山﨑賢人30歳の誕生日を祝おうというコラム冒頭でわざわざカザンの話題を出したのは、今の日本映画界で最も“理想的な演技者”が山﨑賢人であり、メソッドに対抗できる数少ない存在だとこの機会に明言しておきたかったからだ。

 2010年代には「実写化王子」の異名を取った山﨑だが、その代表的作品である『オオカミ少女と黒王子』(2016年)を見てもらうだけでわかる。同作の彼の演技は、公開当時22歳の瑞々しさがラブコメ映画の作風と見事にマッチしながら、端正かつつややか。

 熱を出して寝込んだソファ上の黒王子こと佐田恭也(山﨑賢人)にやわらかに当たる照明の絶妙な加減は、当代随一のスター俳優を照らす証明みたいになっていた。

◆黒王子役が演技のフォーマットを規定

『キングダム 大将軍の帰還』
画像:映画『キングダム 大将軍の帰還』公式サイトより
『ストロボ・エッジ』(2015年)が前年に公開されている廣木隆一監督が演出した『オオカミ少女と黒王子』は、ラブコメ漫画を原作とした、いわゆる“きらきら映画”の金字塔的名作であるばかりか、黒王子役の山崎以降、日本映画界の演技フォーマットが規定されたといっても過言ではない。

 それ以前の出演作品としては、剛力彩芽と共演した『L・DK』(2014年)で寝床の間に仕切りをもうける『或る夜の出来事』(1934年)へのオマージュ場面があり、同作のクラーク・ゲーブルの佇まいを無意識のうちに取り込んだ山﨑が色っぽさを放っていた。

 きらきら映画ではまだ主演クラスではなかった二番手時代の『今日、恋をはじめます』(2012年)でさえ、圧倒的若々しさの中にすでにスター俳優の才能にめぐまれた気概を感じさせた。

 2010年のデビュー以来、一貫した山﨑賢人のスタイルは現在でも変わっていない。大ヒットシリーズ『キングダム 大将軍の帰還』(2024年)の番宣で出演した『日曜日の初耳学』(TBS、4月15日放送)では、MCの林修から「日本のトム・クルーズ」と言われたが、これは冗談ではなくて、山﨑賢人イズム、その唯一無二のスタイルが、世界的スターであり続けるトム・クルーズと同系統の不変的スタイルと比較されるまでになった事実を物語っていた。