◆要領は良いからこそ、普通の人を見下している
また、菅田将暉自身は、「(主人公は)ある程度は上手いこと生きてもいけるタイプなのだとは思います。でも、それでは物足りない自分もいれば、“普通”でいることを小馬鹿にしている自分もいる一ーというラインがより“普通”な気もします。そのキーでずっと歌っていくようなイメージで演じていました」とも語っている。
なるほど、要領は良くて、普通では物足りないからこそ、普通の人を見下しているところもある……そいう人が身近にいると心当たりがある人は多いだろうし、その「あるある」な人物像に菅田将暉はこれ以上ない説得力を持たせていた。
ちなみに、その菅田将暉が「共通言語として事前に観てほしい映画作品はありますか?」と黒沢清監督に聞いたところ、「コツコツと悪事を働く男」の例としてアラン・ドロン主演の映画『太陽がいっぱい』が挙げられたそうだ。なるほど参照元として納得できる主人公像ではあるので、併せて観ても面白いだろう。
◆現代社会ならではの凶暴性
この『Cloud クラウド』では黒沢清監督が、「現代社会のリアリティを象徴的に反映するアクション」と「暴力に全く縁のない人たちが凄惨な殺し合い状態になる物語」を企画の発端としているが、ヒントになったのは実際に起こった事件だった。
それは「全く知らない他人同士がインターネット上で連絡を取り合い、ターゲットとなる人物を殺害してしまった」ものだったという。そこから黒沢清監督は「無名の者たちが集まるからこそバレないだろう」という短絡的な発想でゲームのように人を殺してしまうことがあるのか、とその恐ろしさに衝撃を受けると同時に、現代社会ならではの凶暴性を感じたそうだ。
そこに転売屋という要素を入れたのは、黒沢清監督の知り合いに転売をやっている男がいて以前から興味があったことと、WOWOWのドラマ『贖罪』の中でも加瀬亮に転売屋を演じてもらったこともあり、「主人公を転売屋にしたら、思わぬ根みを買って危機的状況に遭遇したり暴力沙汰に巻き込まれたりしてしまうことがあるんじゃないか」と考えたからだそうだ。