このワンショットの空白を置いて、ある人物が初登場する。美羽とは幼なじみ。よく図書館でともに時間を共有していた冬月綾(深澤辰哉)である。美羽がぱっと横を向くと綾がさぁっと登場する。
綾が「夏野」と繰り返す笑顔を見たこの瞬間以降、ふたりが恋仲になることが瞬間的にわかる。いい。実に的確な演出である。やっぱりテレビドラマにも映画的な空気感、呼吸感がこうして宿る瞬間が確実にある。
◆深澤辰哉が提示する存在の主張
空白のワンショットで一呼吸、しっかり丁寧に置いたことで、そのあとの深澤辰哉の初登場がぐんと引き立つ。直前の空白を残像としてだぶらせるかのように、今そこにちゃんといますよという存在のさりげない主張。
他の俳優なら間延びしていたかもしれない。これは絶対に深澤辰哉でなければいけない。みたいな存在の主張を提示している。深澤辰哉は、画面から浮き立ちながらも画面に溶けいる。
存在そのものの呼吸が聞こえる。だから「夏野」と呼ぶ、その呼び声が強調される。美羽にとっては美しい記憶を呼び起こす声。でも物語上の意味をはるかこえて、深澤の声はぼくらに直に語りかける。
◆段階的に変化したふたりのささやき
美羽と綾は、中学生以来の再会だが、お互いに相変わらずだな、なんだのと、時間の隔たりを感じさせない。図書館だというのに、周囲を気にせず興奮気味に会話するふたりに対して、図書館内の静寂をかき乱す声量に対して、画面外から咳払いで注意される。
綾も着席して仕切り直す。近況を報告し合う。声量はそれほど変わらない。するとまた会話が白熱する。今度は「お静かにお願いします」としっかり怒られる。さすがにひそひそ声になる。この声量の変化は、耳で聞かせるだけでなく、目でしっかり見る声として演出されている。