以上ある被保険者が死亡した場合に該当します。
遺族厚生年金の給付額は厚生年金の保険料と加入期間に比例します。特に加入期間の影響が大きく、これが短いと給付額が少なくなってしまいます。
そこで短期要件での受給を受ける場合は、加入期間が300ヵ月(25年)未満の場合は300ヵ月として給付額が算出されるようになっています。
しかし、長期要件で受給を受ける場合は厚生年金の加入期間のみで算出されるため、当初は会社員として働いていたものの、その後自営業となった場合などは給付額が少なくなってしまう場合があります。
また、40歳以上65歳未満の妻が遺族厚生年金を受け取る場合など、一定の条件を満たす場合は中高齢寡婦加算などによって年金額が加算される場合もあります。
遺族厚生年金は強力な年金制度ですが、給付額などの個人差が大きいため、活用に際しては専門家等へ相談をするとよいでしょう。
老後資金は公助と自助の両方で備える
住宅ローンや奨学金のように、老後資金を融資する制度が存在しないため、年金収入と預金などの自己資金で備える必要があります。たとえば、25歳から65歳までの40年間で、2,000万円の老後資金を蓄えるにはどのように取り組めばいいのでしょうか。
貯蓄のみで準備した場合は、毎月約4万円超の貯蓄を40年間続ける必要があります。こうした長期間にわたる貯蓄を成功させるコツとして、手元に残ったお金を貯蓄に回すのではなく、先取り預金や給与などから一定の金額が天引きされる財形貯蓄制度などを利用していくのがいいでしょう。
また、資産運用をして老後資金を準備することも効果的です。年利2%程度の資産運用を取り入れるだけでも大きな効果があり、毎月約2万8,000円の自己資金を投じるだけで2,000万円の老後資金を準備することも可能となります。
このようにコツコツ定期的に資金を投じる金融投資は、投資信託が向いています。投資信託は投資の専門家が投資家より資金を集め、株や債券などに投資し、その利益を投資家へ分配するというもの。
投資なので元本が保証されるわけではありませんが、長期投資することで値動きの振れ幅が小さくなり安定的な収益が期待できます。銀行や証券会社などで購入できるので、興味のある人は検索してみると良いでしょう。
NISAなどの優遇制度を活用し、資産運用の効果アップ
株式投資などの資産運用による利益には、約20%の源泉分離課税が行われるため、資産運用による老後資金の準備には、税金への備えが欠かせません。
現在は長期的な資産形成を補助するための税制優遇制度である、NISA(ニーサ)やつみたてNISA、iDeCo(イデコ)などの非課税枠を利用することで所得税や住民税への対策とすることができます。
資産運用による収益は不確実なものですが、利益に対して発生する税金や売買手数料などのコストは確実に発生するため、リスクを取って得られた収益を目減りさせないためにも、税制優遇制度の金融商品を活用していくことが重要です。